第35話 「娘をどうかお願いします」「だから、誤解ですって」
「……」
「……」
俺と目の前の男の人は机を挟んで向かい合いながら無言で見つめ合う。
「「あのっ」」
「……」
「……」
流石にこの沈黙に耐えられなかった俺は声を出そうとするがそれは相手も同じだったらしく同時に声を上げてしまい、そしてお互いに譲り合ってしまい再び沈黙が訪れる。
正直に言おう。めちゃめちゃ気まずい。
「あらっ、まだ話していなかったのね。瑞香は寝ちゃったから私もまーぜて」
俺と目の前の男の人の間に非常にどうしたらいいのか分からない空気が流れているとそこにある女の人が現れた。これは有り難い。
一対一で話すとか無理だしまだ人数いた方が勢いで話しやすい。
「でっ、娘を貰ってくれるという話で良かったかしら?」
「だから、それは誤解だって言ったじゃないですかっ!!!」
「え〜」
あー、ダメだ。全然良くない。というかあれだけの現場(演技)を見られて今更説明したところで分かって貰うのはかなり厳しそうだしな。
まだ、新井に説明して目の前の両親に新井の口から伝えてもらえればどうにかなったかもしれないが……あの後、新井は顔をおさえてその場から離れると自分の部屋へと駆け込み寝てしまったのだ。
……俺が説明する間もないくらいに。
というわけで俺は今現在新井父と新井母に話を聞かれているというわけである。カムバック新井っ! いや、ガチでっ。
「それに君……伊賀君でしょ? 瑞香が小さい頃から結婚するって意気込んでた子でしょ?」
「まぁ、そうですが……でも、違うんですっ。信じてくださいっ。新井に男を家に招き入れるという危険性に気づいて欲しかっただけなんです」
もう、こうなったら懇願しかない。信じて貰えるまで頭を下げ続けるしか……道はない。
「そうか信じていいんだね? 娘をし、幸せにして……くれるって」
「はい、任せてください! ……って違いますっ。そうじゃないんです」
新井のお父さんの方が久しぶりに口を開いたと思ったらとんでもないことを言っていた。この人、俺のさっきの話聞いてたのか?
「ごめんなさいねぇ。夫の方が余程動転してるみたいで。アナタが見るのは初めてでもこの子は新井とそういうことをいっぱいしているでしょうから気にしてたら気が持ちませんよ」
「い、い、いっぱい!? そ、そんな……」
「さらに誤解を生むようなこと言わないでくださいっ!!」
新井のお母さんの方がフォローをしてくれるかと思いきや、更にとんでもないことを言い出しお父さんの方があちこち動き回って更に落ち着きをなくしていく。
というか、この人自分の夫の反応見て楽しんでないか?
「こ、子供は流石にまだだよね?」
「だからそうじゃないって何度も言ってるじゃないですかぁ」
お父さんの方は確かにお母さんが言うように気が動転してまともに話を聞けていないらしい。いや、親の立場からするとそうなるのも分からなくないけど俺からすると困るっ。
「違うわよアナタ」
流石に見兼ねたのかお母さんの方がフォローを入れてくれる。これは有り難い。俺の話ではまともな精神状態で聞いてもらえない可能性があるが自分の妻の話ならまだ落ち着いて聞いて貰えるかも___。
「それはあと1年後くらいよ」
「お母さんの方も全然話聞いてないじゃないですかっ」
「あら、お母さんなんてまだ気が早いわよ?」
「だ〜、そういうこじゃなくてですねっ!」
アカン。これ完全に詰んでる、分かりやすく例えるなら急に口調が関西人に変わってまうくらいの絶望。というかお父さんの方は「プレゼントはベビーカー……いや、オモチャか?」とかなんとか恐ろしいことを呟いているが冗談だと信じよう。
うん、そうじゃないと保たない。例え、この人は冗談言うような人じゃないなぁと分かっていても今までのは演技で内心はちゃんと分かっていることを祈ろう。
「と、とにかく新井とはなんでもないですから。まぁ、信じてくださいとしか言えないですが。と、とりあえずもう遅いですし今日はお邪魔しました」
このままここに居ても更に話がややこしくなるだけだと判断した俺はそそくさとその場を去ろうとする。
「それじゃあ最後に一つだけ言いかしら? 付き合ってる云々は一旦置いておくとして君自身は瑞穂のことをどう思ってるかだけ聞かせてくれる? 勿論、瑞香には黙っておくし親として聞いておきたいの」
「俺が新井をどう思っているかですか……」
最後に一つと言われ俺は思わず考え込む。俺も新井が俺に対しある程度の好意を抱いてくれていることは分かっている。本人から気持ちも伝えられているのに分からないほど流石に鈍感じゃないからな。
だが、俺自身はどう思っているのだろうか?
後輩? 昔の幼馴染? 努力家? たまに可愛い? どれも合ってはいるが全部ではない。
うーん。
「そこは好きって即答じゃないのね。親の私が言うのもなんだけど瑞香は相当可愛いし、好かれているのなら断る理由がない気がするのだけど」
俺が黙りこんでいるとお母さんの方が心底不思議そうにそう尋ねてきた。新井は客観的に見てアイドルと比べても遜色ないくらいに可愛いのは分かっている。
でも、だからと言って異性として好きかどうかは違う。後輩として、友人としてなら好きではあるが俺が異性として好きだという気持ちはない。
いや、そもそもその感情は俺は______。
「君、大分苦しそうな顔してるけど大丈夫?」
「えっ、あっいや」
「無理なら言わなくていいから。そういや君も雨にうたれたんだっけ? 良かったら送っていってあげようか?」
俺は自分でも気づかないうちに相当険しい顔をしていたらしい。気づけば2人が心配そうに俺を見ている。やってしまったな。人様に心配をかけるなんて失格だ。
「大丈夫です。それじゃあすいません」
「ちょっ、やっぱり送ってくって……」
俺は目の前の新井のお母さんとお父さんが慌てているがそれを無視して素早く立ち上がると玄関へと急ぐ。流石にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「ありがとうございました」
「よ、良かったらまた来てね〜」
新井のお母さんからのそんな声を受け取りながら俺は鞄と傘を持ちながら外へと出る。
辺りは既に暗く街灯が灯り始めていた。
その日の俺は夜中に静姉に起こされ、静姉の授業(拷問)を経て、雨にうたれ、今の騒動を受けかなり疲れていた。そのせいだろうか?
暗い雨のなか俺が新井の家から出ていくところを写真で撮られたことに俺は全く気がつかなかった。
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次回「どうせ、結婚のうわ___えっ、なにその噂!?」
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では!
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