第13話 拍動が聞こえる
狸の妖怪は後ろ足で立って背伸びをしながら、鞭を振り回しつつ緋出を待ち構えていた。
「これならどうだ。狸の天敵は犬。昔話じゃテンプレだ」
確かに、
「
路次の奥には、茜の姿は見えなかった。その代り、左手に分かれ道が続いており、走り去る妖怪の後ろ姿が認められた。
「あいつが茜を連れ去ったに違いない。だけどどうやって?小刀を飲み込んだわけじゃないだろうに」
緋出は路次を右に左に折れまくり、地下に潜って階段を上り、壁にぶつかり空き缶につまずきながら、妖怪を追いかけまわした。気付くと彼はスラム街に迷い込んでいた。赤さびた金属でできた小屋がちらほら並ぶ未舗装の通りを、彼は走る。目の前にはスクラップの残骸が進路を塞ぎ、妖怪が立ちすくんでいた。ようやっと標的を追い詰めたのだ。
「また突風攻撃か?同じ手には乗らないからな」
緋出は杖を地面に突き刺して、鞭が生み出す風をしのぐ。風が止んだのを見計らって、杖の先端を思いきり妖怪に叩きつける。杖は見事尻尾に命中し、体からは小刀が転がり落ち、それはたちまち人間の姿となった。茜だった。
「茜、これは一体どうなってるんだ」
「うーん……。そこで寝てる狸に捕まえられて、びっくりしちゃって。思わず刀に変化したら、こいつの体にしまわれてたみたい」
見ると妖怪の肥大した尻尾は二股に分かれており、一方が破けて穴が開いていた。彼女はここに「収納」されていたらしい。茜はそこにしゃがみ込んで、尻尾をしげしげと見つめる。「えいっえいっ」もう一方の尻尾を手刀の印で切り開くと、鮮血がじわじわと染み出してきた。今夜被害に遭った動物のものだろうか。
「血を飲むんじゃなくて集めてたのか。何のためか知らないけど、とどめを刺しておくか」
緋出が杖を振り上げた瞬間、
「よくも、邪魔をしてくれましたね。杖の法師よ」
緋出と茜が振り向く。そこには、一人の少年がいた。時はもう
「お前は妖怪か、それとも僕と同じ妖怪関係者か?何のためにこの狸を放ったんだ」
「狸って……。法師だというのに、あなたは
少年は馬鹿にしたような、呆れたような様子で、緋出を睨みつけた。
「牛打ち坊は家畜―広く言えば人間の飼育下に置かれている動物に対して、吸血する習性を持ちます。そのために鞭から
少年は背中に手をかけて、弓らしきものを取り出した。
「そう、こういう風に」
腰のベルトから小さなガラス
「呼び出すんです」
弦つるを軽く引っ張って音を鳴らし、弓を口元に引き寄せる。
「
弓の上端―
「はじめまして。
「断る。僕の父は何者かに殺された。僕の目的は、遺品であるこの杖の素性について知ることだ。お前らの手先になって、こんな物騒な武器を使い倒すなんて御免だね」
「ならばこちらに返していただきましょう」
「どうせお前らのものじゃないんだろ」
「その通り。それは我らの作ったものではない。しかし我らのためのものです」
「テロリストはやっぱりお前達だったってことだな」
「テロリスト。人間側であるあなたにとってはそうなのでしょうね。どうです、
「逢魔座が研究所サイドの組織だったとしたら、杖を狙ってるのは政府側の人間のはずだ。だから事件の後、杖のことは警察には黙ってた。国が妖怪軍団を雇ってるなんて、笑えない話だからな。でももう分かった。逢魔座がテロリストサイドなんだったら、ここで通報してしまえばいい。国がお前らを取り締まってくれる」
「そうですか、残念です。しからば、あなたには杖の法師を降りていただきましょう。代わりなら、とうに見つけておりますから」
ぐしゃり。緋出は、胸を何かでえぐられた感触を覚えた。
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