1-9・エピローグ
トリックの解説を聞き終わり、感情面の雑談を終え、河渡は伝票を手にしながら喫茶店から出た。今回の紅茶代は河渡持ち、いわく事件解決のお礼なのだそうだ。明崎さんはそれを笑顔で受け入れ、河渡を見送った。
退屈を、そうとわからないよう振る舞うのはやはり骨が折れた。しかしこれでまた二人きりだ。俺は一週間前と同じように席を移動すると、二杯目のコーヒーを注文しようとした。
「じゃあ、今日はこれで解散ですね」
「えっ」
思わず声に出た。
解散? まるで先程まで展開されていた河渡へのケアが本題だったかのような口振りだ。いや、だとしたら俺という助手は場に必要だったか? 呼んでもらったことに関してはもちろんありがたい気持ちだが、これでは、あまりに、
あまりに、拍子抜けだ。
「じゃあ、黒繰さん。また」
そう言うと明崎さんはあっさり席を立ち、喫茶店を出ていった。
俺は、しばらく席を立てなかった。
「お兄さん、注文ッスか?」
金髪ピアスの店員が席までやってきて声をかけた。俺はなんとなく人恋しい気分になり、店員の男に言った。
「君の仕事は何時に終わるの?」
「そッスね~……今日は夕方五時ッスかね」
「じゃあ、そのあとお酒でも飲みに行かない?」
俺からの申し出に、店員は何度か目を瞬いた。
「はあ、まあ、いいッスけど……。お兄さん、なんかあったんスね。わかりました。オレでよかったら全然話聞くッスよ」
「君、名前は?」
「
「よし、今朝方くん。今日は俺が奢るから俺の気分が上がるように全力で話に付き合ってほしい」
「了解ッス。お兄さんはたぶんそろそろ常連さんだし、さっきのお姉さんとの行方も気になるとオレは思うんで。お供します」
「じゃあコーヒーお願い」
注文を受けた今朝方が去ったあと、俺は背もたれに体を預け深く息を吐いた。
◆第一話『故意に落とす魔法』了
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