第7話 横穴の虜囚
冷たい。両手に伝わる感覚だけが、
ぴと。むき出しになった響太の腕に、何かが取り付いた。右目から発せられる、ディスプレイのライトに照らしてみる。長くてか細い触覚には不釣り合いな、小ぶりでずんぐりとした
「いやー、
「どうも! お先に失礼」
響太は腰を
◇
「
土曜日の昼下がり、緋出と牛王坊は例の書斎にいた。牛王坊はやや伏し目がちになって、
「う、うん。何?」
「殿と御母堂は時々、右目を光らせて何か独り
「いやいや、これは体内端末のディスプレイが出す光でね。現代人は
緋出はディスプレイを起動して、右目を光らせてみせた。それから設定を
「おおっこれは!大勢の
「そうじゃなくって……。いや、そう
牛王坊は興奮のあまり、ますます画面ににじり寄る。すると突然画面が消えた。
「あっ、また故障しちゃった。
「殿。術の成功には、たゆまぬ
緋出は釈然としない。春の学期始めということもあって、百々爺の一件のあった日、緋出ら生徒は健康診断を受けていた。しかし体内端末には何らの異常もみられなかった。端末が最低限の機能を残して停止するタイミングといえば、バーチャル空間にアクセスしている時くらいだろう。これは没入感を高めるための
「もしかして」
緋出は数歩後ずさり、牛王坊から離れる。すると端末が復旧し、元のようにホログラムが投射された。
「ほー。妖怪の近くにいると端末が使えなくなるみたいだな。となると何かしらのエネルギーを放出してるってことかも」
「えねるぎいとは?」
「目に見えない力のこと。気、とも言えるかな」
「はて。化け物が一様にそのような気を放つことなど、ありうるものでしょうか」
「うーん。これが世に言う妖気ってやつかな?」
その矢先、右目のディスプレイが点滅した。見知らぬ者からの着信、それはアドレスからして旧式の体外式通信機―スマートフォンから発せられているようだった。
「緋出……。俺だ、響太だ……。」
「あなたが杖の法師ね?」
響太の
「お友達の響太君が会いたがってるの。剣塚古墳まで来てくれる?」
杖―響太―剣塚古墳、三者を結ぶキーワードはそう、妖怪しかない。
「……
「ご名答。例の杖について、あなたの持ってる情報は限られてるはず。だから先輩である法師の私がレクチャーしてあげようってわけ」
あからさまな罠。危険な申し出。それでも立ち向かわなければならないと、緋出は半ば強迫的な決意を固めていた。それは響太の安否を気遣ってか、はたまた杖にまつわる謎を
「
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