第52話 白菊と少女 2
私こと市ノ瀬
ただまぁ、その約束を交わしたのは小1の頃であり今の彼は私の存在自体を忘れてしまっているみたいだが。
それでも私は忘れない。いつも家で本を読み私がいくら声をかけても、目を中々向けてくれない癖に私が帰ろうとすると何故か引き止める、天邪鬼な彼が唯一素直に伝えてくれた想いを。
そして、花が好きだと言う彼がはにかみながら、その日私にくれた白い菊のことも……。
しかし、彼____伊賀くんの顔を見るほど胸のざわめきが大きくなっていくのは何故なのか?
大好きな彼に再会でき、あとは思い出してもらうだけだと言うのに……。
一体、なにが私を不安にさせているのだろうか? しかし、彼の家で白菊を見た途端に胸のざわめきは確実に大きな物へと変わっていた……。
*
「おーい、市ノ瀬さん? 市ノ瀬さん?」
「な、なに?」
白菊を見たまま完全に固まってしまった市ノ瀬の前で手を振って、必死に声をかけているとようやく俺に気がついたのか市ノ瀬さんは慌てて声をだした。
「いや、急に立ち止まるからどうしたのかな?って」
「な、なにもないわよ。少し見惚れてただけ。私は花が好きなの」
「そうか」
少し妙な感じもしなくもないが、白菊は綺麗だし花が好きだと言うなら特別変なことでもないか。だが、表情がどこか引っかかるな。
「なにかあった___なんで市ノ瀬先輩、伊賀先輩を独り占めしてるんですかっ」
「してちゃ悪いのかしら?」
少し変な間が俺と市ノ瀬さんに流れていると、そこに俺たちがついてきていないことに気がついた新井が現れ声を上げる。それに対し、市ノ瀬さんも調子を取り戻す。
今回はナイスタイミングだ、新井っ!
「悪……くはないですけど」
「そうよね」
「でも、とにかくズルです。ズルいですよ。独り占めなんて……私はまだ先輩の子供の頃の写真を見つけただけなのに……」
「おい、待てこらっ」
そう言って新井が当然のように持っている俺のアルバム(制作:静姉)を見て、俺は先程の高評価を取り消すことにする。
「い、いや、別に部屋を漁ったわけじゃなくてですね……あの、使用人さん? 畠田さんって人が静姉さんが私が来たら渡すように頼まれたって言われたので、仕方なく受け取って見てるだけです」
「ガン見してる奴が仕方なくなんて言葉を使うかっ。というか、それを渡せ。俺は許可していない」
俺は内心で静姉を呪いながら新井に渡すようにと要求する。……相変わらず、イジワルなことが好きな姉だ。なんて性格の悪い。
「へぇ〜、幼稚園の頃はこんな感じなのね」
「そうなんですよ。今は目がクールでカッコいいですけど昔は柔らかいというか、なんというか……」
「うぉいっ」
渡すどころか市ノ瀬さんもそのアルバムを見て、広げ始めてしまった。話を聞いているのだろうか? しかし、強引に取り上げようにも2人にしっかりと掴まれており、どうしたらいいかと思っていたその時であった。
「光太郎、今日は私が久しぶりに帰ってきましたよ。沢山お話しを……あれ? なんです? この2つの靴は?」
玄関から
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次回「一体、どういうことなのか説明して貰えますか?(満面の笑み)」
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