第四話 意識感覚

「あったかい、」


僕は先程まで、この世の終わりのような苦痛を味わっていたはず。


なのに今はとても心地が良い。


意識があるのかないのかわからない、けど思考はできる。


目を瞑っているのか、夢なのかも判断がつかなかった。


何だか不思議な感覚だ。


左肩から全身にかけて、ポカポカしたものが巡る。


体の中からほぐされているかのように、全身に快楽が染み渡った。


何かが定着するように。



...



「あれ、」


雨音が響き渡る中、ポツンと立ち尽くしながら力なくつぶやいた。


「さっきまでここで倒れ込んでいたような...」


記憶が曖昧のままさっきまでの出来事を記憶に蘇らせる。


「...はっ、腕は!」


僕は反射で左腕の方向へ首をひねった。


「あ、ある...」


僕は不思議な感覚で腕を握ったり叩いたりする。


「なんともない...」


僕は力なく握る左手を凝視してならなかった。


そのまま、放心状態のまま立ち尽くしてしまう。


...


「...」


「お前さん」


「....」


「おーい、大丈夫か」


「.........ん?」


「おーい」

「は、はい!」


僕が驚いて返事をすると、目の前に傘をさした60代ぐらいの男性が、こちらの顔を覗いていた。


おそらくこのあたりに住む農家かなにかだろう。


「傘もささずに、風邪ひくぞ...大丈夫か?」


「あっはい!」


「そ、そうか?」


何やら疑いの目で僕の様子を伺う。


「..お前さん、なんか悩んでるなら、」

「あっ、僕のそろそろ家に帰らなくちゃ」


僕はこのおじさんに、変な心配をされていることに気がつき、話をそらした。


「すみません、どうもありがとうございましたー」


そう言い残すと、僕は軽く会釈をしながらこの場を去った。


それにしても変な気分だ。


先程まで残酷な場面が僕を直面していたはずなのに、特に変化がない。


あれは幻覚だったのか、


だとしたら、相当ヤバいな僕。


記憶が混乱している中、雨はさらに勢いを増す。


「急いで帰らないと」


そうして僕は、再び小走りで帰路についた。


...


「うわぁ、ビッチョビチョ...」


僕はなんとか帰宅し、玄関で簡単に服を絞っていた。


「とりあえずシャワー、」


僕は、なるべく短いルートで玄関から脱衣所の方へと向かった。


「んんっ」


肌にピッタリとくっついたシャツを脱ぐ。


同時に、コンビニで買った商品が無いことに気がつく。


「あぁー 外出した意味が、」


そう嘆きながら浴室のドアを開け、シャワーがある方へと体を向けた。


そして不意に自分が映る鏡を確認した。


「.........へっ!?」


思わず体をバネが弾むように動かす。





そこには、手首から左肩にかけて、青く透けた状態のなんとも奇妙な姿の腕が鏡に写っていた。













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