第46話 突然の修羅場!……すまん、俺逃げていいかな?


「おおっ、あれは確か転校生の市ノ瀬さん」

「銀髪って噂本当だったんだ」「やっぱり何度見ても綺麗だよなぁ〜」「にしても、そんな人がここの教室に何の用なんだ?」「確か伊賀くんとかなんとか言ってたような……」


 教室の中が興奮に満たされる中、男子達の目がグルリとこちらを一斉に見る。

 待て、側からみたらこの上なくホラー映像だぞ。特に俺視点。


「ちょっ、無視してないで話すわよっ。絶対今日中にに思い出させてやるんだから」

「分かった。分かったから少し音量を押さえてくれ。クラスの視線が痛いんだ」

「……伊賀くんがあれだけ疲れてた訳が分かったような気がするよ」


 隣で翼がどこか遠い目をしながらそんなことを呟くがまさしくその通り。


「あれ? アナタは誰なの? もしかして伊賀くんの友人かしら?」

「ねぇ、この場合僕はどう答えたらいいのかな? 他人って言えば見逃して貰えるかな?」

「頼むから即座に俺を見捨てようとしないでくれ」


 俺と翼がヒソヒソと話しているとそれに気がついた市ノ瀬さんに翼が話しかけられ、翼が割とマジトーンでそんなことを言う。

 いつもフレンドリーな翼にしては珍しい意見だがそれだけ市ノ瀬さんと話すのは疲れるとこの数秒で肌に感じとっているのかもしれない。


 本当に市ノ瀬さんは色々とイレギュラーな存在だ。


「ちょっ、黙ってないでよ。か、悲しくなんないけど寂しいし」

「それなのになんだろうね、この話さないといけないと思っちゃう義務感」


 すると悲しくないどころか泣きそうになってしまっている市ノ瀬さんを見ながら翼がボソッと呟く。話すと疲れるのであまり喋りたくはないのだが話さないでいるとこんな感じになってとても罪悪感が湧いてしまうのだ。

 しかも、彼女は別に俺たちを疲れさせようとしているわけではなく至って真剣に話そうとしているだけなのが伝わってくる。

 だからこそ余計に罪悪感が湧いてしまうのだ。


 本当に新井とはまた違った意味で厄介な存在だ。


「えっと、僕は琴吹ことぶき 翼って言います。一応、こうくんの友達やってます。よろしく」


 やがて罪悪感に呑まれたのか翼が躊躇いがちだが市ノ瀬さんと視線を合わせ、手を差し出しながらそんな挨拶をする。


「そう、翼ね。私は市ノ瀬 花音よ。一応、伊賀くんと結婚の約束をしているものよ。よろしくお願いね」

「うん、全然よろしくないから待ってくれ」


 そんな翼に対し市ノ瀬さんの方も少し目を拭ってから左手を差し出して翼と握手を交わす。……そして、今の発言で男子からの視線が視線ではなく死線に変わりましたとさ。


「早速だけど今朝の続きを___」

「あっ、伊賀先輩こんにち、わ?」


 そして市ノ瀬さんが翼との挨拶を終え、俺の元へと向き直り口を開いた時だった。俺たち以外の喋り声が消えしずまりかえっていた教室にそんな元気な声が響いたのは。

 勿論、声の主は新井なのであるが新井も俺と市ノ瀬さんを見比べて驚きの表情を浮かべていた。恐らく見たことのない相手と俺が喋っていることに驚いているのだろう。


 それにしてもなんて最悪なんだと俺はこれから起こるであろう出来事を想像し胃を痛めていた。……最近、マジで胃に穴とか開いてないか心配になるんだよな。


「あっ、もしかして……伊賀先輩のお友達だったりしますか?」


 そして新井は少しするとその結論に思い立ったのか遠慮がちにそんなことを尋ねる。


「アナタは1年生……?」

「は、はい、そうです。1年の新井 瑞香って言います。どうかよろしくお願いします」

「……くっ、可愛いわねっ」


 新井の登場には市ノ瀬さんも驚いたようでそんなことを尋ねるとなにやら悔しがっていた。……マジでよく分からないです、はい。


「私は2年の市ノ瀬 花音よ。一応ら伊賀くんと結婚の約束をしているの、よろしくね」

「へぇ、そうなんです_____へぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!?」


 そして市ノ瀬さんは先程翼にした挨拶とほぼ同じことを言い、新井は途中で違和感に気がついたようで心底の驚きの声を教室の中に響かせる。

 口をパクパクさせて俺に何度も視線を送ってくる新井であるが俺が助けて欲しいくらいなのでどうにも出来ない。


「ま、まま、待ってください。先輩からそんな話聞いたことないですし、それに私だって……」

「まぁ、とは言っても伊賀くんは忘れてしまっているみたいだけどね」


 やっと声を出した新井に対し市ノ瀬さんはコチラに視線を寄越しながらそんなことを言う。


「じゃ、じゃあ勘違いなんじゃないですか?」

「違うわ。大体さっきなにか言いかけてたけどアナタは伊賀くんのなんなの?」


 やがて両者の間に嫌な雰囲気が漂い始める。いや、なんとなく分かっていたが色々と精神衛生上よくないな。これ。心臓がもたない。


「じゃっ、じゃあ僕は部活があるから」


 翼もそんな雰囲気を感じとったのか鞄を持ってそそくさとその場を去ろうとする。……こいつ俺を見捨てて逃げるつもりだ。


「いや、お前さっき部活ないって言ってたろっ!」


 しかし、この雰囲気の中1人でやっていける気のしない俺としては翼を逃すわけにはいかずそう指摘する。


「わ、私は伊賀先輩の幼馴染で……えっと、はい伊賀先輩のことが好きというかなんというか」

「わ、私だって幼馴染よっ」


 しかし、俺と翼がそんなやり取りをしている間にも場の雰囲気は更に不穏なものへと変わっていく。


「おいっ、助けてくれ。この雰囲気で俺1人は流石に無理がある」

「……」


 すると翼はなにを思ったのか財布を取り出すと小銭を地面にばら撒いた。


「あっ、僕は小銭拾うので忙しいから今無理」


 友人の危機<小銭拾い


 な、なんてしらじらしいマネを……。さっき困ったことがあったら言ってねとか言ってた自称けん玉マスターどこ行ったんだ!


「せ、先輩一体どういうことなんですか? 説明をお願いします」

「伊賀くん、この子とはどういう関係なのかしら? 説明してくれる?」


 そしてそんな翼と俺のやり取りなど知らない新井と市ノ瀬さんが俺の元へと迫ってくる。

 一体全体、どうしたらいいんだよぉおぉぉ。


 俺は心の中で激しく絶叫するのだった。本当に逃げ出してしまいたい。






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 次回「人とはみな修羅場の中を生きる動物」



 頑張れ、伊賀くん。良かったら星や応援お願いします。


 では!







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