第3話藤崎美和の失敗

「続いては、藤崎美和さんの得意分野である、行方不明者の捜索です。こちらにイラストがあります。これは、3週間前に忽然と姿が消えたA子さんの失踪当時の服装です。黄色い帽子に水色のワンピース。そして、ベージュ色の肩掛けバッグで黒いスニーカーです。A子さんの霊視をしてもらいます。こちらには、自宅近辺の地図が用意してあります。最後に目撃されたのは、自宅から1キロ離れたこのスーパーです。それでは、藤崎さん。A子さんの霊視をお願いします」

藤崎は頷くと、目を閉じた。

しばらくすると、

「川が見えます。河川敷に草野球などをする広場が見えます」

MCは地図を確かめた。

「藤崎さん、川ですか……あっ、あります。自宅から約束3キロ放れた場所に川が流れています。取材スタッフは現場に向かって下さい」

観覧席がどよめいた。

「野見山教授、ご意見は?」

「今の段階ではコメントのしようがない」

野見山は藤崎を睨んでいた。

「河川敷の野球コートの近くに、船の様なものがあります。そこから、強い霊気を感じます」

MCは、

「それは、A子さんの霊気ですか?」

「はい。そうです」

番組は取材スタッフが現場に到着するまで、しばしの時間、A子さんの自宅近辺を映していた。

「現場に到着しました。今、藤崎さんのおっしゃる、河川敷の野球場が見えます。そこから、少し離れた場所にボートが転がっています」

取材スタッフの今井は、番組MCに報告した。

「今井さん、ボート付近を捜索して下さい。私はボート付近にA子さんの強い霊気を感じます」

と、藤崎は叫んだ。

今井はボート付近を隈無く捜索した。

「こ、これは何だ!」

「こちらMC、今井君何があった」

今井は薄汚れた、黄色い帽子を手にしている。


「あの帽子に、つ、強い霊気を感じます」

藤崎はそう叫んだ。

「こ、これは失踪当時のイラストにもある、A子さんの帽子に似ています。私はこの帽子がA子さんのモノと断定します。今井君、もっと付近を調べて!」

「分かりました」

「野見山教授、あなたはこれをどう説明しますか?これは、れっきとした霊能力ではありませんか?」

野見山は薄ら笑いを浮かべ、椅子から立ち上がった。

「藤崎美和さん。君は進むべき道を誤った。役者になりなさい」

「教授、どう言う意味でしょうか?」

「私の知り合いに、警察関係者がたくさんいる。失踪したA子さんの当時の服装は実は違うのです。明日から全国に示されるA子さんの服装は、黒のパンツに白のシャツ、リュックサックに青のスニーカーです。そのイラストは私が考えたニセのイラストです。番組ぐるみで不正を働いている可能性があったので、今まで黙っていました。その点は謝ります。失踪当時、A子さんは黄色い帽子なんて被っていなかったのだよ。藤崎さん。君はあの帽子を自分で隠したんだろ?君は打ち合わせであのイラストを見ている」

MCが、

「こんなのは、フェアじゃない!」

「真実を晒すのに、フェアもアンフェアもないっっ!私を批判する前に、この悪質な霊能力者を糾弾したまえっ!」

MCは言葉を失った。藤崎の表情は強張っている。

観覧席の戸川は、

「黒井川さん、大変な事になりましたね」

黒井川は、にこりとして、

「実に面白い。どうなるんだろうね?」

と、笑っていた。

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