第1章 できちゃった婚騒動
第33話 お風呂
「ささっ、光太郎にぃここにでも座ってください。これ、タオルです」
「わるいな」
新井の家へと上がった俺は新井の手からタオルを受け取り新井が敷いてくれたシートの上に座る。今の俺はビチャビチャだからな。タオルで頭を軽く拭いてっと……。
「んっ? どうした固まって……」
「手が触れ……いや、なんでもないですっ。
わ、私は風呂を入れてくるのでそこでジッとしていてください」
「こけるなよ」
急にドタバタと駆けていってしまった新井の背中を見ながら俺はそう声をかけるが奥の方からバタンッと大きな音が聞こえくる。……多分こけたな。
っとにしても綺麗な家だ。道具やらなにやらが散漫している俺の家とは大違いだな___ん?
これって……。俺があるものを見つけ固まっているとそこに新井が足を少しおさえて再び姿を現した。
「入れてきましたよ〜、あぁ足痛っ……ってどうしたんですか? 一時停止でもしてるみたいな感じになっちゃってますよ?」
「一時停止とかじゃなくてさ……ナニコレ?」
俺は無邪気な顔で話しかけてくる新井に対しある物を指差す。
「……えっと、そのオブジェクトです」
新井は俺が指差しているものを見た瞬間に目を逸らすようにして口を開く。
「ただのオブジェクトなら良かったんだけどな……なに、この未来の旦那様「伊賀 光太郎」って? なぁ、なんだこの写真?」
「そ、そのー家族写真的な感じのです」
新井は俺と決して目を合わせることなくそう答える。
「へぇ、家族写真かぁ」
「……」
「……なにか言うことは?」
「本当にすいませんでした。だからどうか、どうか破るのだけはやめて下さいっ」
ついにこのまま乗り切ることは不可能だと判断したのか全力で頭を下げて懇願してくる新井。
「いや、でも新井の友達とかが来た時にこれ見て勘違いされても困るし」
「じゃあ勘違いじゃなくするというのは……」
「ない」
「そこまで断言しないでくださいよっ」
俺の言葉に対し新井は口を尖らせるがあり得ないものはあり得ないので変えようがない。
絶対に……ないからな。
「そ、そうだ。そろそろお風呂も湧きますし光太郎にぃ是非入ってきてください」
「分かりやすいぐらい話題そらそうとしてくるな」
あからさますぎる新井の態度に俺はある意味感心しつつそう言うが、
「風邪引きますし、温かい内に早く入ってきてくださいよ。それとも私の残り香でも嗅ぎた___」
「分かった。入ってくる、入ってくるから」
上手いこと新井に押し切られてしまいグイグイと押されていつしか脱衣所まで来てしまっていた。
「あっ、というか光太郎にぃの着替えが……」
「その点は心配するな。いつも念の為予備の一式は入れてある」
「……そうですか」
何故か酷くつまらなそうに頷く新井。
「なんかあるのか?」
「いえ、今1つのドキドキポイントが消えたなぁと思ってみたりしただけです」
「? そうか。よく分からんが」
「じゃあ、早速入っちゃってください」
「分かった」
俺は新井に促され服を脱ごうとして___。
「いや、見てないで出てって?」
「くぅ、バレました」
「そりゃバレるだろ」
自然な感じでその場に居座ろうとした新井を脱衣所から追い出してから服を脱ぐ。
一応、ビニール袋とかも持ってきてるし着替えはここに入れて持って帰るか。あー、なんかグチョグチョだったからやっぱり脱ぐとスッキリするな。
「よし、じゃあお邪魔します」
俺は頭の中で新井とその両親に頭を下げながら恐らくお風呂の扉を開けて中へと足を踏み入れる。
おっ、このシャワーはおれの家に似てるな。確かこっちの方に回せば……。
「やっぱりそうだよな」
水が出るというわけだ。
*
「ふぅ、温かい」
体や髪も洗い終えたおれは風呂の中へと入り体を温める。体の芯まで温まるような感覚。これだけ温かく感じるということは俺が思ってた以上に俺の体は冷えてしまっていたらしい。
「っと、あまり長居するのも良くないな」
俺はしばらくしたのちそう考えると風呂から上がるのだった。風呂の出るタイミングって毎回迷うんだよなぁ。
*
「あれ? もう、上がったんですか? もう少しくつろいでくれても全然良かったんですよ」
「あんまり人の家の風呂でくつろぐのもな」
「まぁ、光太郎にぃはそうですよね。あ、あと、湯加減はどうでしたか?」
「丁度良かった。いい湯だったよ……ありがとな」
お湯がいつもの俺の家のものよりかなり温かい気がしたが恐らくアレは俺を温かくする為に新井がやや高温に設定しておいてくれたのだ。気が回るどころの話ではない。ここは素直に感謝だな。
「あ、ありがとうだなんて……そ、それじゃあ私もついでに風呂入ってきますねー!!! ……って伝え忘れたことがありました」
あっ、走り出した時に急にUターンなんかしたら、
「こけるなよ」
「あぅ」
ドッシーンと音を立てて新井が目の前で倒れる。やっぱりこうなったか。
「大丈夫か?」
「は、はい」
俺が手を差し出すと新井は少し恥ずかしそうにしながらも手に掴まり立ち上がる。なんか凄い気を回せるようになってたり色々と成長は伝わってくるんだが……こういう所は変わってないのか。
「そ、それでですね、恐らく光太郎にぃは今から帰ろうと思っていると思いますが今1番雨が酷いらしくて……後30分ほどしたら大分弱まるらしいのでその時がいいかなと思います」
「いや、あんまり留まるのは……」
新井の提案に俺が渋っていると、新井が少し怒ったように人差し指を突き出すと頰を膨らませて、
「結局これで風邪ひかれたら意味ないじゃないですかっ!」
「……なんか毎回痛いとこつくなお前」
そんなことを言ってきた。
「分かったのなら私も風呂に入ってきますね。光太郎にぃはテレビでもつけてくつろいでいて下さい」
そして新井はそこまで言い切ると風呂場へと向かって歩いていってしまうのだった。
これで俺は新井の家のリビングで1人ということになる。
さて、どうしたもんか?
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
次回「こ、光太郎にぃダメですよっ」
一章開幕〜!! 良かったら星や応援お願いします。
では!
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