第9話 支え合う

 リーヴルから夢の香りが消えて久しい。

 そろそろ、姿が見えなくなってしまう頃だろうか。

 そばにいても、姿が見えなくなってしまうと、寂しい思いをさせてしまうに違いない。

 夢を見ない人間には貘は見えない。それは突然見えなくなってしまうものだ。

 見えなくなるまでに、一人でも立っていられるようにできるだろうか。

「リーヴル、あのね、夢を見なくなってしまうと、私の姿が見られなくなってしまうかもしれないんだ」

 リーヴルは目を丸くし、寂しそうな顔になる。

「見えなくなってもそばにいるからね。でも、見えないと、そばにいてもわからなくなってしまうと思うんだ。だから、君が一人でも立っていられるように、これから生きていられるように、生きるための術を身につけてもらおうと思う」

 リーヴルは首を横に振っている。

「いざとなれば、親御さんのところに戻るんだ。町に戻るのは正直怖いと思う。勇気がいると思うよ、出てくる時あんな目に遭ったからね。でも、どうか君には強く生きてほしい」

 レーヴは少し苦笑した。

「無責任に放り出すつもりなんてこれっぽっちもなかった。でも、悔しいけれど、そういう生き物なんだ。見えなくなっても、ずっとそばにいるって約束するから」

 うつむき、手を震わせている。

 レーヴは自分の無責任さを悔いた。夢をずっと見てくれるわけではないってわかっていたはずなのに、旅に連れ出したりなんかして。先見の明があればよかったのに。

「間に合ったわね」

 レーヴは声に素早く反応した。妲己だ。

「留守はどうしたの?守ってくれないの?」

 レーヴは目を丸くして妲己に問い詰める。妲己は髪をさっと手で払い、ふっと笑ってみせた。

「悪いこと、なにもしないって約束が一番だったはずよ」

 妲己の後ろからひょっこりとソーンが姿を表す。

 ああ、懐かしい。昔知り合った頃のような、無邪気な姿にレーヴはこみ上げるものがあるのを感じた。髪はとっても長くなって、より一層魅力的になっている。

「やっほ。久しぶり」

 相変わらず無邪気で、接しているこちらも元気いっぱいになれそうだ。

「久しぶり。妲己が連れてきてくれたの?本当に?悪いことしないを通り越して、すごく親切なことしてくれてるじゃん。どうして!?」

 驚いていると、妲己は少し得意げに話すのだ。

「今はいい女なのよ。色んな意味でね。どう?今の私」

 信じられない気持ちだったが、その言葉は本当らしい。

 リーヴルは興味深そうにソーンを見ている。特に髪の色を。

「綺麗!すごい。本当にラピスラズリみたい」

 少し元気になってくれたようだ。良かった。これなら安心して見えなくなれるというものだろう。

「レーヴ、安心しないでね。ちゃんと見守って、ちゃんと育てるのよ。別に、一人立ちできなくったって、ソーンがいるからきっと大丈夫だと思うけれどね。ちゃんと、後腐れないようにしなさい。私の手助けはここまでだから」

 そう言って、妲己はどこかへ姿を消してしまった。


 それからしばらく三人で談笑をした。

 ソーンの今までの出来事――思い出、夢、どうしていなくなったか――をたくさん聞いた。親の引っ越しでいなくなっていたらしい。

 挨拶くらいしてくれても良かったのに。

 そう心の中で呟いて、ハッとした。同じことを、リーヴルにもしようとしていたのだ。

 思えば、私もリーブルも、相手に依存していたのだ。依存して、ずっと一緒にいられるわけではないことを忘れ去っていた。

「これからは、三人で協力して、助け合って旅をしよう!」

 ソーンの提案に、二人は強く頷いた。頷き、前を見据えた。


 最初は何をしたら良いのかわからなかった。

 今思えば、捨てられていたリーヴルを拾ってから、ほとんどずっと一緒にいたので、一人になる時間を少しずつ合理的に増やそうと思った。でも、レーヴにはどうしたら一人の時間が増えるのか本当にわからなかった。

 わからなかったので、リーヴルが眠っている間、ソーンにこっそり相談をしてみることにした。

「んー。移動は一緒にするものだし、野宿の準備する時とかどうかな。レーヴは食べられる木の実とかを探しに出かけるところから、リーヴルちゃんは、ご飯の用意をするところからってどう?私は夜空でも眺めておこうかな―なんて、冗談!私はテント組み立てちゃうよ―。こういうの、協力って言うんだよね!」

 ソーンはキラキラと輝く夜空の星そのものだった。

 とっても良い提案だった。ちょっとずつ、一人でいる時間を作って、一人で生活する力を培う。一石二鳥だ。いや、誰かと協力して何かをするのも入っているから、一石三鳥だ。

「依存ってね、誰もがきっとやっちゃってることだと思うの」

 ソーンはいつになく真面目な顔で話しだした。

「本だったり、アニメだったり、夢だったり、お酒やタバコ、いろんなもの。ないと、生きていきづらい世の中だから、誰かが心の安らぎを求めて寄りかかっちゃうんだと思う。知らず知らずのうちに。それって、本当にダメなことなのかな」

 レーヴはダメなことだとちっとも思えなかった。

 こんな世の中を生きるには、暗闇を抜けて進むには、照らしてくれる明かりが必要なのだ。

 海の真ん中で星を頼りに舵を取るように、外の光を目指して洞窟をでるように。

「タバコやお酒は体悪くしちゃうから、私はダメって言っちゃうけどね。ただ、あんまり寄りかかりすぎちゃってるから、いけないよって言われちゃうんだと思う。何一つ依存してない人なんて、きっといないんだよ。みんな、なにかに救いや癒やしを求めてるんだよ」

 言い終わると、いつものような無邪気な笑顔で微笑むのだった。

「リーヴルちゃんの髪の毛とかしてこよっと。サラサラして気持ち良い手触りなんだよ!シルクみたいで!」

 眠っているリーヴルの髪を梳かしに行ったソーンの背中を見送る。

 ずっと会わないうちに、本当に大きくなった。背丈がとかじゃない、存在が、心が。

 変わらなかったのは、私だけなのかもしれない。

 リーヴルは今、一生懸命一歩ずつ、ゆっくりと踏み出そうとしているところだ。

 彼女は人で、私は妖怪だ。人は良くも悪くも変わり、成長する。私も、変わることができるのだろうか。

 ふと、自分の姿が貘からバクになったことを思い浮かべる。人のイメージに依存しているとはいえ、ひょっとすると、自分も変わることができるのかもしれない。本による知識の蓄積とは別で、自分の在り方、考え方を。


 翌朝、三人で手分けして作業をしていると、リーヴルが少し寂しそうに話しかけてきた。

「もしかして、レーヴ、避けてる?私のこと嫌いになっちゃった?いらなくなっちゃった?」

 その顔には生気がなかった。

「そんなことないよ。どうして?」

 もしかすると、一人立ちさせようと躍起になってしまったせいかもしれない、なんてことが頭に浮かぶ。

「私、夢が見れなくなっちゃった。このままだと、レーヴのこと、見えなくなっちゃうんでしょ?お腹を満たせてあげられないんでしょ?」

 目に涙をいっぱいためながら、しゃくりあげながら、一生懸命言葉を紡いでいる。

「嫌だ。いつ見えなくなるかわからないのに、嫌だ。残りの時間、ずっと一緒に過ごさせてよ」

 ああ、自分が見えなくなってしまうことを失念していた。人の心がわからないばかりに、間違えてしまっていたんだ。

「わかった、わかったよ。ごめんね、寂しい思いをさせて。私はね、いなくなるまでに、リーヴルの心が壊れてしまわないようにしたかったんだ。ごめんね、大好きだよ。いらないなんてこと決してないんだよ」

 リーヴルはわあっと泣き出してしまった。これが最後の思い出になってしまわないように、なにか優しくて温かい思い出を紡いでいくべきだと考えを改めることにした。


「ふーん。レーヴ、昔はもっと、なんていうか…。無機質っていうのかな。あんまりそういうの知ろうともしなかったのに、ちょっとは人っぽくなったんじゃないかな?」

 ソーンに相談すると、意外な返事がきた。私が、人っぽい?

