第十三話 僕と彼女たちと僕の宇宙
「あれ?」
しかし茉莉はひらりとそれを避けて、僕の手は空を切ることとなった。
「くっ、まだだ! 僕は諦めないぞ!」
それから幾度となく茉莉の頭に手を伸ばすが、そのいずれも容易く回避されてしまった。
「七瀬、いい動きすんじゃん。格闘技経験者か?」
そんな茉莉の動きを見て、先輩が感心したように言う。
「格ゲーで培った反応速度があれば、悠介の手を避けるなんて造作もないこと」
「格闘ゲームってそんな万能なの!? 嘘でしょ!? くそ、それならっ……」
僕はターゲットを先輩に切り替えることにした。
「あー、坂井、おまえには先輩として三つほど言うことがある」
「な、なんですか?」
「第一に、あたしはゲームじゃなくて、ガチの格闘技経験者だ。来るなら失神くらいは覚悟しとけよ」
先輩に睨まれ、にじり寄ろうとしていた僕の足が思わず止まる。
「そ、そんな言葉に、この宇宙の使徒である僕が怯むとでも……!?」
「二つ目。今のおまえみたいなキッモい奴に頭を撫でられて気持ちよくなれるわけないだろ、バカ」
おまえみたいなキッモい奴。
おまえみたいなキッモい奴。
おまえみたいなキッモい奴。
先輩のあまりにもストレートすぎる罵倒が頭の中でリフレインした。
「そんな……僕は二人にも気持ちよくなってもらいたかっただけなのに……ぼ、僕は……キッモかったのか……?」
動揺で体がガダガタと震えてきた。
「最後に」
「さ、最後に?」
「あー……その、撫でさせてはやらんが、撫でてならやってもいい。だから元の坂井に戻れ、な?」
先輩……なんて、なんて優しいんだ!
「せ、先輩ぃ……その懐の深さ……ちっちゃくても流石は先輩です……僕が間違っていました……!」
「ちっちゃい言うな! ……わかればいいんだよ。ほら、頭出せ」
言われるがままに僕は先輩の前で膝立ちになり、頭を差し出した。そうするとわしゃわしゃと荒っぽくではあるが、先輩は僕の頭を撫でてくれたのだった。
先輩の寛容さに僕は母性を感じずにはいられなかった。
辛抱たまらなくなり、その姿勢のまま先輩の胴に抱きついた。
「ママー!」
「おわぁっ!? だ、誰がママだ! は、離れろ! 調子に乗んなってーの!? た、玉石も七瀬も、こいつを止めろ!」
「うわー……坂井くん、完全に幼児退行しちゃったわねー……」
「……動画撮っとこ」
スマホの録画開始音が聞こえてくるが、二人が僕を止める様子はない。
「先輩、
「今のおまえの行動が変態そのものだろうが!?」
「もう変態でもいい! そう、むしろ僕は変態だからこそ先輩に抱きつくんだ!」
「開き直るなぁっ!?」
「でも先輩はそんな僕を受け入れてくれた唯一の人なんです!」
「そこまで受け入れてねーよ!? 離れろ、バカ!?」
「嫌だぁ! 絶対にこの絆を手放すもんかぁっ!」
「なに感動的な台詞っぽく言ってんだよっ! いい加減に離れないと殴るからなっ!?」
「殴られてもいい!」
先輩の体の柔らかさといい匂いに、僕は完全に自我を失っていた。殴られてでも離れたくないと思ってしまったのだ。
「あ、あたしは忠告したからな!?」
先輩のその言葉を最後に、脳天への強い衝撃とともに僕は意識を失った。
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