うわべの平和


「それじゃあ、

 歓迎の宴会でもしますかな。 

 酒場のフェイクが

 いい肉を買ったらしくてですね」


酒場の……フェイク?そんな人いたか?

まあ気にしないでいいだろう。

歓迎会でもしてくれるって言うのに、

楽しまなきゃもったいない。


……まあ、

村の人達はあまり歓迎してなさそうだけど。

そりゃ名前は分からない、

一人っ子の兄を名乗る奴は

怪しいとしかいえないだろうしな。

しょうがない。

マリーが話しかけてくる。


「楽しんでってください。

 この村はあなたに記憶が

 あるなら余計ですけど、いい所です」


「そうだな。全部元通りにしてみせるさ」


――――――――――――――――――――


俺は今酒場で歓迎会をしてもらっている。

やっぱり久しぶりに食べるけど

この酒場の料理は美味しい。

これからはここで

食べていくことになるのかな?


「おい、お前どっから来たんだよ〜」


「……この村なはずです」


……酔ってる奴に絡まれた。どうしよう、

普通に面倒くさい。

酒場で働いている人の気持ちが分かった。

お疲れ様です。俺は……女の体になってから

知ることが沢山あるな。え?

これは性別関係なく状況のせいだって?

ちょっと黙ってもらおう。


俺はそう言おうとして振り向いたけど、

後ろには壁しかなかった。

じゃあ今のは誰が?

誰が言ったのか知りたくて周りを見る。

皆は騒いでるけど、俺に話しかけてるやつは

さっきの酔ってる奴1人。

そいつの声じゃない。


……気のせいか。

俺はまた肉を食べようとする。

え?机がすり抜けた?!

俺は体重を前にかけたせいで

床に倒れ込む。

何で?俺は確かにご飯を取ろうと……

あれ?体がよく動かない。眠くなって来た。

……何で皆は俺を見てるんだ?


――――――――――――――――――――


……ん?手足が縛られてる?

それになんだか……明るいな。もしかして、もう朝か?

宴会のときは何か急に眠くなって、

そのまま。

俺は村の人達に迷惑かけちゃったな。

後で謝りに行くか。俺は目を開いた。


あれ?まだ夜じゃん。

皆が松明を持って俺を見ている.

何だ?って待て、何で俺が磔にされてる?


「目が覚めたようです、村長」


「そうか。

 おい人間擬きよ何故この村に来たのだ?」


「人間擬き?何だ、それ?」


村長は俺のことを人間擬きって呼んでいる。

人間擬きって何だ?全く記憶にない。

でも村の人達は知っているみたいだ。


「隠さんでもよろしい。

 貴様が人間擬きなのは

 もう気づかれているのだ」


「だから分からないって!」


「そんなに言うのならば教えてやろう。

 この世界には、人の姿そのままで、

 誰かの家族を名乗る魔物がいる。

 しかし、その家族は其の者をしらず、

 名前を聞いても分からないという。

 その魔物の名を人間擬きと言うのだ」


「俺は魔物じゃない!俺は人間です!」


そんな魔物がいるなんて聞いたことがない。

そんな魔物が本当にいるなら

もっと広まってるはずだ。


「もういいと言っておるだろう。

 早く終わらせなさい」

 

終わらせるってどういうことだよ?

皆俺を魔物だと思ってるってことだろ?

それなら、もしかして……


「ヤンク……」


ヤンクが俺の前に立つ。

その目は殺意に溢れている。

……そっか……そうなんだ……

この村は火消しなんかじゃない。

火がつかなかっただけで

火を消すわけじゃない。

こいつらは争う機会さえあれば争ってた。

何を勘違いしてたんだ。

平和なんかじゃない。

ここは、俺の知ってる村じゃない。


俺の体が槍で刺される。剣で斬られる。

石を投げられる。ああ、俺って馬鹿だな。


――――――――――――――――――――


――今、どうなってる?

もう何もされてない。

てっきりこのまま死ぬもんだと思ってたが、

どうやら、これで終わらないみたいだ。


いや、違うな。聞こえてくる。

…………血抜き?ああ、血抜きか。

私を失血させるのか。

足音も遠ざかっていく。

どうやらつけるとこに切れ込み入れて

血抜きの準備は完了ってとこか。

自分の名前も分からなくって、死ぬって

本当に私って馬鹿だな。余計なことしないで

村に帰らなければ私、生きれたのかな?


あれ?縛りが緩くなって、降ろされた?ん!?


「ごほっごほっ」


何か飲まされた。何だ?


「ちょっと静かにしてください」


……マリー?何でここに?なんだか、

意識もはっきりしてきた。


「時間がないので移動しながら話をします。

 私についてきてください。

 質問も基本なしです」


マリーは知らないのか?

私は足も刺されて……あ、

全部治ってる。

そうか!あれはポーションか!

マリーは走って行くので、

私も急いでついて行く。

……何でマリーは私を助けてくれたんだ?


「じゃあ、説明します。

 私はあなたを助けました。以上です」


「え?」


「……静かにしてと言いましたよね?

 バレたらあなた死にますよ?」


予想外なほど短い説明に

驚きを隠せなかった。


「続けます。私はあなたを信じたかった。

 父さんも母さんも、

 皆魔物って言ってるけど、

 私はあなたを助けたかった。

 魔物でも人間でも、

 恩人を見捨てられなかった。

 そんなもんです」


あっ。ちゃんと説明してくれたみたいだ。

それにしても、マリーがあの時のことで

あんなに恩を感じてるとは思ってなかった。


「……ありがとう」


「本当にあなた死にたいんですか?

 今なら私が殺しますよ?

 っとこっちですね……」


前に村人がいるのを確認すると、

マリーが遠回りしていくのでついて行くと、

村の塀についた。そこには梯子もある。


「ここまで準備するのは

 大変だったんですよ?

 とりあえず、ここを出てからしばらく

 全ての街、村には行かないでください。

 絶対にばれます。この村の人間擬きの話が

 あなたの事だと

 違和感を持たれなくなるまでです。

 それからは好きにしてください」


「本当にありがとう!」


私はマリーに感謝してもしきれなかった。

本当に死ぬと思ってた。

私は梯子を登って外へ出る。

そこはさっきまでとは

全く違うように見える。

……急ごう。私は山の中に走っていった。


これが私、名もない少女の全ての始まりだ。





後書き

とりあえず最初から九話あげてみたけど、

おかしいとこあったら訂正してほしいし、

何か間違ってたら教えて欲しいです。


これからよろしくお願いします

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