第9話 払子の法師②
石室の暗闇の中、
「ともかく、私の推測は当たっていたようね。杖の機能を確かめられたのだから、ここに
「待て!
「
佐野はそう言って、石棺の中に左腕をさしこんで何かを持ち上げてみせた。それが響太の体であることは、緋出にも容易に察せられた。しかし響太は気絶でもしているのか、一言も発しない。佐野による
「そういえば、今のあなたには響太君が見えなかったわね。体内端末と妖怪との相性は悪いんだから、法師たるもの
スマートフォンのライトが点灯する。それが響太のいる方へと向けられる。浮き上がる石棺の
「あのー。すみません」
「誰かに呼ばれた気がしたんですけど……」
「私、佐野が呼んだの。後にいる男は敵だから、やっつけっちゃって♪」
「どこでしょう?暗くて見えませーん」
少女、いや妖怪が自分のすぐそばまで近づいている気配がする。
「さあどうするの。私について来るか来ないか。優柔不断があなたの死因になるわよ」
「僕は……。」
ぶちっ。何かがちぎれる音がした。緋出は途端に首の圧迫から解放され、肩に何かが乗っかっていることに気付いた。
「緋出殿。先程は不甲斐ないところをお見せ申した」
緋出の耳元で
「牛王坊!?どうやってここに?随分小さくなっちゃって」
「大天狗の衣が石室の入り口で邪魔をしておったので、
「しまった!入口の
佐野が
「形勢逆転でござるな、佐野とやら。天狗の眼光は
烏姿の牛王坊は緋出の肩を降り、元の姿に戻る。
「あなたが敵なのー?」
「んん? おおそうじゃ。まずはお主から片付けてやろうぞ」
「いいや違う!」
「僕らは敵なんかじゃない。本当の敵は君の後の女だ」
「そーなの?じゃあ証明してよ」
ツルギミサキというのは、案外話せば分かる妖怪であるらしい。こちらは銃ではなく剣なのだが。
「あぁ、えーと。これならどうだ!」
緋出が杖を振り回すのに合わせて、
「ん……あっ。その音!呼ばれた時に聞こえたんだ!」
随分と原始的な方法であったが、彼女には通じたらしい。緋出は「ツルギ」という名前からして、切断攻撃に長けているのではないかと考えていた。あまりにも安直な推論であるが、名は体を表すとも言うではないか。ここで彼女を倒してしまったら、もう脱出できる可能性は残されていない。
「今僕らはここに閉じ込められてるんだ。頼む、入口の覆いを切り払ってくれないか?」
「了解!」
「させるか、テイテイコボシよ行け!」
「ふふふふ。太刀を使うまでもなかったようだな」
佐野の繰り出した
「殿はここからお逃げください。佐野を退治してご
「殿だっけ?早く行くよっ」
ツルギミサキに手を引かれながら、緋出は開口部へと向かう。手探りゆえ彼らにはよく見えないが、つるつるとしたカーテンらしきものにぶつかったので
「これかな?えいっえいっふーっ」
ツルギミサキは右手で
「蛇帯、襟立衣、テイテイコボシ。ふははははは。皆器物の化け物ではないか。
牛王坊の大笑が石室を揺るがしていた。
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