第3話 商人ネルネコ

 iPhoneXXをいじりながら歩く。

 死ぬ間際に『歩きスマホダメ。絶対に』とは思ったのだが、ここは大草原。


 人もいなければ、車もない。

 気にせずにスマホをいじる。


「ワイヤレスヘッドホンは持ってないな」


 ポケットを探すが入っていない。

 持ってこれたのはiPhoneXXだけのようである。

 周りに人がいないので気にせずにiPhoneXXのスピーカーから音楽を流しながら歩く。


「スマホで音楽垂れ流しで歩いてたら、日本ではヒンシュクものだろうな」


 誰もいないから独り言が多くなる。本当に淋しくなったらシリと会話をしよう。

 その時、シリからら連絡が入る。


「音楽を流しながら歩いたことが拡大解釈され、絶対領域の能力が解放されました。これにより、音楽が聞こえる範囲には透さんに悪意を持った者は入れなくなります。また、攻撃も全て防ぐことができます」

「大盤振る舞いな能力が解放されたものだな」

「そうですね。めったに音楽を流しながら歩く人も多くないでしょうから」

 

 俺は『ヘスルケア』のアイコンを操作してみる。

 自分のステータスが表示された。


塩須透

レベル1

力:10

素早さ:10

体力:10

魔力:10


 これが一般的なのか、平均より低いのかわからない。

 とりあえず自分のステータスが確認できることはわかった。

 ちょっと一手間かかるのが面倒だが。


 これが普通の異世界なら「ステータスオープン」の一言で済むはずなんだが。

 そんなことは『イミダス』にすら載っている常識である。

 

 『地図アプリ』を見ながら歩き続ける。

 すると画面に赤い点が一つあらわれた。


「これは何かトラブルか、魔物のマークかな」


 赤い点だから多分、良くないことだろう。

 俺はそう決めつけると、慎重に行動することにした。

 見つからないように木に隠れながら赤い点へ向かう。


 遠くに馬車が倒れているのが見える。

 あそこが赤い点の地点だろう。


 人が2グループに分れて対立しているのが見えた。

 商人風の男1人と盗賊風の男3人である。

 商人が盗賊に襲われているのが定石だが、どうだろう。

 会話が聞こえるところまで隠れながら近づいた。


「さっさと積み荷をよこしな。そうすればケガをしないですむぜ」


 盗賊風の男が言う。

 盗賊決定である。


「これは遠い隣国から仕入れてきた荷物です。簡単に手放せません」


 こちらは商人で決まりだな。

 定石通りだったので、商人を助けたいのだが、どうしようか。


 手助けする手段が思い浮かばない。

 この問題はWEBで調べても答えは出ないだろうな。

 そうすればやることは一つ。シリへline通話することにした。


「今の状況も見ているのか」

「はい。商人が襲われていますね」

「あれを助けたい。手を貸してくれないか」

「女神が手を貸すことはできません」

「なら、どうすればいい」

「iPhoneXXの『探す』の機能を拡大解釈しておきます。あとは自分で考えて下さい。女神が手助け出来るのはここまでです」


 そこでシリとの通話は切れてしまった。

 俺は考える。『探す』を拡大解釈するとどうなる?


「なるほど。そういうことか」


 俺は攻撃方法を理解したが、それが絶対におかしいとも思っている。

 失敗したら俺も殺されるのだろうか。

 俺は木に隠れながら、iPhoneXXを盗賊の背後へ山なりに投げた。

 この時点で盗賊には当然見つかった。


「何だお前は。今何かこっちに投げたよな」

 それらの言葉を無視して俺は先制攻撃を加えようと『iPhoneXXよ手元に戻れ』と念じた。


 そうすると勢いよくiPhoneXXがこちらに飛んできたが、途中に障害物があった。

 そう、盗賊の後頭部である。

 ごずっ

 すごい痛そうな音がして、盗賊の一人が倒れた。


 どうやら成功したようだ。

 この攻撃方法はなかなか恥ずかしいな。

 そのまま俺の手元にはiPhoneXXが戻ってきた。


 あと2人盗賊が残っている。俺にできることは同じことである。

 盗賊が理解できていない内に、同じことをもう2回繰り返した。

 商人もあっけにとられていたが、盗賊が倒されるのを理解すると、素早く盗賊を縛り上げていた。

 3人とも縛り上げた商人は俺に挨拶をしてきた。


「ありがとうございます。盗賊に荷物を奪われていたら、大損害を受けるところでした。お礼をさせてください。私は行商人のネルネコ・ドラネコ申します。ネルネコとお呼びください」


 どこかのゲームを思い出させる名前である。


「俺はシオス・トオルだ。さっきの投擲武器に関しては説明を勘弁してくれ」

「わかりました。命の恩人です。事情もおありでしょうから何も尋ねません」

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