第10話 払子の法師③
「もうお手上げよ。
「お
「これよ」
黒髪の女―
「出家でもないのに払子とは奇妙な取り合わせと思っていたが、こんなものがお主の虎の子であったとはな」
見れば小さなものである。滑らかな木質の柄の先端に、ふさふさとした白い毛の束がついている。柄の中央辺りには
「これをどう使ったのだ?」
「器物妖怪のモデルとなった道具をこの払子で撫でるの。例えば
「なるほどな。器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を
牛王坊は
「『付喪神絵巻』ね。おそらくそれがモチーフだわ。捨てられた古道具は化け物となり、人間に仕返ししようとする。でも彼らは復讐心だけで動いているわけじゃない。本当の願いは―」
「
「その通りね。仏具である払子に触れることが、彼らにとっては
牛王坊は両手に
「あなたもそうなのかしら?天狗は
「知ったような口をきくな。人の身で化け物へと堕落してしまった者の心中など、お主には
牛王坊は佐野を残したまま、響太を抱えて石室を後にした。
◇
「どーしたの?」
「突然」の問いに、緋出は慌てた。いや、それは彼にとってそう感じられたに過ぎない。なぜならば石室の中でついた
「ありがとう。君のおかげで助かった」
と、ぼつりと言った。
石室で彼女を呼び出した時、
「殿、ご友人を救出いたしましたぞ」
響太を肩に担ぎながら牛王坊が石室から出てきて、緋出は忘我から引き戻された。
「佐野はまだ中におりますゆえ、速やかにここを立ち去るべきです。響太殿をお救いできたからには、これ以上の深入りは禁物かと」
「うん。本当に良かった……。僕は牛王坊に助けられてばっかりだな」
「そんなことはありませんぞ。そこの小娘を私が退治してしまったら、我らは閉じ込められたままになっておったのですからな。それを
「小娘とは何ですか!私は霊剣の精ですよ。天狗なんて一刀両断ですっ」
「何を!付喪神
「付喪神なんかと一緒にしないでください。器物の精と付喪神は別物!」
「二人とも落ち着いて。それよりも響太を家に届けなきゃ」
「お任せください。緋出殿と響太殿、お二人を運んで飛ぶなど私には造作もないことです」
牛王坊の頼もしい言葉。
「じゃ、ばいばーい。殿と……天狗ヤロー」
「天っ狗野っ郎!?」
そう言ってツルギミサキは古墳の手前の坂を駆け下りて、どこかに消えていった。牛王坊と同じように、彼女にも自分だけの名前があるのだろう。それを聞いておくべきだったと、緋出は思った。傍らに目を遣ると響太は大あくびをして、辺りを見回している。牛王坊が
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