第2話野見山教授VS藤崎美和
「では、続いて藤崎さんの霊視能力の実験です。公平を期すため、スタジオ観覧者の中から1人選びたいと、思います。どなたか、ご協力いただけませんか?」
観覧席は静かになった。
「ワトソン君、霊視してもらいなよ」
と、黒井川は戸川に声を掛けたが、
「恥ずかしいですよ、黒井川さん」
「先生」
「はいっ」
「あっ、今、はいっと返事した、背の高い男性の方」
戸川は、つい「先生」と言う言葉に返事してしまい、藤崎の霊視を受ける事になった。
戸川は循環器内科医である。
「初めまして、藤崎美和です」
と、戸川に声をかけると、
「は、初めまして。と、戸川です」
戸川は緊張を隠せなかった。
「緊張しないで、リラックスして。では、あなたの霊視を始めます」
藤崎は目を閉じた。間も無く、
「戸川さん。あなたは、何か悩み事がありますね」
「は、はい」
「お仕事か、それに付随する関係で」
「そうです」
「特に人間関係で悩んでらしてる」
「そ、その通りです。最近、先輩にふりまわされて。今日も、このスタジオに来るのに苦労しました」
「見えます。あなたのおじいさんは、亡くなっていませんね?」
「はい。81歳なんですが内科医として現役で仕事をしています」
スタジオがどよめいた。
「あなたは幼い時、随分、歳の離れた方に影響を受けましたね?」
「はい。小さな時に、入院して祖父が私の病気を治してくれて、医師を目指すきっかけになりました」
「おじいさんを大切にすれば、悩み事も解消されるでしょう。以上です」
黒井川は怒りの表情をしていた。
MCが野見山教授に、
「今の霊視では、戸川さんに人間関係で悩み事があること、おじいさんがまだ生きていらっしゃる事、おじいさんに影響を受けた事、全て当たっていました。どう、でしょうか?」
野見山教授は、
「このような事が霊視だって、バカげている。順に説明しましょう」
「お願いいたします」
野見山教授はメモ帳を開き、
「戸川さんに、人間関係で悩み事がある事。この世に悩み事のない人間はいません。男性なら大概仕事関係です。そして、煎じ詰めれば人間関係です。続いて、『おじいさんは、亡くなっていませんね』これは、どちらにも取れる質問です。亡くなったのか、亡くなっていないのか、どちらを答えても当たります。最後の影響を与えた人物。大抵は、お年寄りが影響を与えます。以上、これは霊視でもなんでもない。これは、リーディングと言って占い師が使う手段です。藤崎さん、あんたは占い師になりたまえ」
野見山健吾は、藤崎を睨んだ。
「私は占い師ではありません。ただ、戸川さんの脳の中を読み取っただけです」
MCが、
「これは、トリックも何もありません。野見山教授の意見も傾聴に値しますが、わたしは、藤崎さんの霊視能力を信じたいと思います」
と、言うと観覧席から拍手が上がった。
野見山教授は、何も気にせずメモ帳を開いていた。
雛壇の芸人は、意見が分かれた。
観覧席。
「ワトソン君」
「はい」
「君は僕が悩み事の種なの?」
「ま、まあ。黒井川さんと行く先々で殺人事件に巻き込まれますので」
「小説だからねぇ」
「何ですか?」
「いや、なんでもない」
テレビ収録は続く。黒井川は、何やら楽しそうだ。ワトソン君こと戸川も、ニヤニヤしていた。
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