「そうだろうか。本で得た知識しか持ち合わせていないし、人の気持ちが本当にわかるようになったのか、全然わからないのに」

 悩んでいるレーヴをみて、ソーンはコロコロと笑った。

「わかんないよ、そんなもの。わかってほしくて、気づかれたくて、全面的に出してる人の心くらいだよ、読み取れるのなんて!そうやって、一生懸命考えることをなんていうか、わかるかな?」

 ソーンは温かく笑った。闇夜で輝き、導いてくれる星のようだと思ったその子の笑顔は、おひさまのようだった。

「…わからないや」

「愛情だよ、愛」

 ソーンはニッと笑い、こう続けた。

「レーヴはね、もうちょっと人のこと頼っていいと思う。突然いなくなっといて、そんなこと言えた義理じゃないかもしれないけどさ。見えなくなっちゃってからは、私がリーヴルちゃんのこと面倒見るからさ。だから、見えなくなるその時まで、レーヴはリーヴルちゃんに寄り添ってあげて。これはレーヴにしかできないことだから。たくさん思い出作って、また夢を見れるその時までの栄養っていうのかな、バッテリーっていうのか…そういう、蓄えになってあげて!種が芽吹くまでの間、栄養を蓄えて、耐えて育つことができるそのときを待てるように」

 ソーンは背中を押してくれた。頼りになる友人そのものだった。

「ソーン、また会えてよかった。ありがとう」

 ソーンはにっこり笑ってくれた。

「お礼は妲己さんにも言うのよ。あの人とっても綺麗だけど、レーヴにとってどういう人なのか聞かせてほしいなあ」

「ごふぅ」

 レーヴは盛大にむせ、ソーンは大笑いをした。


 リーヴルはソーンに髪をといてもらいながら、なにか言い出そうとしてはやめ、言い出そうとしてはやめを繰り返し、もじもじしていた。

「どうしたの?」

 ソーンは迷っているリーヴルの背中を押すために声をかけてみた。

「その、ね。私、レーヴがいなくても、ちゃんとやっていけるように、頑張りたいんだけど、どうしたらいいのかわからなくて。まだソーンさんとは知り合ったばっかりなのに、相談しても良いのかすらもわからなくて」

 ソーンは満面の笑みを浮かべた。

「あはは。私、二人のことだーい好きよ。いつでも気軽に相談してね。どうしたらいいか、かあ。思い出いっぱい作ろう!良い思い出をたーくさん」

 リーヴルは少し表情が曇っている。

「レーヴがね、一生懸命、一人でも大丈夫なようにって考えて行動してくれたのに、寂しくて泣いちゃったの。いつまでもしがみついてちゃいけないのに。だから、頑張って離れないとって思っちゃって」

 寂しいけど、我慢して頑張ろうとしているんだということがすごく伝わってきた。

 ソーンは心が温かくて、二人をなんとしても応援したい気持ちでいっぱいになった。

「大丈夫だよ。あんまり、相談された内容って人に話すべきじゃないって思うんだけどさ、レーヴもリーヴルちゃんのこと、一生懸命考えて、相談してくるんだ。私はね、見えなくなっちゃうまでの間、二人で一緒に思い出作りに励めばいいと思うよ。見えなくなってからは私がリーヴルちゃんがちゃんと立っていられるようにサポートするからさ」


 あれから、三人はたくさん喋って、たくさん歩いて、ようやく海へとたどり着いた。

 星の綺麗な丘を途中で見つけることはできなかったけれど、ソーンには会えた。妲己が引き合わせてくれた。妲己のことはもう怖くないかもしれない。

 水平線へと沈む、綺麗な夕日を三人で眺める。あたりは橙色に染まり、ちょっぴり温かく感じた。ああ、なんて綺麗な夕日なんだろう。

「綺麗だね」

 レーヴがそう言い終えるまでに、リーヴルが嬉しそうにこういうのだ。

「綺麗ー!海まで一緒に来れて、良かった!」

 嫌な予感がした。

 リーヴルへと恐る恐る視線を向けると、リーヴルの表情が凍りついているのが映った。

 ああ、もう、見えないのか。見えなくなってしまったのか。

「レーヴ?」

 あたりをキョロキョロしながら、目に涙が溜まっていくのが見えた。

 ごめんなさい。

「リーヴルちゃん。大丈夫、そこにいるよ。私が、レーヴはそばにいるか教えられる。大丈夫」

 ソーンはそう言ってリーヴルを抱きしめ、背中をさすってやっていた。

 リーヴルは大泣きしている。まだ、受け入れるには早かったのだろう。

 泣き声を聞いていると、胸が締め付けられるように苦しくなるのがわかった。これが、悲しい、寂しい、つらいってことなのかな。

「私ね、こんな夢を見たんだ」

 リーヴルを落ち着かせるように、ソーンは静かに夢を語り始めた。


 宿舎の外に出ると、そこは海辺のどこかだった。真っ白な砂浜に、灰白色の流木。ところどころに生えるハマナスは風に揺れ、歌っているかのよう。

 見覚えのない景色なのに、どこか懐かしさも感じる。

 うーんと伸びをして、また駆け出す。

 波の音を聞きながら、リズムよく刻んでいる自分の足音に耳を傾けていると、なにかの前奏を聴いているときのような気分になれた。

 暫く走ると、ついこないだまで更地だった場所に、白い家が建っていることに気がついた。

 周りを畑で囲まれており、津波が来たら一発で駄目になってしまうだろうなあ。

 そんなことを考えつつ、畑を見学する。

 じゃがいもがいっぱい植わっていて、他にはとうもろこしやトマト等々、いろいろな作物でいっぱいだった。

 なんだか踊っているような心地であたりを散策していると、海側にはぶどう園のようなものがあった。

 美味しそうだなあって思いながら観察し、走っていると、海へと続く砂浜は斜面になっていて、ぶどう棚のトンネルでいっぱいだった。ぶどうのトンネルを抜けるとそこは海でした。なんて言ってしまいそうな景色に、思わずはしゃぎそうになる。

 畑を満喫し、目の前にある、真四角で白い建物への興味はどんどん増すばかりだった。豆腐建築以上に豆腐なその建物の出入り口はどこにあるのか、周りをぐるりと歩いてみると、来た方と反対側に障子戸のようなものがくっついていた。ここが玄関らしい。

 玄関が障子戸って、雨風で普通に破れてしまいそうだと思いながら近寄ると、障子戸がガラス戸に変化した。

 特に訝しむでもなく、戸を引くと、普通に開いてしまった。鍵がかかってないのか。

 野生の動物がそうするように、そろりそろりと、様子を伺いながら中に入る。一応、誰かいませんか?とだけ声をかけてみたが、反応はなかった。声が小さくて聞こえていなかったのでなければ。

 そこからどうなったか覚えていないが、ある部屋で感嘆をもらした。

 天井まである本棚に本がびっしり並んでいたのだ。まるで大図書館!

 天窓からは陽の光が優しく差し込んでほどよく照らしていた。本が焼けないようにしているのか、本棚にはカーテンまでついている。今は開いているが、これは多分いつもはしめられているものなのだろう。

 すごい、すごいすごいすごい!

 周りは畑で、ここは図書館並に本がある!私の好きなものがこんなにいっぱい詰まっているなんて、まさに理想郷じゃなかろうか。

 浮かれながら歩き回っていると、豆腐建築でそんなもの周りになかったのに、縁側にたどり着き、なんとなしに座って外を眺めた。そのとき初めて、外からは見えないが中からは外が見えるようになっているんだと気が付き、今自分が座っている場所を理解できた。

 どこからともなく風も吹いてくる。もしかして、外壁が網目状になっていて、風も通るのだろうか?網戸みたいな?

