第15話 反魂術の真相
「一緒に働くなんて……嫌です。僕は未成年ですよ。あの杖は
「確かに、
「だから俺は、人間達がしっかりと、この技術をコントロールできるようにならなきゃいけねえって思う。そのためには、妖怪の自立を目指す
緋出は一理あると思った。軍事機密を巡っての国家対テロリストの対決、という単純な構図では割り切れないものがあるようだ。両者の対立は描く未来像の違いによるものなのかもしれない。
「お前はもはや部外者ではありえない。これまで多くの妖怪や、幾人かの法師と出会ってきたことだろう。だからここで、俺の知ってることを洗いざらい全部話す」
「全てはとある新種のキノコから始まったことなんだ……」
「キノコ?」
「厳密に言えば
「ええと……。変形菌が胞子を放出するための状態を
「まあ大体そうだ。百鬼招具に
「ええええええ!」
緋出は目を
「ツキノホコリは光刺激を受けることで、子実体から変形体になる性質を持っている。そしてどんな形に変形するかは、その時受けた電磁波の波長や周波数の如何によるわけだ」
「しかし、それがどうして妖怪になるんです?」
「妖異・伝説アーカイヴっていうのがあってな。今世紀の初頭にとある国立機関の
「そんな便利なサイトがあったんですね」
「ああ。このアーカイヴは伝承の起源地や出典みたいな基礎情報に加えて、妖怪の3Dデータまで内蔵している。思考パターンや能力まで再現したスグレモノ。VRセットさえあればバーチャル空間の妖怪と触れ合えるって
牛王坊や茜は元々データ上の存在なのだ。彼らの実在を信じ始めていた緋出にとって、この事実は少なからぬ衝撃を与えた。
「ん?大丈夫か。薄々感づいてると思ってたんだが……。まだ続くんだから、よく聞いておけよ。今から二十五年前、百鬼招具に搭載されてる
「でも、妖怪の中にはしゃべるやつもいますよね。変形菌に声帯はない。火を吹いたりする妖怪だっている。火炎放射器官なんて怪獣じゃないんですから、再現不能では?」
「そこで体感チップの出番だ。あれはVR空間だけじゃなくて、現実空間でも作用する。バグみたいなもんだけどな。ツキノホコリが再現した妖怪を、VR上のデータとみなして脳内のチップが誤作動を起こす。しゃべってるように聞こえる、火を吹いてるように見える。脳内で実際にそう処理されてるんだから、現実に体感してるのと変わらない。
妖怪に近づくたびに体内端末が停止してしまうのは、体感チップがバーチャルモードに入ったからだ、と緋出はようやく理解した。妖気のせいなどではなかったのだ。
「だから、体内端末の代わりに
「そういうことだ。以上がDE・M・I・SEシステムのあらまし。だからここでいう妖怪は超自然的な、
緋出は、牛王坊の過去についてよく知らない。また茜の性格についても、出会って日の浅いことゆえよく分からない。だからもっと長く一緒にいて、彼らのことを理解したいと思っていた。しかしそうした内面すらも、誰かが考えたキャラクターの設定に過ぎないものなのだとしたら―彼らの人格が、途端に薄っぺらなものになるような気がした。緋出は無意識のうちに
「お前……いや。
「岸丸さん。今日はどうもありがとうございました。今夜はもう遅いので失礼します」
「ああ。なんかあったらまた来なよ」
緋出の身体はすっかり元通りに動かせるようになっていた。しかし、心の奥がずしりと重い。己の胸に手を当てる。茜は懐の中で眠っている。心臓がざわつく。それを彼女に気取られないよう願いつつ、帰路についた。
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