第49話 拷問とアドバイスと決意と


「む?」

「おはよ〜」


 俺が目を開けるとそこにはニコニコと笑う静姉が手を振り目の前に立っていた。というか、俺はイスに座っているのか?

 なんか既視感デジャブが凄いが前回と少しだけ異なっている点をあげるとするならば、


「む、むぉ〜!?」

「あっ、口の取ってあげないと喋れないか〜」


 俺の口は現在ガムテープで塞がれており、俺の手と足は絶対に逃げられないようにとんでもなくキツく縄でイスに縛りつけられている点だろうか?


「む___ぷはっ! な、なにしてるんだ!? というかココドコ!? そして、なんで俺は縛られてるんだ?」

「そんなに一気に言われても答えられないよ。全くせっかちだなぁ」


 静姉は俺の言葉に対し余裕を持ってそう答える。……というか、マジでこの縄とれないな。一体どういう結び方したらこうなんだよ。


「じゃあ、1つ目……ココは?」

「学校の生徒指導室だよ」


 そう言われて改めて見渡してみればそんな気もしなくもないが、どうなんだろうか? 静姉はたまに意味のないところで嘘をつくからな。


「2つ目、なんで縛った?」

「なんとなく」

「うん、今後絶対にやめて」


 恐ろしい姉だ。まさか気分で弟の口をガムテープで塞ぎ手足を固く解けないように結んでしまうとは。


「あっ、もう1つあったんだ。今日は色々聞きたくて来たからこの方が拷問感があっていいかな? って」

「つまりなんとなくじゃないかっ」


 結局、気分でこんなことをしらしい。


「最後に……静姉そもそも海外に帰ったはずだよな」


 そう、これこそが俺が一番聞きたかったことだ。2週間ほどの教育実習を終えた静姉は、大学の方は再び代行の人に変わってもらうと海外へと向かった……はずなのだ。


「う〜ん、帰る予定だったんだけど気になることがあってね。任務の方はお父さん達に任せて戻って来たんだよ。それで今はこの学校に校務員のおじさんに変装して色々と調べるわけ」

「なるほど……っでなんで俺を気絶させたの?」

「だって光太郎私が話をしよって言っても逃げるでしょ」

「ごもっとも」


 静姉が少しため息をつきながらそんなことを言うので俺は大人しく頷いておく。というか実際その通りだし。


「んでね、今日は光太郎に色々言いたくてね。光太郎……二股してるんでしょ?」

「してない」


 真顔でそんなことを言い始めた静姉に俺も真顔で対抗する。


「だって、新井ちゃんと市ノ瀬?さんだっけ? 2人と結婚の約束を……」

「新井のが違うのは分かってんだろっ。からかうな」


 すると静姉はケラケラとしばらく笑った後、途端に表情を変えると、


「でも市ノ瀬さんは違うよね? 誰なの?」


 珍しく真剣な顔をしてそんなことを聞いてくる。これは色々と疑っているのかもな。


「俺にも分からないんだ……でも」

「でも?


 おれ自身が分かっていないのだから静姉に全てを理解させることは出来ない。


「市ノ瀬さんは恐らく普通の一般人だ。立ち方だけで分かるし、嘘をついてる様子も微塵も感じられない」

「そう」


 俺の答えに静姉は聞きたいことは聞けたと言わんばかりに頷くと、今度はまた表情を一変させてゲスな顔を浮かべていた。嫌〜な予感。


「お姉ちゃんさ光太郎の結婚には賛成だけど不倫は嫌だからさ、ちゃんとどっちか決めてね?」

「アンタ、自分の弟をなんだと思ってるんだっ!」


 どうやら静姉の中の俺は不倫をするらしい。


「えー、流されやすくてチョロくて扱いやすい感じ?」

「本当になんだと思ってんだっ。というか、結婚とかしないし」

「はぁ……」


 俺がツッコミを入れていると静姉が今までのおふざけの顔からまたも一変、これみよがしにため息をつく。


「好きな子がいないんならいいよ? そこは強制しないし……でも、今の時点で決めないでよ。あの件はいいって言ったよね? それじゃあお姉ちゃんが何の為に頑張ってるか分からなくなっちゃうじゃん」


 静姉は俺を諭すようにそんなことを言ってくれる。本来ならばそれに本心で答えるべきだろう。


「いや……今はいないし今後も出来るとは思えないからいいんだ。もし、出来たら遠慮せず告白もするし結婚も申し込むから安心して。まぁ、振られればそれまでだけど」

「それならいいけど」


 だが俺は嘘をつく。いや、正確に言えばなにも全てが嘘というわけではないが……今、好きな人などいないのは事実だし。

 しかし、仮に俺に好きな人が出来たとしても告白したり結婚などというのは絶対にない。

 静姉が俺の為に手をつくしてくれているのは分かってる。嬉しくもある。


 でも……それでも、俺はそんな静姉にだけに負担を強いることは出来ない。出来るはずもない。だからこそ本心は明かせない。

 そしてならばせめてそれが嘘にならないようにと、俺は誰も好きにならないという決心を今一度固めるのだった。


「んっ、じゃあもう出ていいよ」

「動ける!?」


 そんなことを考えているといつの間にか俺の手足に縛られていた縄は、静姉によって解かれ俺の足元に転がっていた。……手際よすぎるだろ。あの固さだぞ? いや、元から縛らないで欲しいけど。


「またのご利用お待ちしております」

「二度とあってたまるかっ」


 俺が生徒指導室(?)の扉に手をかけると静姉がそんな不穏なことを言いながら軽く頭を下げる。どうやら店員さんごっこらしい。うん、ふさげ始めたな。

 にしても、ようやく終わったか。

 なんか今日は色々と疲れる1日だったが……まぁ、言うてもあとは帰るだけ。実質ほぼ全て終わったと言っていいだろ_____。


 ガチャリ。


「「あっ、先輩(伊賀くん)待ってましたよ(わよ)」」

「はっ?」


 俺が扉を開けるとそこには修羅場を体現したかのような見覚えのある2人が立っていた。

 偶然とは到底思えず俺は思わず静姉の方へと振り返る。するとそこには、


「お気をつけてお帰りください」


 とんでもなく邪悪な笑み浮かべた静姉が立っていたのだった。




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 次回「両手に花 ※ただし混ぜると大変危険ですのでお取り扱いにはご注意を」


 この1日は修羅場で埋めつくされてる伊賀くん。頑張るんや。

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 では!


翼 イラスト!→https://kakuyomu.jp/users/KATAIESUOKUOK/news/16817330652670328472

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