第31話 まさかこんな展開になるなんて想像もつきませんでした(泣)
「……」
「……」
雨が降る中1つの傘に入る俺たちは無言のまま歩いていく。いや、新井も入る前は嬉しそうにはしゃいでいたが入った途端にこれだ。
まぁ、理由は明白だけど。
「そ、その〜大丈夫か?」
「遅くないですかっ!? というかなんでこの傘色んな所に穴が開いてるんですかぁぁぁぁあ」
新井が真横で濡れた髪をおさえながら悲鳴をあげる。いや、気持ちは分かるがどうしようもないからな。
「私が夢見てたのは1つの傘の中男女2人が距離を近くて肩とか当たったちゃう的な相合傘なのに……ただずぶ濡れの男女が2人誕生しただけでした」
「現実は辛いな……」
「辛すぎますよっ。というか、なんでそもそも穴が開いてるんですかっ」
やっぱりそれは聞かれるよなぁ……どう答えたらいいものやら。
「実はこの傘1人用なんだ」
「いや、1人用だとしても意味が分かりませんよ! 穴開いてるんですもんっ。光太郎にぃなんでこんなの使ってるんですか」
「ちょっと特殊な傘なんだよ」
「だから、斬新すぎるんですよ! 色々と。あらゆる方向においてっ」
そう、俺が渋っていたのはこの傘ほど相合傘に向いていないと思ったからである。というのも、
「これ普段雨が降った時も使うんだが……実はトレーニング用なんだよ」
「最早どういうことですかっ!? えっ、まさかこの穴から降ってくる雨粒避けるとかそういう」
「流石新井だな」
「まさかの当たり!?」
そうこの傘はトレーニング用。瞬発力、動体視力、集中力、忍耐力とあらゆる面を伸ばせる優れものである。まぁ、2人で使うと避けるスペースがないからただただ濡れる傘だけど。
「……なんか光太郎にぃ、しばらく会わない内に静さんみたいになってますね」
「馬鹿言うな。あの人は雨の中を傘もささずに濡らすことなく帰ってくる」
「純粋にどういうこと!? ……はぁ、こんなはずじゃなかったんですけどね」
隣で雨粒にうたれながら新井がため息をつく。やはり少し距離が近い為か息が少しかかるか? まぁ、新井は雨粒のせいかそれどころじゃないけど。
「この辺りにはコンビニないしな」
「……突然生えてきたりしないものですかねぇ」
「確かにどこにでもあるイメージだけどキノコとかじゃないから」
現実逃避へと走り始めた新井に俺は思わずツッコミを入れるが新井はそれに反応する余裕すらない。
「せっかくのチャンスなのに全然いかせないし……私なにやってるんだろう」
「ま、まぁ、今回のはさすがにカウントしないから。別で手を繋いで帰ってやるから」
今はお互いに手を濡らしてしまっている為新井曰く肌の感触が分かりませんと、これまたかなり落ち込んでいる為俺はそう声をかける。
「本当に光太郎にぃ、すいませんでした。私が持ってきてれば光太郎にぃもこの傘でも濡れずに帰れたのに……」
「……」
新井が申し訳なさそうに頭を下げる。そこにはいつものような、元気はなくただ項垂れているだけ。
見れば雨で濡れた為か体も震えていて足取りも重い。……そうだ。
「新井、ちょっとだけ立ち止まってくれ」
「分かりました」
俺は新井にそう言うとあるものを手に取り震えている新井の元へとかける。
「ひゃ、ひゃいっ!? 光太郎にぃ!?」
「いや、まぁ……少しでも暖かい方がいいと思ってな」
俺が新井の肩にかけたものは俺が着ていた学ランである。少しだけだが防水機能もあるのでマシになるだろうと考えたわけだが。
「こ、光太郎にぃまた風邪引いちゃいますよ」
「一応ワイシャツは着てるし、それに基本俺は風邪は引かない。前のはたまたまだ」
「そう……ですか」
というか少しでも新井に元気になって欲しくてかけたつもりだったが……新井の様子が先程よりも変な気がするな。
「あっ、もしかして嫌だったか? 匂いとかか?」
「い、いえ、そういうわけじゃないです……それにいい匂いですし」
俺はそう尋ねるが新井は全力で首を横に振って否定してくる。だとしたらなんなんだ。
「なにかあるなら本当に教えてくれっ。心配なんだ!」
「っ!?」
俺は知っている。新井が雨に強くないことも……体調を崩しやすいというとも。だからこそいつも元気に振舞っている新井を今日くらいは守りたかった。
なのに……。
「光太郎にぃがそこまで言ってくれるのは嬉しいですが……本当に嫌だとかそう言うのじゃないです。お陰であったかいですし」
「そうなのか。だったらなんでそんなに顔をうつむかせて……」
「……ないですか」
「ん?」
新井はなにかを絞り出すように声を出すが雨のためか
「大好きな相手の服を肩に突然かけられて落ち着いていられるわけないじゃないですかっ!! 嬉しかったり戸惑ったりして顔も熱くて見せれる状態じゃ……ないんですよ」
「!!?」
少し怒ったように大きな声を出した新井の予想外すぎるあまりにストレートな答えに俺は戸惑ってしまう。
「いくら私とは言え……は、恥ずかしいのでこんなこと言わせないでくださいよっ」
「わ、悪い」
声を震わせてそんなことを言う新井を見て俺は確かにデリカシーにかけていたと深く反省する。
「その……新井の気持ちは分かったから、なんか色々と悪かったな。無神経だった」
「……だから、そういう発言も無神経なんですよっ! わ、分かってくださいよ」
うーん、気を回したつもりだったがまだ配慮が足りないか。もっとシンプルに言った方がいいのか?
「まぁ……新井のそんな真っ直ぐな所は俺好きだよ」
「っっっ〜〜〜〜!!! も、もう口にチャックしてくださいっっ。暫く喋らないでくださいっっ」
俺としてはシンプルに伝えたつもりだったがまたダメらしい。しょうがないので余計なことは言わずに黙っていることにする。
「あぁ〜〜〜さっきまで寒かったはずなのにめちゃくちゃ熱いです。全部光太郎にぃのせいなんですからねっ!」
でも、どうやら少しはいつもの調子を取り戻してくれたみたいだ。俺は少し嬉しくなり思わず軽く笑いをこぼす。
「な、なに笑ってるんですかっ! 」
「さあな」
俺は新井の問いには答えることなく雨の中を新井に足並みを揃え歩いていくのであった。
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次回「風邪ひかれたら困るので家へどうぞ」「いや、でも___」「どうぞ(圧)」
色々と新井ちゃんとって想定外でした。良かったら星や応援お願いします。
では!
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