第27話

  一心はその車中でぼんやりと事件を振り返えっていた。

「なぁ、警部、本当にこれで良かったのかなぁ」一心が呟いた。

「人間が人間を裁くことには限界があるってことよ!たぶん」警部も呟く。

「確かになぁ、自供と物証と動機に妥当性や納得性や合理性があったら、それらから事実はこうだって警察や裁判所が決めるんだよなぁ」

「そうよ、だからそれが真実とは限らないってことよ」

「じゃあ、今回の二つのえん罪は、司法上はえん罪じゃないってことか?」

「そういう事になるわねぇ。残念だけど、それが限界なのよ」

「じゃあ警部、玄武勇元刑事の死は無駄死にか?」

「どうして?」

「だって、玄武さんがなんぼ追及したって、司法上の事実は変わらないんだからさ」

「そうねぇ、彼のやったことは真実とは違うえん罪を糺そうとしただけで、自供と物証と動機が揃っている以上、司法上の事実とは無関係だった、と考えたら無駄な調査をして殺された事になるわね」

「だろう、子を思う親の愛には俺らも司法も敵わないってか・・・玄武元刑事の奥さんが可哀そうだ」

「そうねぇ、それ程親の愛は幽遠で屈強ってことよ。下藤爽太さんも無駄な殺人をし、自身と家族が大きな傷を背負ってしまったってことねぇ」

「警部・・・何か探偵なんて無力だよなぁ・・・俺、嫌になってきたなぁ」

「ばか、一心!だから必死に、真剣に、えん罪を生まないためにも、真実を追い求めるんでしょ!」

「成程そうだな、流石、警部だ・・・」

 一心は警部の瞳の中に揺ぎ無い炎を見て、探偵業への熱い思いが再び沸き上がってくるのを感じるのだった。

 

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