やっぱり性根は変わらない


この山は割と木も密集していないから

夜でも視界がとても悪い訳ではないけど、

これじゃあ自分がどこにいるのか

分からなくなる。

……どうしよう。

マリーがどこにいるか分からん。

……いつも遊んでた山で待ってるって

言ってたな。

この山でマリーとなにをしたことがある?

木の実集め、鬼ごっこ、

……洞窟探検…これか!

この山にある洞窟は一つだけ。そこなら

あの言葉だけで充分場所は特定できる。

じゃああとはそこに行くだけ……ならなぁ。

そもそも自分ってどこにっ?!


山の上の方からマリーの悲鳴が聞こえた。

マリー?!俺は急いで走り出す。

何があった?

ただ動物に驚いただけならそれでいい。

だから無事でいてくれ。

俺はマリーの悲鳴が聞こえたあたりに着くと

洞窟が見えた。やっぱりか。

俺が洞窟に入って進んでいく。

洞窟は昔遊んでいた時よりも狭くて、

自分が成長したことを実感させられる。


おっ?広いところに出たみたいだ。

……こんなとこ子供の頃は

来てなかったな。

全く記憶にない。


俺はこの広いところのどこかに

通路があるはずだと

端を回ってみる。

この洞窟に分かれ道はなかった。

それならここで終わってないはず。

俺は通路を探していると、

元々来た通路から足音がした。

そして、その先にはマリーとヤンクがいた。


「マリー!」


「フレイ。お前がここまでくるとは

 思ってなかったよ」


ヤンクが頭良さそうなことを言う。

あいつ本当にヤンクか?

いや、どっちでもいい。


「マリーを返せ!」


「そんなこと言うんだったら

 捕まえてみろよ。

 ほら、来い!」


「嫌!」


「マリー!」


ヤンクはマリーを連れて通路を戻っていった。

俺も急がないと。

ここであいつを捕まえないと

マリーが本当に危ない。


俺がヤンクのことを追いかけていると

分かれ道にでる。どっちか迷ったが、

右から足音がするので右でいいだろう。

道なりに進むと俺はまた広い場所にでた。

ヤンクは振り返って

こちらに剣を向けてくる。


「なあ、ヤンク。

 お前今まで馬鹿みたいだったの、

 もしかしてあれって嘘か?」


俺の記憶にいるヤンクならもう追いついて

殴り倒してると思う。

それにここまで追いつくのに

時間がかかったのは初めてだ。


「そうだ。俺はお前に勝てなかった。

 どれだけ鍛えてもな。

 だから待ってたんだ。

 成人するのを。

 俺は剣士の才能が伸びたけど、

 お前はどうだ?」


「……ペンが一本」


「ほらみろ、こんなペン一本しかないやつが

 剣士の俺に何が出来る?」


「何がって、決まってんだろ?

 覚悟を決める。俺にはそれだけだ!」


俺はヤンクに向かって体当たりをする。

ヤンクは完全に油断してたみたいで

体当たりが綺麗に入る。

そしてマリーをヤンクから引き離して叫ぶ。


「マリー、逃げろ!」


マリーは走って行った。

これなら俺はヤンクに集中するだけでいい。

とは言ったものの。

俺はどうしよう。

ここで逃げたらこれからあいつは

調子に乗って好き勝手やるかも知れない。

だからここであいつを一回倒す。


「お前、

 俺との立場の違い分かってねえのか?」


ヤンクは少し切れてるみたいだ。

その調子でどんどんこっちをみてもらおう。


「立場の違いって何だ?

 俺が上でお前が下ってことか?」


「あ?」


「だってそりゃそうだろ。

 お前、剣一本持っただけで何か変わるのか?」


「ふざけんなよ。ちゃんと教えてやる!お前は下だ!」


ヤンクは完全に切れたようでこっちに剣を向けて、

こっちに走ってくる。……が。

あいつはさっき実力を隠してたみたいな感じだったが、

やっぱりあいつの根は変わってない。

俺はヤンクの魔力を見てみると

剣にほとんどが集められている。

それは悪手だぞ?ヤンク。

母さんが言っていたことを俺は覚えている。


――――――――――――――――――――


「ねえフレイ?

 あなたって将来何になりたい?」


「僕はね、ママと同じ冒険者になる!」


「そう!それならね、

 私たくさん教えてあげる。

 ママね、これでも強いんだから!

 皆知ってることだけど、体は大事なのよ?

 大人になると、馬鹿は忘れちゃうのよ。

 まぁ、フレイにはまだ早いわよね。

 私の中で好きな言葉があるの。

 『武器は振っても振られるな』てね」


――――――――――――――――――――


あの時は難しいことを言っているなあ。

なんて

思っていまいち分かってなかったけど、

ヤンクを見ればよく分かる。

魔力を纏うのは武器じゃなくて

体を優先してするんだ。

だけどヤンクは

武器があればいいと思ってるのか

体に魔力を纏っていない。

これなら、いける。


俺は魔力を纏って迎えうつ。さっきと比べて

ヤンクの動きが遅くなってる。これは、

俺の身体能力が上がってるからか?

ヤンクは剣を振り下ろしてくるが、

まるで当たる気がしない。

俺はヤンクの懐に入り込むと、

腹を全力で殴る。

よし、大丈夫だ、ちゃんと戦えて……


俺は素手でもヤンクと張り合えると分かり、

少し安心していた。

この調子でいけば勝てる。

そう思っていたが……

ヤンクが倒れた。


「おい、嘘だろ?」


魔力を纏うだけでこんな変わるのか?

未成年は絶対に1人で外に出てはいけないと

他の村では言われているらしいが、

そりゃそんなこと言われるわ。

魔力がないと

今のヤンクみたいになるわけだ。


「いやー。こいつどうしよ」


ヤンクを村まで引きずっていくのは

かなりキツい。

割と距離があるのにいつやり返してくるか

分からないやつと一緒に帰りたくない。


俺はヤンクの扱いに困って

一旦マリーの無事を

確認しようかと思って

洞窟を出ようとした。けど……


「は?」


俺の目の前、さっき俺が通ってはずの場所には

――一つの扉があった。

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