警部・黒井川シリーズ。「汚れた霊能力」
羽弦トリス
第1話スタジオ観覧
黒井川警部とワトソン君こと、戸川達也はテレビのスタジオにいた。
「ワトソン君、帰ろうよ。女の子か、おばちゃんばっかりじゃないか」
と、黒井川が不満を漏らすと、
「何、言ってるんですか、黒井川さん。テレビに映るって、喜んでいたのに。観覧なんて滅多に出来ないんですから」
ワトソン君は、張り切っていた。
彼らが観覧している、番組は「霊能力者・藤崎美和の世界」であった。
スタジオが慌ただしくなった。
スタジオ中央に藤崎美和は座り、雛壇には芸能人、そして、トリックを見破る役の中都大学理工学部教授・野見山健吾が着座した。
収録の前日。
藤崎は河原にいた。知人の宮川琴美と一緒に。
「今度のギャラは全て、私に回してね」
と、宮川は藤崎に言った。
「分かったわ」
「あなた、私にいくら借金してるか理解してるよね。50にもなって、ホスト狂いとは」
2人は河原で何か探した。
陸に上がった、ボートを見つけた。
「このボートの下でいいんじゃない」
「そうね」
藤崎は女性モノの黄色い帽子を隠した。
「霊能力も無いくせに、これで金が稼げるなら、私が代わりたいものね」
宮川は、タバコに火をつけた。
2人は、帽子を隠し藤崎の車に向かっている途中、藤崎は隠し持っていた、モンキースパナで宮川の後頭部を思いっきり殴った。
ギャッ!
「な、何を。す、するの?」
藤崎は無言で、宮川の頭部にスパナを振り下ろし、宮川は絶命した。
藤崎は、辺りが暗くなるのを待ち、死体を移動させた。
MCの芸能人がカメラに向かって、言葉を発した。
「さ、始まりました生放送、霊能力者・藤崎美和の世界。今夜はどんな能力があるのか徹底深掘り。ゲストに霊能力を批判し続ける、中都大学理工学部教授・野見山健吾さんもいらっしゃいます。対決はこの後で!」
野見山は、ブスッとした表情であった。
「まずは、藤崎さんに霊を呼んでもらい、念写実験です」
藤崎はポラロイドカメラを前に、呪文を唱えた。
そして、スタジオの雛壇に向かってシャッターを切った。
出来上がった写真をカメラでアップした。
その写真にスタジオはどよめいた。
「黒井川さん。あれは、オーブですよ」
と、ワトソン君は息を荒くして、呟いた。
黒井川は無言であった。
「皆さん。ご覧になりましたか?写真には、霊とされるオーブがはっきり写っています。藤崎さん、このオーブの霊は何でしょう」
藤崎は、無表情で、
「このスタジオにいる地縛霊です」
と、答えた。
「野見山教授、これは間違いなく霊の写真です。どう、説明されますか?」
野見山は、スックと立ち上がりポラロイドカメラを手にし、藤崎と同じ場所でシャッターを切った。
その写真には、やはりオーブが写っていた。
「こんな、写真は練習すれば誰でも撮れる。光量のコツがあるんですよ。こんな、写真を地縛霊だって。藤崎さん、あんたは当たり前の事をして、何を言っているんだ!」
野見山は自分の席に戻った。
「藤崎さん、何か言いたい事があれば言って下さい」
MCが言葉を掛けた。
「特にありません。野見山教授も地縛霊を写したのです」
その言葉を聞いたMCがシャッターを切ったがオーブは写らなかった。
「ふん。馬鹿馬鹿しい。これは、コツがいるんですよ」
と、野見山教授が発言すると、
「あなたも、無意識に霊能力を働かせたのです」
と、藤崎が言うと、
「……話しにならん」
そう、呟いた。
観覧席の黒井川はニヤリとした。
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