第38話 「? 先輩なら私 全然構いませんけど?」
「もう大丈夫そうか?」
「はいっ! おかげで元気満タンです」
そう言うと腕を縦に振って元気だと無邪気にアピールする新井。不意打ちだった為少しだけ可愛いと思ってしまったのは仕方のないことだろう。
「あっ、それで昨日の話……でしたよね?」
「あぁ。色々と伝えたいことがあってな……」
「そ、そうですか……」
先程まではしゃいでいた新井は急に大人しくなり、緊張を秘めた顔つきになっていく。いや、こうも構えられるとこちらとしては話しづらいのだが……。
まぁ、しょうがないからそのまま伝えるしかないな。
「昨日俺がお前を押し倒そうとした件だが率直にあの時のお前はなんて思った?」
「っ……!?」
俺の言葉に新井は明らかに動揺し言葉に詰まる。恐らくここまでハッキリと言われるとは予想していなかったのだろう。
そして、周囲にもどよめきが上がる。
噂が本当だったのだと分かり驚きの表情を浮かべる者、これから俺がなにを言うのかと息をひそめる者、息を荒くする者など反応は色々だが先程より更に注目を集めたのは確かだ。
一見。噂を消してしまいたい俺のとる行動としては間違っているように映るかもしれない。
が、ある程度噂は広まっており今更そんなものなかったと言った所で信じて貰えないだろう。だからこそ攻めの一手としてそれが真実であることを伝える。
こうすることによってより多くの注目を集められる。
そこで新井にもう一つの真実を伝えることによってこの噂を消すことは出来ないが塗り替えることが出来る。
「そ、その、嬉しくはあったんですけど……正直、少し怖くもありました。どこか別人みたいで……」
「そうか、それは悪いことをした」
予想通りの反応を示してくれた新井を見て俺は心の中で安堵する。こうなればあとは男を人のいない部屋に連れ込む危険性について話して終わりだ。
「でも、そのせ、先輩なら私は全然構いませんからっ」
「んっ?」
しかし、新井の口から続けて漏れた思わぬ返しに俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。いや、そう言われると今から言いたいことが言い出しにくくなるんだが!?
「で、でも、そのー気持ちの整理はさせて欲しいかなぁって。だからそのまずはお付き合いからで……」
「ちょっと一旦ストップだ、新井」
「は、はい」
俺がどうしようかと考えている間にも止まらず喋り続ける新井に俺は一旦止まるようにとお願いする。タイミングとしてはあまりよくないがここで言うしかないだろう。
「その実はだな、俺がお前を押し倒そうとした
「? 危険性……ですか?」
俺がなにを言いたいのか分からないのかコテンと首を可愛らしくかしげる新井。そこら辺の男子生徒が軽く悶える程度には魅力的である。
「あぁ、両親もいない家に男を連れ込むことの危険性を知って欲しくてな」
「っ!? そ、それは……」
俺の言葉に慌てたように手をパタパタと動かす新井。自分でも思う所があったのだろう。
「だから、敢えて俺はお前を押し倒して危険性を伝えようとしたんだが……中々伝えられずすまないな」
「そ、そういうことでしたか。なんか変だなぁとは思ったんですが……私の早とちりでした」
「いや、あの状況でしかも説明もなかったんじゃ誰だってそう思うし俺のミスだ。ごめん」
俺は頭を下げて新井に対し謝る。これくらいしか出来ることがないからな。
「だっ、大丈夫ですからっ。私としてはそのー嬉しかったくらいなので……。気にしないでください」
「……分かった」
新井にそう言われ俺は頭を上げる。最早、周囲の視線は完全に一点へと固まっていた。
「なんか視線も凄いし新井の時間を奪っても悪いから自分の教室に帰ることにする」
「た、確かに視線集めすぎですもんね」
新井がそう言って苦笑いを浮かべる。いつも注目を集めがちな新井だが流石に今日の視線は異常らしい。珍しく緊張しているようにも見える。
「じゃあな」
「あっ、今日帰りって……」
そして俺は続く新井の言葉を聞くことなく教室から出て自分の教室へと向かう。これで噂の件に関しては少しは落ち着くだろう。
だが、どこまで信じてくれる人がいるかも問題だ。
一部では俺の話したことを信じない人もいるし、そもそも新井と俺の噂だけ知ってて今回の話が耳に入らなければ噂の沈静化は難しい。
「やっぱり翼か……」
こうなるとやはり残っている手段は翼に頼むこと……だが。
「なんか避けられそうな気がするんだよなぁ」
朝の様子を思い出した俺は深くため息をつくのだった。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
次回「誤魔化さないでよっ」
投稿遅れてごめんなさい。今日はあと1話更新予定です。
星の最終目標 500。
では!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます