第2話
「すごーい、栖來さん肌ぷにぷにー」
「ふふっ、くすぐったいってばぁ」
「えー、髪サラサラだし柔らかいし、ナニコレーッ」
なんて、1限が終わると同時に転校生特有の質問に乗じたお触りタイムである。そしてそれに楽しそうに答える栖來と、それを見て遠くからほくそ笑む男子軍。いや、確かに可愛い。それは認めよう。
だがちょっと待て。そいつ俺に死ねって言ったからな?
もう一度言う。
そいつ、俺に死ねって言ったからな?
「ちょっと宙丸、あんた栖來さんに何やったのよ。あんなに優しそうな子なのに」
栖來を囲む輪から抜けてきた
優しそうか……うん、隣の席から眺めてても天使にしか見えないんだけどなんで?俺が尋ねたいレベルである。
「いや、面識はないんだけどな……。冗談だったのかもな」
「あー」
適当に言った言葉に納得するおバカな檬音である。ほんと、こいつの頭の悪さは幼稚園の頃から何一つ変わらない。典型的な胸だけ成長して頭が成長しないタイプなのだろう。
檬音だけに……。なんつって(笑)。
「なんかその顔ムカツク」
檬音が俺のつねる。思わず『いてぇ!』とシンプル極まりない言葉が漏れ出た。
マジかコイツ……。何もしてないか弱い幼馴染の頬をいきなりつねってくるとか、どんな思考回路してんだ。
なんて、隣でちょっと不機嫌そうな檬音を座ったまま見上げる。
少しだけカールしたくせっ毛と、リボンで纏められた短い犬の尻尾のような後ろ髪。可愛いと綺麗の中間くらいな顔立ちと、何よりその豊満なバストで男どもを虜にしているという噂は理解できないでもない。
馬鹿だけど。
「席も隣なんだしさ、ちょっと喋ってみれば?すっごい可愛いし宙丸惚れるかもよー?」
嬉しそうだなコイツ……。
なんて檬音のニヤけた顔を眺めてはみるが、檬音の言うことも一理ある。
少なくとも、学校が始まって数か月で席替えなんてするはずもなく、当分は栖來と隣という訳だ。このままモヤモヤするのもなんだし話してみるのも悪くはないかもしれない。
「そうだな……ちょっと話してみるか」
「ほいきた!」
周りの男子が羨ましそうにする中、檬音に背中を押され、栖來に群がる女子人の中へと突っ込んでいく。
自慢ではないが、俺は友達が多い。故に、無理やり割り込んだとしても嫌な顔をする女子はほとんどいないわけである。
やはりこういう時に人脈というものが大事なんだと改めて実感する。
「栖來さんってどこから来たの?」
声に反応して栖来は一瞬こっちを見たが、俺だとわかるとすぐに他の女子へと話を切り返す。
聞こえてない……訳はないか。
「栖來さんってさ、」
改めて栖来に話しかけるが、やはり反応はない。
と言っても、栖來と話している女子には聞こえているわけで、申し訳なさそうにチラチラとこっちを見ながら栖來の話に相槌を打つ様である。
なるほど、死ねの次は無視ですか。
だが伊達にコミュ力モンスターの称号を得ている俺ではない。そっちがその気なら、喋ってくれるまで話しかけようではないか。
「栖來さ――」
「栖来さんって
俺の言葉を遮り、檬音が栖來に尋ねた。
「うん、たまにね」
「へー!あのね、空丸も
栖來の言葉に檬音が飛びつく。
なるほど、
その功績に免じて、いきなり下の名前呼びなのは見逃すことにしよう。
「うん、知ってる」
「え?栖來さんって空丸と知り合いなの?」
「いや……会ったことないけどな??」
疑問符を投げかける檬音に、俺も2倍返し疑問符を投げかける。
え……・あったことあったっけ……?
と、栖来の言葉に、改めて俺の頭の上に『?』の記号が浮かぶ。
そんな呆けた様子の俺を見てか、栖來が鬼のような形相で俺を睨む。お前ほんとにさっき女神のような自己紹介した人と同一人物ですか?と心の底から尋ねたい。
「夢ちゃんは空丸と会ったことあるの?」
「うん……。わたし、
「えーうそー!宙丸サイテーww」
「ほんっと名前の通りゴミじゃん」
栖來の話を聞いた女子たちが冗談交じりの俺を罵倒する。
約30年前、どこでもドアの研究をしていたとある会社が転送装置の開発に成功した。
と言ってもその実態はどこでもドアのような秘密道具とは程遠く、誰がどう使おうと移動先は決まっているものだった。つまり、出口の決まったトンネルのようなもの、とても商業利用できるものではないと当時は馬鹿にされたらしい。
だが発表されてすぐ、この転送装置に大きな利点が見出された。それは転送装置で行き着く場所が地球上の場所ではないということ。
そこには地球に住む動物と全く違う
30年経った今もなお、そこが一体どこなのかは明らかになっていないらしい。どこか別の惑星かもしれないし、並行世界や異世界と呼ばれる突飛な場所かもしれない。もしかしたら、地球の内側に広がる世界なのでは?なんて説もある。
だが、本当にすごいのはそこじゃない。
人類数千年の歴史でも成しえなかったこと、それがそこでは可能だった。
――魔法――
それこそが
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