第42話 一件落着?


「なぁ、翼」

「ひゃあっ!?」

「俺はお前とこれからも仲良くしていたい。話していたい。笑っていたい。……それじゃあダメなのか?」


 俺はここは畳み掛けるべきだと判断し、翼に詰め寄る。


「あ、あの伊賀くん? と、とりあえず手を離して?」

「うん? あっ、すまん」


 いつの間にか俺の手が翼の肩を掴んでおり、それに対し翼が少し躊躇いながらも言ってきたので慌てて手を離す。……完全に無意識だった。


「それでどうなんだ? 翼は俺のことが嫌いになったのか?」

「ち、違う。でもっ。ってかさっきから近い! 離れてっ」

「離れたら逃げられるかもだから離れない」

「っ……」


 手は離したが距離をとってしまえば逃げられる可能性もあるので翼から離れることはない。


「……どうしたら離れてくれる?」

「翼が俺とこれからも距離をとらないって言ってくれるなら」

「……ズルくない?」

「なにがだ?」


 俺は分かっていながらも敢えて誤魔化すことにする。要するに俺は翼が俺から距離をとらないと言うまで離れないのだから、翼が距離をとろうとしてもしなくても結局は変わらないということだ。

 先程の翼の様子を見て翼自身が俺を嫌になって離れようとしているわけではないことが分かった。それなら離れてやる必要はない。


 翼がなにを気にしているかなんて関係ない。


「はぁ……分かったよ。明日から今まで通り。これで満足? 伊賀くん?」


 諦めたようにため息をつく翼。

 この時点で既に目標は達成しているわけだが、少しでもいつものムードへと近づけたい俺はもう少しだけ攻めることにする。


「伊賀くんじゃなくてこうくんな?」

「……今日なんかイジワルじゃない?」

「……」

「……くっ」


 俺が黙って見つめているとやがて根負けしたのか翼は悔しそうに舌を噛む。


「明日からいつも通り……それでいいね? こうくん?」

「あぁ」

「やっぱり嫌いになったかも」

「なっ!?


 翼がボソリと漏らした言葉に俺は焦らされる。恐らく冗談なんだろうが今日の状況だと色々と心臓に悪い。


「ウソウソ! じゃあね、こうくんまた明日〜」

「お、おう」


 まだ、部活の時間は残っているから途中からでもと言いながら鞄を持ち笑顔で去っていく翼に俺は曖昧に手を振る。

 これで翼の方からも新井の方からも話が言って噂は打ち止め。そして翼とは明日からもいつも通り。


 これって、一件落着っということでいいのだろうか?



 *



「中々に大変な1日でしたね。お疲れ様です」

「あぁ、ここまで疲れたのは静姉にトレーニングさせられてた時以来な気がするな。じゃなくてっ! なんで、ナチュラルにお前いるんだ!?」


 俺が帰り道を歩いているといつの間にか近くに来ていた新井がさっきからいましたよオーラを出しながら口を開いていた。……本当にいつ来たんだ。


「えっ?」

「いや、えっ? じゃなくてっ。なんで自然と俺と一緒に帰ろうとしてるわけ?」

「なにか不手際でもありましたか?」

「……もういいや」


 知らぬ存ぜぬで押し通そうとする新井に対し心が折れた俺は色々と考えた末に諦めることにする。……嫌だって言っても着いてくるだろうし無駄なことだろう。


「はいはい、そんな嫌そうな顔しないでください。泣いちゃいますよ?」

「勝手に泣いてろ」

「そうしたら、今度は光太郎にぃが新井を泣かせたなんて噂が広まっちゃうかもしれませんけど」

「新井と一緒に帰るのサイコー」


 俺は慌ててそう返す。なんか凄くダサい気もするが自分の身は守らなくてはっ。


「それよりも……その、してくれませんか?」

「む?」


 してくれませんか?と言われても主語がなかった為にどう答えていいのか迷う。なんか、新井もモジモジしてるし。一体なんのことだ?


「そ、その……してください」

「すまん、もう少しだけ大きく」

「そ、そのー今日やってくれた頭にポンポンをしてくれませんか?」


 俺が聞き返すと少し恥ずかしそうに頰を朱色に染めながら上目遣いで見つめてくる新井。

 俺は瞬時に周りに誰もいないか確認すると新井の頭を優しくなでてやることにする。


「どうだ?」

「あ……ありがとうござい……ます」

「なんだ、その反応」


 てっきり嬉しそうに目を細めるのかと思っていたので固まってしまった新井を見て俺は困惑する。もしかしてジョークだったのか?

 だとしたら俺自意識過剰なイタイ奴なのでは。


「い、いえその、本当にして貰えると思ってなかったので。い、いや、凄く嬉しいんですけどね? でも、驚きの方が勝ってしまって……」


 俺がそんなことを考え慌てていると新井からかなり早口でそんなことを伝えられる。


「まぁ、新井にも色々と迷惑かけたしな、っと用事があるんだった。新井悪いがここからは1人で帰ってくれるか?」

「? 少し寂しいですがいいですけど、なにかあるんですか?」

「……そこの花屋に寄るんだよ」


 俺はどうせこの後すぐに入るのだから隠しても無駄だと判断し、ぼろ___年季の入った看板を掲げる花屋を指差しなから正直に言うことにする。


「それくらいなら全然待ちますよ?」

「いや、この後静姉も来て行く所があるんだ」

「そう、ですか。なら、しょうがないですね。また明日です」

「あぁ、また明日」


 新井も静姉とはあまり会いたくないと思ったのかそそくさと逃げるように去っていった。

 正直な奴だと少し呆れながら俺は黙ったまま先程指差した花屋の前まで来ると、静に戸を開ける。


「はいはい、いらっしゃい。ってなんだ君かい……そろそろ来る頃だと思ってたよ」


 するとそこには80歳ほどの白髪のお婆さんが椅子に腰掛けて俺を出迎えてくれた。……いつもと同じだな。


「それで何の花にするんだい? って聞くまでもないか」


 白髪のお婆さんは1人で笑い声をあげると余程おもしろかったのかしばらく1人で笑いころげ続ける。

 そしてようやく落ち着いたのか声を整える。


「それで白菊しらぎくだったよね?」

「はい」

「変わんないねぇ」


 俺はお金を手渡し白菊を受け取りながら曖昧に返事をする。そして受け取った白菊を丁寧に持ってきていた包みに入れると俺はある場所へと向かうのだった。



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→



 第1章 終了!! ここまで読んで良かったら星や応援お願いします。星は500目指して頑張ってます。


 明日の朝には公開しますが先に第2章のタイトルを紹介しておきます。


「第2章 転入生の美少女が告白で断る際、俺と結婚の約束をしているからと言っているらしい」


 です。ある意味2度目のタイトル回収?


 次回「2つの結婚の約束」


 では!

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