第9話 コルタナの集落

 さて、目的地の集落だ。

 すでに夜だったからどこか寝る場所を確保したい。


 しかし、気が付いたのだが集落自体がおかしい。

 何か襲撃の後のように見えた。

 所々建物が壊されていた。


 『地図アプリ』で確認したが、宿も食堂も出てこなかった。

 唯一出てきたのは、コルタナ像だけであった。

 俺はそこへ向かった。


 コルタナ像らしきものがあった。

 半壊していて上半身がなかったのである。

 その前には老人が座っていた。


「こんにちは。旅の者でトオルという。見たところ襲撃があったように見えるが、何があったのか」

「放っておいてくれ」


 老人が言い放った。


「わしは何も求めん。静かに暮らしたいだけなんだ。どうして放っておいてくれないんだ」

「だがこのままだと。あんた一人で野垂れ死んじゃうよ」

「もともと我々は、コルタナ教という廃れつつある宗教を信仰して、この集落でひっそりとくらしていたんだ。コルタナ教徒として消滅できるなら本望なのだ。それをあのアンドロイド教のやつらは」


 どうやら3つめの宗教はアンドロイド教というらしい。

 今まで知らなかった。


「これを気にシリ教に信仰を変えてみたらどうですか」

「アンドロイド教も、シリ教も一緒だ。出て行ってくれ」


 老人は顔を真っ赤にしている。

 どうやら説得は無理なようだ。

 しかしこのままというのも、後味が悪い。


「悪いことは言わない。ここだと生活もままならないだろう。ロンロ村へ行ったらどうだ。食堂に行って、俺の名前を出せば、食事と寝る場所を提供してくれるはずだ。別に改宗しなくてもロンロ村で暮らすというのはどうだ」

「うるさい。うるさい。うるさーい」


 老人は怒鳴った。

 肩から息をしている。

 説得は難しいようだ。

 どうしてこの老人は、かたくなにこの集落にこだわるのだろう。

 俺は半壊したコルタナ像を見て考える。

 どうしてこの場を離れないのだろうか。

 俺はiPhoneXXを『過去撮影』のモードにした。


「やっぱりこういうことが可能なのか」


 画面には壊される前の、りっぱなコルタナ像が映し出された。

 老人に壊れる前のコルタナ像を見せるために、撮影して『写真アプリ』で確認した。

 そこには破壊前のコルタナ像が映し出されていた。

 そうしたら知らない人からlineの友達申請がきた。

 名前はコルタナだった。迷わずに申請許可をするとline通話がコルタナから入った。


「盗撮禁止」

「盗撮じゃねーよ」

「だって…」

「…」


 会話が続かない。シリは騒がしかったが、コルタナはあまりしゃべらない女神らしい。


「とにかく今の現状は把握しているんだろ。この老人を安全な村へ移動させたいから、助けてくれないか。コルタナだって信者が増えることはあきらめたかもしれないが、残った信者が不幸になることを望んでいるわけではないだろ」

「ん…わかった…」

「拡大解釈。『写真アプリ』内の画像を印刷できる」


 コルタナはそう言うと、line通話を切ってしまった。

 『写真アプリ』を確認したところ、印刷ボタンが追加されていた。

 俺は復元したコルタナ像を印刷してみた。

 しかし、どこからも印刷されなかった。

 

 待つこと30分。昨日の『Udon Haitatu』の青年が現れた。

 老人もいるところに急に現れないでほしい。

 パニックになってしまう。

 老人は青年に気が付いてない様だ。

 俺にしか見えていないのだろう。

 便利である。


「これ、注文された印刷物です」

「こんなところまで配達ありがとうよ」

「いえ、お金貰えるならどこへでも配達しますよ」


 配達サービスだと、ちょっと時間がかかって面倒だなと思ってしまったが、俺は青年から荷物を受け取り、中身を確認した。

 修復されたコルタナ像の写真が入っていたので、老人にそれを渡した。

 老人は何のことかわからない様子だったが、写真を受け取り、画像を確認すると、ぽろぽろと涙を流していた。


「本物のコルタナ様じゃ。ありがたや。ありがたや」

「これでこの集落を離れて、ロンロ村へ行く気になってくれたかい」

「わかった。コルタナ様の像は壊されたが、この絵がある。どこへでも行くぞ」

「それならロンロ村へ行くとしよう。持ち物があったら持ってきてくれ。早速移動しよう」

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