知らない家族

マリー視点


私はあの名前も分からない恩人が

塀を越えていくのを見届けました。

あの人に恩返し、少しはできたかな?

あの人は変なことを言っていたけど、

悪い人に見えなかったから、これが正しいって

信じてみます。……あら?


なんだか騒がしくなってきて……こっちに来てる?

私はあの人がいなくなったことをばれたと思い、

ひとまず梯子をどうにかしようとしましたけど、

力の弱い私では多分隠せないでしょう。

それならどうやって誤魔化せば……

今逃げて姿を見られてしまったら自白と同じ、

かと言ってここに残っても

疑われることは間違いない。

どうしようどうしよう……

あの人が磔にされている姿を思い出して、

私の姿が重なった。

これがばれたら、私も?

私だって人は助けたいけど、

それで私が死ぬのは嫌。

……ごめんなさい。


「みんな!こっちに来てください!」


私は叫んでしまいました。

私の声を聞いた村の人、母さんも来ました。

みんなこの梯子を見て、

私が何を言いたいか分かっているようです。


「この梯子、血がついてます。

 あの人はこの梯子を使って逃げたのでは?」


「マリーはそれを見たのか?」

「やっぱり血抜きなんてする場合

 じゃなかったんだ」

「そもそもどうやって抜け出したんだ?」


みんなはそれぞれ色んなことを言っています。

……私が逃したと疑われてないみたいです。

良かった。そう考えて安心してしまう私が憎い。

私は今恩人の身を危険にしているのに、

自分の身の安全しか考えてなくて、

私は恩知らずではないと思いたくても、

こんなことをしている私は、

恩知らず以外の何でもない。


「私は村の外を見に行くわ

 あんな魔物が近くにいるなんて危ないわ」


母さんが言いました。

これは、これだけは避けないと!

母さんは王都で冒険者をしていますが、

その中でも有名だと聞いています。

あの人が見つかったら殺されてしまう。


私は母さんを止めようとしたけど、口が開かない。

ここで母さんを止めたら疑われる。

母さんは強いからここで止める人はいない。

むしろあの人のことを考えると、

みんな行ってほしいくらいでしょう。

それなのに止めるなんて、

まるであの人に

生き残ってほしいと思ってるみたいで―

いや、思っているんですけど。


「あの魔物は騙し討ちが得意よね?

 それなら一旦山かどこかで

 別の人に姿を変えるはず」


私が臆病になっている内にここまで話が――

今じゃないともう止められない。

私は覚悟を決めました。


「すみません。

 そんなことないんじゃないですか?」


「どう言うこと?」


みんなの目が私に集まります。

その目線はまるで棘みたいで、

私の体に刺さっていっている気がしました。


「あのひ―魔物は、

 人に化けるほど知性があるのでしょう?

 それなら山を探すこともばれていて、

 裏をかかれている可能性も有りませんか?」


「そうね、イドラさん。何か人間擬きに関する

 情報ってあったりしないかしら?」


「ないですな。

 あの魔物について分かっているのは、

 人の姿で村や町に現れることだけ、

 その習性もわかっていないのです」


……誤魔化せているかな?

ひとまずあの流れを止められて安心しました。

ちょっと話し合った結果

みんなは警戒を強めるだけにしたようです。

既にいる人にはならないから、

倒すならともかく、守るだけなら簡単らしいです。

あと、人間擬きが出たなら

酒場のフェイクさんの話をしなさいと

みんなに言われました。

……誰ですか?その人。

みんなは知っているみたいで

私だけ知らないのもその人に申し訳ないので

引きずるのはやめました。


―――――――――――――――――――――――


私は、なんとかあの場をしのげて

安心していました。

私を疑っている人が1人もいないなんてことは

ないだろうけど、あの感じなら大丈夫だと思います。


それと、あの人のことを

少し調べることにしました。

あの人は私の兄だと言っていたけれど、

私にそんな記憶は一つもない。

だから、私が騙されているのか、忘れているのか、

はっきりさせたかったのです。


私の家族はこの家で暮らしています。

それならあの人の部屋もどこかにあるはずです。

一階にはお風呂等の生活に必要な部屋と、

母さんと父さんの部屋があります。

ここにはないでしょう。


私は2階に上がっていきました。

2階にあるのは客室と私の部屋。

まあ、客室と言ってもお客さんが来たことなんて

私が物心を持ってから一度もないんですけどね。


……やっぱり部屋が足りない。

あの人が言っていたことが本当だと思える

証拠が一つも見つからない。

こうなったら、全部出すか。


私は自分の部屋に入ってタンス。

引き出しを全て開けていく。

私が書いた日記の一つでもあれば、どうとでも……


……一つも見つかりませんでした。

まあ、そりゃそうですよね。

私が日記を捨てたんですから。

むしろあった方が怖いです。後は……

一つだけ鍵がかかっている引き出しがあります。

この鍵ってどこにあるのかな?

全く記憶にありません。


あら?私のペンダントが落ちて……え?

私のペンダントが床についた途端、

ペンダントが開いて鍵が出てきました。

これって、ロケットだったっけ?

どちらにせよ鍵はありました。


私は鍵を開いて引き出しを引くとその中には――

あの人の面影を感じる男性の絵と、

兄の行動が細かく、

私の字で書かれている記録がありました。



後書き

文字のサイズ変えられるの初めて知った。

前の話も変えます。


ちなみにマリーの家のモチーフは

セキスイ○イムです。


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