第51話 白菊と少女 1
「……大丈夫そうだな」
「? 先輩、急に周り見渡してどうたんですか?」
「そうよ、なにかあったの?」
俺が家に入るなり靴やかかっている服をチェックし、あの人が帰っていないかと確認作業をしていると新井と市ノ瀬さんが不思議そうに俺にそのことを尋ねてくる。
勿論、あの人とは静姉のことだ。
先程、別れたばかりだか静姉のことだから俺を驚かす為とか言って高速で帰っていてもおかしくないからな。
静姉は基本俺の男女交際などにはおおらかな態度(自称)らしいが極端にハーレムものなどを嫌う。
そんな静姉が俺が2人も女子を連れ込んだとなれば怒り狂いお仕置きを下すだろう。……いや、実際には連れ込んだわけではなく入れられしまったのだが、そんなことを憂慮してくれる姉じゃない。
「いや、なんでもない。それより20分だけだからな。ちゃんと守れよ」
「「はーい」」
俺の言葉に声を揃えてそう返す2人。やはり出来ればそのまま素直に今すぐ帰って頂きたいところだ。噂がどこから広まるか分かったもんじゃない。
「にしても、こんな所あったのね。本館は行ったことあるけどここは初めてだわ」
「あぁ、一応別館でな。全国にこんな感じのが拠点がいくつかあるんだ」
「私はここ1回来てますよ!」
「へぇ」
俺の説明に納得したように頷く市ノ瀬さん。新井は少し自慢げになにか言っていたが華麗にスルーされて涙目だ。
というか、この様子だと本当に本館に来たことがあるらしい。いや、まるで覚えてないけど。でも、確かに俺が本館で暮らしていたのは小3の頃くらいまでだから矛盾はしてないんだよなぁ。
確か小1の頃とか言ってたし。
「あっ、ペン太さん発見です」
「なにこのブサイクなの」
「誰がブサイクだ。ペン太さんのことか? もしかしてペン太さんのこと言ってるのか!? 可愛いだろ」
とそんなことを考えていると新井が廊下に飾っておいたペン太さんのタペストリーを見つけて駆け寄っていく。
そして、そんな新井に対し市ノ瀬さんがそんな声をあげるので俺は思わず反論する。
「そういえば、妙に変な趣味があったのよねぇ」
「なにが変な趣味だっ」
なにかを諦めたような顔をした後に、小声でボソッとそんなことを呟く市ノ瀬さんに対し声を上げる。
「い、いや、そんなことないと思いますよ。市ノ瀬先輩の一個人の意見ですから。わ、私は変わってるなぁと思っただけですし」
「結論、市ノ瀬さんと同意見じゃないかっ!」
フォローしてるようでまるでフォローしていない新井の言葉に俺は深く傷つく。2人に言われるということは変な趣味なのだろうか?
いや、でもペン太さんはこんなにも可愛らしいアリクイのキャラクターなんだ。
普通に大衆から人気だろう。俺は別に変じゃないはず。
「まず名前が失敗ですよね。あの見た目でペン太さんはないですよ」
「そうね、それにもう少し可愛いデザインでも良いと思うわよね。なんで妙にリアルなのかしら」
「聞こえてるからな」
俺が自分へとなんとか言い聞かせる中、後ろでは市ノ瀬さんと新井が筒抜けなヒソヒソ声でそんなことを話していた。というか、コイツら意気投合しすぎだろ。
「さっ、そ、そんなことより早く伊賀先輩の部屋行きましょう! 時間も限られますし」
「そ、そうよね。時間は有限だもの」
「おい、待て」
俺に聞こえていたと分かったらしくシマッタといった顔を見せた2人はスタスタと歩いて俺から逃れようとする。それで、誤魔化せるとでも思っているのだろうか?
「っと、どうした?」
俺が逃げ回る2人を追いかけていると市ノ瀬さんが突然足を止めて廊下で立ち止まっていた。
俺は不思議に思い声をかけるが反応がない。
仕方ないので俺が市ノ瀬さんが見つめる方を見てみると……。
「白菊……?」
そこには廊下に1つだけ飾られた白菊があるだけだった。
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次回「白菊と少女 2」
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では!
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