第17話 魔人ピクセル

 夜は祭りだった。

 久しぶりに作物を収穫できたのが嬉しかったらしい。

 中央のシリ像の付近では大きなイノシシが丸焼きにされている。

 みんな楽しそうだ。

 おれもその輪に入り、というか主役にしたてられて、飲めや食えやの大騒ぎをした。


 翌朝、とりあえず起きれたが、お腹が痛かった。食べ過ぎたようだ。

 何やら外が騒がしい。

 とりあえず近くにいた人に尋ねてみる。

 どうやら畑に知らない者がいるらしい。

 多分、魔人がこの状況を確認しに来たのであろう。

 早朝からご苦労さんなことだ。


 急いで畑へ向かうと一人の魔人が畑に立っていた。

 畝を避けて立っているあたり、本当に悪い奴か、と一瞬疑ったが、敵であることに違いはない。


「何だ、何だ、これは、作物を収穫した後があるではないか。どうした、どういうことだ。吾輩の魔力が破られたということか。どうなんだ。どうなんだ」


 話し方が少しおかしい。


「そこの君、急いでここに走ってきたではないか。何か関係者か。どうなんだ。そうなんだな」


 俺は指をさされた。

 あまり指をさされるのは気持ちの良いものでは無いものの、そこはひとまず置いといて俺から名乗ることにした。


「俺はトオルだ。ここの畑で作物が成長しない問題を解決しに来た」

「そうか、そうか、俺はアンドロイド教の魔人でピクセルだ。そうか、そうか。お前がアクオスを倒したというトオルか。不思議な力を使うんだよな。わかった、わかった」


 何がわかったかさっぱりわからないが、話せないやつではなさそうだ。


「あー、ピクセルさんとやら、今回はあの不思議な技は使わずに普通に拳で殴り合いたい。その準備をしたいから、ちょっと待っててくれないか。」

「なんだ、なんだ。準備とな。わかった、わかった。待ってやるから準備するがよい」


 今回は別の方法を試してみることにした。

 まずは自分のステータスを表示させるために、『ヘルスケア』を起動させた。


塩須透

レベル1

力:10

素早さ:10

体力:10

魔力:10


こんな感じである。異世界転生後、まったく経験値を得る行動をしていないため、レベル1のままである。これを、公式ペンシルで書き加える。


塩須透

レベル1兆

力:10兆

素早さ:10兆

体力:10兆

魔力:10兆


 よし。

 こんなものか。


「ピクセル、待たせたな。こっちの準備は完了した」

「おおう、おおう。準備が終わったか。それなら1対1で勝負だな」


 ピクセルは戦闘の構えを取った。

 俺は棒立ちのままだった。


「どうした、どうしたトオルよ。構えないのか、そうなのか。」

「いや、これが俺の構えだ。遠慮せずに殴ってきていいぞ」


 これは相手を挑発することになるのだろう。

 俺としては自分がどれくらい強くなったか、確かめるために、ピクセルの一撃は受けようと棒立ちしていた。

 案の定ピクセルは怒声を上げた。


「ふざけるな、ふざけるな。トオルよ。そんな構えがあってたまるか。しかも殴ってもいいとはどういうことか、どういうことか。なめられたものだ。そうなんだな。殴っていいのだな」


 ピクセルは俺の方へ突進してきた。

 突進の威力を乗せて俺を思いっきり殴ろうとしている。

 俺は避けることもせず、そのままピクセルの拳を顔面で受けた。

 鈍い音がして俺は殴られた。

 しかし俺は吹き飛ばされることもなく、逆にピクセルは殴った方の拳にダメージを受けたようだった。


「っつ。なんだ、なんだ。どうした、どうした。殴ったはずなのに、吾輩の拳の方が痛いのはなぜなんだ。どうしてなんだ。」


 そのまま俺は何も言わずに、思いっきりピクセルの腹を殴った。

 力10兆の威力は絶大だった。

 そのままピクセルは倒されてしまった。

 思いっきり殴ったつもりだったが、からだが引きちぎれるようなスプラッタ状態にならなかった。

 心の奥底では手加減をしていたのだろう。


「農民のみなさん。今見ていた通り、アンドロイド教の魔人ピクセルは倒されました。そのため、農作物が育たない呪いは解けました」


 今日もまたお祭り騒ぎになった。

 根本原因が解決したのが伝わったためだ。

 お祭り騒ぎをしたくなる気持ちもわかる。


 俺はそれを見届けて、気分転換に畑を眺めていた。

 そういえば倒したピクセルはどうしたっけ。あのままほったらかしにしていたと思うが、無事に帰れたのだろうか。

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