第8話 払子の法師①
「
「ようこそ。
網膜ディスプレイの発するライトを頼りに狭い羨道を通り抜けると、少し広くなった空間がある。その中央には
「
「影女?」
緋出は妖怪に関する知識はほとんど持ち合わせていない。ディスプレイで検索しようとした瞬間、右腕に何かが巻き付いて、検索画面がダウンしてしまった。
「うわっ!」
「事情が呑み込めていないようね。あなたの腕を縛っているのは
「何だと……。それでどうして端末が動かなくなるんだ」
「あなたも妖怪と一緒にいるんだから、もう分かってるんじゃない?妖怪が人間の間近にいるからよ。詳しい理由が知りたかったら、私の下僕となることね」
腕が猛烈な力で締め付けられる。緋出は杖を取り落とし、叫び声を上げた。その
「外で待ってるんでしょう?あなたのしもべが。でも無駄ね。私は
「緋出殿!いかがなされた!」
外で牛王坊の声が聞こえる。だが退路は断たれた。こうもやすやすと攻略されてしまうとは。緋出は己の無策を恥じた。
「お願いだ。響太のことは解放してやってほしい。僕のことは……」
恐怖のあまり、後に続く言葉が出てこない。
「賢明ね。さて、百鬼招具とはどういうものか、下僕であるあなたに知ってもらうことから始めましょうか」
「そもそも、あなたはどうやってその杖を手に入れたの?」
友人と自分の命を危険に晒した当人と口をきくことほど、屈辱的なこともそうあるまい。しかし蛇帯の存在が、緋出に対する佐野の立場を
「……父さんの書斎にあったんだ。遺言から使用法を推測して、
「遺言、ね。杖を起動したのは例の
「ああ。それも遺言の通りだ」
「なるほど。百鬼招具は杖を含めて全部で六つあるの。そして妖怪を召喚するために必要なトリガーは一つ一つ異なっている。百鬼杖のトリガーはおそらく、妖怪伝承のある場所」
「そうか。あの楠は天狗がいる場所だって、聞いたことがある」
「天狗杉に天狗松、天狗
危地にありながらも、緋出の心は徐々に平静さを取り戻しつつあった。杖にまつわる謎はきっと、父の死の真相とも繋がっている。核心へと一歩一歩、近づいているのだ。
「河童石なら河童が、鬼の岩屋なら鬼を呼べるはず。現地に行く必要のあるのが難点だけど、応用の範囲は広いわね。」
「うぐっ!」
シュルシュルとか細い音を立てながら、蛇帯が緋出の右腕から首に移る。絞殺されるかと思ったが、意外なことに締め付けはすぐ緩くなった。
「実際に試してみましょう。ほら、腕が自由になったんだから、杖を拾いなさい」
「ここで?」
「この剣塚古墳はツルギミサキ伝承で知られる場所なの。古刀の
緋出はしぶしぶ杖を拾い取り、その
緋出と佐野の間には、何者かのうずくまっている気配が感じられた。今はもう暗闇に覆われて見えなくなっているものの、石室内が明るくなった一瞬間の記憶を頼りにすれば、それは―少女ではなかったか。いやいや、美少女であったのではなかろうか。否むしろ、絶世の美少女であったという可能性は考えられないだろうか。
「おい下僕、何考えてる?」
「あっ。いや、何でも……ないです」
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