第45話 ザワツク教室、フクザツな心


「えーと、まずはどこから話そうかしら。顔すら覚えてなかったのよね?」

「覚えてないというか本当に見たことがないから答えようがないな」

「……中々心にくるような事言ってくるわね」


 少し傷ついたような顔をしながら考え込んでしまう市ノ瀬さん。いや、コチラとしては早く退散してしまいたいのだが。

 でも、約束は約束なので大人しく待つことにする。


「あ、あれ? おはよう?」


 するとまた1人、1組の生徒が教室の中へと入って来て俺と市ノ瀬さんを二度見したのちに席へと着く。

 というか、もうそろそろすると一気に来るだろうしなるべく早く済ませてしまいたいものだ。


「なぁ、朝は時間もないし放課後にでもゆっくりと話せば____」

「そうだっ! ちょっとコッチ来てっ」


 流石に時間を見てマズイと判断した俺がそう切り出そうした瞬間に、市ノ瀬さんが閃いたと言わんばかりに顔を輝かせる。

 そして、先程までの冷静な態度はどこへやらといった感じの興奮した様子で俺を市ノ瀬さんの方へと手招きする。

 当然、市ノ瀬さんの大きな声を聞き他の1組の生徒もコチラに注目している状態だ。


「なにをするつもりかは知らんがそれをしたら帰っていいんだな?」

「そうね、朝の所は一旦帰っていいわよ」


 ここは素直に従うべきか迷うところではあるが今は時間がないし、それで済むと言うならさっさと済ませて帰ればいい話だ。

 そう判断した俺は一応警戒心を残しながらも市ノ瀬さんの元へと一歩近づくことにする。


「えいっ」


 その瞬間であった。俺が目を開けると俺の頭の上には市ノ瀬さんの手が今にも触れそうになっていて……。


「って、待て待て。なにする気だっ!」

「ちょっ、邪魔しないでよ」


 俺は市ノ瀬さんが俺の頭に触れる直前に慌てて右手で市ノ瀬さんを封じることに成功する。市ノ瀬さんは不満そうだが意味が分からないのであの場では止めるしかない。


「なにする気だったんだ?」


 俺は市ノ瀬さんの手を掴んだまま質問を続ける。


「アナタ、私に頭ポンポンされるのが好きだったからそれしたら思い出すかなって」

「公衆面前でやるなっ」


 危ねぇ。止めてて良かった。また、変な噂が流れるところだったぞ、これ。


「アナタが手っ取り早く済ませてしまいたい的な顔してたんじゃない。……ほら、なんかやろうとして拒否られるのはプライドが許さないから大人しくポンポンされて」

「無理」


 しかし市ノ瀬さんは相当不満のようで頰を膨らませしかめっ面でそんなことを言ってくる。

 だが、ダメージというか色々とデカすぎるので俺としても当然許容するわけにはいかない。

 これ以上、変な噂が広まればいよいよこの学校での俺の居場所がなくなるっ。というか男子達に半殺しにされるっ。いや、下手したら女子にもかもしれん。


「ほらっ、手を離して」

「絶対に嫌だ」

「すぐ終わらせるから」

「だが断る」

「いい加減折れなさいよぉぉ」

「それはコッチのセリフだっ」


 結局、この不毛な戦いは1組の担任である稲石いないし先生がやってくるまで終わることはなかった。

 ……本当に朝から疲れた。



 *



「ふぅん、それが今日伊賀くんが遅れた原因ってワケか。大変だったね」

「本当にな。今日はもう学校早退しようかと思ったほどだ」


 俺は1時間目の放課に翼と朝起こった出来事について話していた。


「にしても変な話だよね〜」


 翼は今までの俺は話を振り返るそうまとめる。確かに翼が言うように今回の件は色々と奇妙な話だ。


「念のためもう一回聞くけど、本当に見たことないし喋ったこともないんだよね?」

「記憶に残る限りないな。とはいえあの特徴的な髪の奴を忘れるとも考えにくいし」


 俺もあの後可能な限り思い出そうと頑張ったわけだが何度過去を振り返って見ても市ノ瀬さんは俺の記憶の中には存在していなかった。

 ただ、これに関して言えば小1の俺がどこまで覚えていたのかは不透明だし、市ノ瀬さんが銀髪とは言え昔はそうでなかった可能性もあるのでなんとも言えない。


 更に言ってしまえば俺が強い衝撃を受けて忘れてしまっている……例えば地面に頭をうち市ノ瀬さんに関しての記憶が抜けてしまっているという線もかなり薄くはあるがないわけじゃない。

 なにせ、小さい頃は特訓とかでよく頭を打ってたしな。


 ということで改めて考えてみても市ノ瀬さんに関して確かなことは何一つとしてないことが分かる。それにまだ彼女が刺客やなにかの可能性も俺は排除しきれていない。

 今後も警戒は必要だろう。


「まぁ、あんまり考えすぎてもダメかもね。色々と考えすぎて倒れちゃうのは最悪だし」

「確かに……あんまりことを早く済ませすぎない方がいいかもな」


 俺は翼のアドバイスを受け少し考えを改める。こういう時は当事者よりも第三者の方が視界が開けているからな。


「まっ、困ったらけん玉マスターこと僕に任せてよ」

「けん玉マスターに今回の件なにも出来ないと思うんだけど」

「東京タワー作るくらいは出来るよ」

「なんの解決もしないどころかあやとりすんなよ、けん玉マスター。せめてけん玉しててくれ」

「いくぞー、ダブル・アラウンド・ザ・ワルード!」

「もう、あやとりマスターかヨーヨーマスターに改名してくれ」


 方向性がブレッブレな自称けん玉マスターに俺は軽くそうツッコミを入れる。やっぱりなんやかんやでコイツと話すのは楽しいな。


「あっ、珍しくしっかり笑ってるっ。レアだ、レア」


 すると翼が身を乗り出して興奮した様子で俺を指差しながらそう告げる。


「いや、いつも笑ってるだろ?」

「あれは笑ってる内に入らないんだよ、こうくん」


 俺はそれに対し軽くツッコんで見るがそう返されてしまい、何も言い返せないのであった。……別に意図的に表情を薄くしているわけじゃないんだけどな。



 *



「つ、疲れたね〜」

「それはお前が小テストから逃げ出そうとして先生に捕まってたからだろ」


 授業も終わり真っ先に駆け寄ってきてそんなことを言う翼に俺は冷静に指摘をする。


「まぁ、そうだけど……あぁ、なんでテストなんてあるんだろう。まぁいいや、今日は部活もないし久しぶりに遊びにでも___」


 ドンッ!!


 翼がいつも通り素早く頭を切り替えそんな誘いを口にした時だった。


「さぁ、授業も終わり放課後になったから来たわよ伊賀くんっ」

「……えっと、この人って?」

「最悪だ……」



 市ノ瀬さんが息を切らしながらやって来たのは。




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 次回「突然の修羅場! ……すまん、俺逃げていいかな?」


 今回はジョジ◯ネタ多め。良かったら探してみて下さい。


 まだまだ盛り上がっていきます。良かったら星や応援お願いします。


 では!


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