第39話 誤魔化さないでよっ


「朝のホームルームを始めます」


 結局、あの後も翼は教室には顔を出さず今丁度ホームルームが始まる直前に教室へと滑り込んできた。朝の様子や今俺が視線を送っても逆方向を向いていることから完全に避けられていると考えた方がいいだろう。

 だが、このまま放っておけばとんでもないことになると俺は感じているのでこのまま諦めるつもりはない。

 というか、なによりこのまま翼と話せないことが続くのは俺にとって辛すぎる。


 だから、俺は……何度だって諦めない。説得できるまで何度だって挑戦___。



 *



「はぁ〜、砂になりてぇ〜」

「ふむ、完全に燃え尽きておるな」


 目の前に立つクラスメイトの山内 しゅん(若干アニ&歴オタ)が机に突っ伏す俺を見ながら少し呆れた口調でそんな事を言う。


「しっかし珍しいですな。伊賀殿がここまで落ち込んでるとは……。基本的に失敗してもすぐに次の手を考え諦めないのが伊賀殿であろう?」

「そうだな……でも、今はただ砂になりたい」

「本当になにがあったのだ?」


 俺が落ち込んでいるのは相当珍しいらしく、山内が興味深そうに尋ねてくるがそれに答える気力は今の俺にはない。

 というか普通に話したくない。

 まさか1時間目の放課、2時間目の放課、3時間目の放課、4時間目の放課、昼放課、これら全てを用いても完全に無視されるとは。


 しかも無視のされ方が「話があ___」「話しかけないでっ!」だぞ? 当然、翼にここまで拒否られたことなどない俺には刺さる、刺さる。

 そして普通に泣きたくなる。


「あっ、そう言えば伊賀殿今日は全然翼殿と話していないですな?」

「お前、ちょっとは気を遣えよぉぉぉ」


 山内のデリカシーの欠片もない言葉に俺は更に傷つく。いや、本人に悪気はないし疑問を持たれてもおかしくないのだが今の俺には辛い。


「やはり翼殿のことでしたか!」

「分かってたなら言うなっ」


 どうやら分かっていたらしい。さっき悪気はないとか考えてたけどこいつ確信犯だった。なんて奴。


「しっかし、だとしても不思議ですな。何故、伊賀殿が翼殿に避けられるのでしょうか?」

「もう、お前席帰れよぉぉぉ」


 それが分からないから俺は今、困っている。翼はなに対して泣いていたのか?

 新井と俺が付き合ったとして翼は俺のことを恋愛的な目で見ているとは思えない。

 だから、一応有力な説としては俺が押し倒したという噂から後輩を襲った最低な奴だと思われているとものだと思う。


 が、それにしたって確証はないわけで。結局は現状、翼本人から聞き出す以外に手はないわけだ。


「まぁ、色々と大変そうだが頑張りなされ。私は今から蘭子ちゃんのライブがあるからライブの陰から応援しているのでな」

「おいっ、学校から抜け出してどこ行くつもりだ」


 まだ、6時間目が残っているというのにそんなことを言い、鞄を持ち教室から出て行こうとした山内(実は重度のアイドルオタク)の後ろ襟を俺は掴むと教室へと再び引きずり込むのだった。


 なにか泣き叫んでいたがコイツはこういうことで休みすぎてあと少しで留年だと言うことが本当に分かっているのだろうか?



 *



「とっ、そんな感じで5時間目の放課は無意味に過ごした伊賀殿であったがもう後は放課後しか残っていないのだが大丈夫ですか?」

「お前が言うなっ」


 5時間目の放課を潰した張本人にである山内にそんなことを言われ思わず俺はツッコミに走ってしまう。……なんか、こいつボケるのが上手いというかツッコミしたくなるボケというか。


「まぁ、私も蘭子ちゃんのライブ行けなかったですしお互い様ってことで」

「お前のは元々行けないからな?」


 本当になぜあの時間のライブのチケットを取ったのか……いや、考えても仕方ないことか。


「しかし、まぁ一応伊賀殿で遊んだ身として罪悪感はありますから僭越ながら1つだけアドバイスです」

「おい」


 俺は一応軽くツッコミを入れながらも続く山内の言葉を待つ。今の俺は焦りからか冷静に周りを見れていない可能性があるからな、他者からの視点というのはとても大事なものだ。

 そして山内はそこで一呼吸置くと珍しく真面目な目つきを俺に向ける。


「伊賀殿の他者を尊重する心は素晴らしいと思っています……がっ、時には強引にいかなければ相手が心を開いてくれないこともあるのですよ」

「強引に……?」


 イマイチピンとこない俺を見てか山内がそのまま続けて口を開く。


「避けられて話しかけても毎回逃げられてしまう。これだけだとなんの進展もないのですな。それどころか翼殿も逃げれば簡単に避けられると考え、ますます話をすることは困難」

「確かにそうなのかもな」


 俺は考えもしなかった山内の意見に少し驚きながらも納得する。確かに今のままでは話をすることは難しいのかもしれない。


「でも、だからといって強引にとは言ってもやりようがない気が……」

「掴むというのは?」

「掴む……?」


 イマイチ山内がなにを言いたいのか分からなず俺は少し考えながらも聞き返すことにする。


「逃げだそうとする瞬間に翼殿の手を掴むのだ。伊賀殿の身体能力なら十分出来ることと思いますが」

「いや、確かに可能だが……それは」


 つまり無理矢理という手段だ。だが、流石にそこまでするのは……。


「しかし、このままでは永遠に話せない可能性だってありますぞ? それになにか……そうですな、誤解などでも解きたいのでしたらまずは話さなければなにも始まりません」

「お前……」


 俺は詳しいことなど話していないはずなのにまるで全てを知っているかのような山内の言葉に思わず目を見開く。


「あっ、前に黄泉よみ殿から顔から相手の考えていることを読み取るコツを教えてもらったものですから……なんとなく最近分かるですぞ」

「アイツかっ! っと、そろそろ翼も帰ろうとしてるしもう行くな。今日は……その、ありがとう」

「気にしないで頑張ってください」


 俺は目の前で穏やかに笑う山内に手を振りながら翼の席の元へと向かうのだった。






 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「琴吹 翼の葛藤」


今日は色々となにかが起こるかもしれません……。(不吉なオーラ)

まぁ、それは冗談ですがなにかが起こります。お楽しみに!


 では!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る