 想像に花を咲かせながら、ここに住みたいとぼんやりと思っていると、玄関の戸が開く音がした。

 まずい、やっぱ人住んでるよね当然だよね。

 大慌てで身を隠し、こっそりと覗いてみると、どこかで見たことあるようで、ない人が歩いているのが見えた。後ろには撮影スタッフらしき人がぞろぞろついてきている。

 ロケ地だったようだ。

 どうやって抜け出したのかわからないが、私は宿舎に戻っていた。夢の中では、舞台と繋がっている宿舎に寝泊まりしているそうだ。

 スマホで調べていると、番組の企画で一夜のうちに建てられた物だったそうな。周りの畑は番組の企画の一つ。

 その企画がよくわからないのだが、youtubeで配信されてるとかなんとか…。

 どうにかしてまたあの建物に行きたいなあ。

 すごく好みの家だった。

 朝早く、宿舎を出てあの家へ行こうとしているときだ。

「時間までに帰ってこいよ」

 友人が夢の中でも一緒にいて、声をかけてくれたのだ。

 確かに、時間には厳しいからなここ。作業がはじまっていないのがばれたらおしまいだ。

 全力で走って建物のところにいくと、憂鬱そうにしゃがんでいるあの人がいた。

 あんなに素晴らしい建物、うらやましいのに、どうしたんだろう。環境が嫌なのかな。

 心配しながら遠巻きに、ばれないような場所で見ていると、いきなりこちらを振り向いたので驚いた。

「誰?!」

 思わず飛び跳ねてしまい、こっそり見ていたのがバレバレだ。

 狐かと思ったと言いながら、手招きをしてくれたので、おずおずと近寄ってみる。

 すごく眩しい笑顔で微笑んでくれたので、思わずはにかんでしまった。

 その後ゆっくり話すことになり、どうやら一人でいるのが寂しくて、話し相手が欲しかったということがわかった。撮影スタッフはたまにしかこないし、孤独でたまらなかったのだと。

 話していてとても楽しい人だったが、時間がぎりぎりなので、話の途中だったけれど事情を話して許してもらい、持ち場へ走った。

「またきてね狐さん」

 後ろからあの人の声が飛んでくる。振り返り、軽く手を振りつつ、不思議に思うことが一つあった。

 狐さん?と気になって自分の身体を見てみるが、二足歩行で、手足は間違いなく人間だ。どこか鏡のある場所で顔を見てみるかと思いながら全速力で走る。

 ギリギリ間に合った!

 肩で息をしながら、持ち場へ道具を持って大急ぎで歩いていると、友人に文句を言われてしまった。

「あぶねえなあ、お前」

 どうやら、時間内に戻ってこないと判断して、言い訳の口上を考えていてくれたらしい。悪かったよ。

 運が良いのか悪いのか、その日はトイレ掃除の番だった。ついでに鏡をみるか。

 トイレに向かい、鏡を見ようとするも、同じトイレ掃除になっているおばちゃんが、ほれ雑巾。持ってないでしょと言って寄越してきたり、私は外掃除するから個室から頼むといってきて、結局鏡を見ることはできなかった。

 また会ってお話をしよう。という約束を果たす前に目が覚めてしまった。


「どう?不思議な夢でしょう。今、海辺に居るから、昔見たこの夢を思い出しちゃった」

 ソーンはリーヴルの背中をゆっくりさすり続ける。

「そうだ。リーヴルちゃんさ、町に戻るの怖いでしょう?よければ、私の今の家にきて、いろいろ手伝ってよ。一人じゃちょっと大変なんだ。助けてほしい」

 リーヴルは目を丸くし、ソーンは両手を顔の前で合わせてウィンクをした。

「ソーンさんはなんでもできて、優しくて、レーヴがいなくったってしゃんと立てて、手助けなんて、いらない人なのかと思っちゃってた」

 ソーンはおでこを叩き、てへっと笑っている。

「私ね、今こうしてお外いるからばれてないだけなんだけど、結構だらしないんだよ」

 言いながら、レーヴに視線を移した。

 レーヴも驚いた様子でソーンを見ている。

「来てみればわかるよ」

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