異様な景色


何だ、この扉?さっきまでなかったはずだ。

絶対にそうだ。

流石に扉があったら俺でも気づく。

……よく分からないものには、

触れないでいいよな?


俺は扉をスルーして洞窟を出ようとしたけど、

本当は気づきたくなかったことに

気づいてしまった。


……扉が開いてる。これで俺がこの扉の先に

行かなければならなくなった。

扉が開いてるなら、開けた人もいる。

もし、それがマリーなら?

さっきの状況だと、動揺していて扉の先に

行った可能性も充分なほどにある。


「……ヤンク。お前はそこで待っとけ」


俺は覚悟を決めて扉を開いて進んだ。

その先には、書斎があった。

でも、おかしい。

ここは絶対に普通じゃない。

俺の体がここから離れろと

言っているような気がした。

体から冷や汗が止まらない。

だって、おかしいじゃないか。

右も左も、前も、壁が見えない。

あの洞窟にこんな広さはない。

あったとしても、

端が見えない書斎はおかしい。

誰がここまで本を集めたんだ?


俺はすぐ近くの本棚を見てみる。

そこには

まるで統一感のない本が収まっていた。

厚い本があるのかと思ったら薄いのもある。

高そうなやつもあれば

そもそも本って呼ぶのか

分からないようなものもある。


いや、そんなこと考えてる場合じゃない。

マリーはここにいるのか?

マリーを呼びたかったが、

ここに俺でもマリーでもないやつが

いたら不味い。

俺は声を出さず

奥を目指してみることにした。


――――――――――――――――――――


俺は走っていた。途中までは歩いてじっくり

確認しようかと思っていたが、

壁が見えなくて

流石に焦って走り始めていた。けど……

何でまだ壁が見えないんだよ?

俺だいぶ走ったぞ?


本棚の間隔が広い訳じゃない。むしろ

俺の村で本が集まってる場所と比べたら

狭い方だと思う。なのに、本当にここは

何を集めてるんだよ?

そもそも本当にマリーは

ここにいるのか?

俺がマリーに追いつけないのは有り得ない。

ならマリーがどこかで曲がったのか。

そもそもこの中に入ってすらいないのか。

何か判断できるものがないか?


俺はこのままだと

埒が開かないと思って引き返す。

多分この先にマリーがいることはない。

むしろここで進んでも時間の無駄だろう

じゃあ右と左、どっちに行こうか。


人ってどこに行けば分からないとき、

左に行く習性があるらしい。

村にある本でそんなこと書いてあったっけ。

マリーは書斎に入って左に行ったなら、

俺は扉に向かって右、こっちが正解か?


俺は書斎をさらに進んでいくと、

変化があった。

なければ嬉しかったんだけどな……

本棚の本が雑にばら撒かれている。

こんなことマリーはしない。これで

何かがここにいるのが確定した。

やはり声を出さなくて正解だったか。

……ん?


前に人影が見える。

俺はその人影に向かって走る。

良かった。

あの人がマリーじゃなくてもこれで

ここのことが分かる。

これならマリーのことだって!


俺は全てなんとかなるように

思えて嬉しかった。

少し床にばら撒かれてる本には申し訳ないが

そんなこと気にしてられないので

踏んでいく。

そして座り込んでいる人のもとについた。


「すみません。

 あなたってここの人ですか?」


「……うん?」


其の人は意識が朦朧としているのか、

はっきりとした返事をしない。


「……あなた……誰?」


「すみません。俺はフレイと言います。

 妹を探しに来たんです。見てませんか?」


あっちから話しかけてくれたので

多分意識ははっきりとしてきているだろう。

それにしても自分の名前を

名乗らないのは無礼だった。

自分を名乗るついでに

妹のことを聞いてみる。


「妹?妹って……あれのこと?」


其の人が指を差した方を見ると、倒れている

マリーがいた。もしかして……


「失礼なのは分かってます。でも、

 何でマリーを助けてくれなかったんです 

 か?」


俺は気を張って其の人に質問した。

ここで帰ってくる言葉次第で

全部変わってくる。

できれば、

いい答えであってほしいと願ったが、


「あの子、マリーって言うの……

 あの子は、少しうるさかったから、

 痛くした。そしたら倒れただけ……

 別に死んでないよ」


駄目だ。俺はこの人を許したくない。

俺は叫んでしまった。


「ふざけるな!」


「うるさい」


俺はあの人から

放たれた魔力に吹き飛ばされる。

やばい、また最初からになってたまるか!

俺は隣にある本棚を掴んで衝撃に耐える。

くそっ油断してた。

あんな急にやってくるとは。

しかし、これではっきりした。

あいつは敵だ。


あいつが

放った魔力が止まったことを確認すると、

俺は即座に殴りかかった。

いくらあれだけの魔力が

あっても体力は無さそうだから、

魔力全開なら!


あいつは俺が殴ろうとしているのを見ると、

一冊の本を引き寄せてこっちに向けた。

馬鹿にしてるのか?

俺はその本を掴んで投げ捨てた。

そのまま全力で殴って終わり。


俺はそう思ったけど、力が抜ける。

何をされた?!視界もぼやけてきた。


「君は馬鹿だね。何も躊躇わない。

 それじゃあ、バイバイ」


あいつが俺の横を通る音を聞いて、

俺は意識を失った。


――――――――――――――――――――


「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」


マリーが俺を呼ぶ声が聞こえる。

良かった。無事みたいだ。

これ以上心配させたくないし、起きるか。

俺は体を起こしてマリーに聞く。


「マリー、大丈夫だった?」


マリーはぽかんとした様子で俺をみる。


「何で私の名前知ってるんですか?」


「え?そりゃ俺はマリーの兄だからだろ?」


マリーは当然のようなことを聞いてくるが、

その目は、純粋な疑いの目だった。


「いや、私に兄はいませんし、

 そもそもあなたは女性でしょ?

 何を兄だなんて言ってるんですか?」


俺はマリーが言っていることを

理解できなくて、

ふと下を見ると俺の短いはずの髪が、

地面にまでついていて、

マリーの瞳には知らない女性が映っていた。





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