第15話 屋上デートでも行きましょうか
「そんなんで食べるわけないだろ」
「ほらほら遠慮しないでください」
箸で唐揚げをつまんだ新井は俺の口元へと持ってくるが俺はそれを全力で拒否する。アーンとかしたらとかもう考えるまでもないだろう。アウトだよ。
なんなら後輩たちの変なファンクラブどもにまたグッズとか作られちまうわ!
「新井ちゃんのアーンが食べずらいって言うなら僕が食べさせてあげようか?」
「ダメっ、です」
「えぇ〜」
すると俺と新井の攻防を見ていた翼がそんな声をあげるが新井が瞬時にダメだと言う。
「新井ちゃんは唐揚げを食べてもらいたいんでしょ? でも
翼にしては珍しく的を射た意見で新井の反論の芽を潰す。というか、翼がふざけずに真剣に発言してるけど……翼が俺にアーンしたところで翼にいいことなんてないだろ。まぁ、新井からのアーンより全然いいけど。
噂が広まらないから。
「いや、やっぱり良くないと思います」
「えぇ〜、なんで」
それでも新井はダメだと少し慌てた様子で言い切る。翼がブーたれているが気持ちが分からなくもない。なぜ、そこまで新井は翼の提案を拒むのだろうか?
「だ、だって翼さんってお、女の子じゃないですか。なのに先輩にアーンなんて……健全じゃないです」
「「新井(ちゃん)が言うなっっ」」
完全な矛盾に俺と翼は2人揃ってツッコミを入れる。……なんだ、これは? コントか?
「ふふん、これで新井ちゃんの反論出来ることはなくなったね」
そして翼は勝ったと言わんばかりにドヤ顔で椅子の上でふんぞりかえる。……まぁ、最後のはただの自爆だったけどな。
「うぐぐっ」
そして新井もなにも言い返せないのか悔しそう唇を噛んでいる。……うん、敗因自爆なんだけどな。
「はい、ってことで
新井ちゃんお手製の唐揚げだよ」
「はいはい」
そして新井が大人しく唐揚げをつまんでいた箸を翼に渡すと翼は満面の笑みで俺へと差し出してくる。正直、新井がアーンをやり始めた段階でアーンは回避するにしても食わないと収集つかないだろうなぁとは思ってたが……まさかこういう形になるとは……。
「って、まてっ! やっぱりおかしいだろ」
「ん? ど、どの辺がおかしいの?」
俺の口へ唐揚げが到達する寸前俺がそう言いながら翼を制止させると翼が少し上ずった声で尋ねてくる。
「確かに俺は新井のアーンだけは絶対に避けたかったけどだからといって翼のアーンになる必要もないだろって話だ」
「うっ」
翼が気まずそうに顔を逸らす。やっぱりな。もう少しで嵌められるところだった。というか新井のアーンが嫌なら俺が自分で食べればいいだけの話。
何故、翼がそこまでして俺にアーンをしたかったのかは知らないが……翼のことだ、からかいたかったとか新井の対抗心を煽って俺が苦労するところを見て楽しみたかったとかだろう。
よくも悪くも楽しいことが1番だからな。
「はぁ」
そして俺は翼から唐揚げをつまんだ箸を受け取る。元々は少しでも噂を広めない為に食わないつもりだったがしょうがないな。まぁ、新井がせっかく作ってきてくれたのに食わないのは罪悪感もあったし。
「じゃあ新井いただくな」
「えっ、あっはい」
俺と翼のあまりに早いやり取りと展開にこのスピード感に慣れておらず取り残されボーとしていた新井にそう言うと、新井は少し慌てたように返事をする。
俺は素早く口へと唐揚げを運ぶと一口でいただくことにする。
「うん」
「ど、どうですか?」
俺が食べ終わると新井が不安そうにそう尋ねてくる。
詳しく言うなら皮はパリッとしており、中身は柔らかく旨味が凝縮されている。惜しらむはこれが弁当であるが故に温かくはないということだろうか。となるが新井が聞きたいのはこんなことではあるまい。
「純粋に美味しいな。凄いうまい」
「よ、良かったです」
俺が一言、1番に思ったことを新井に伝えると新井が心底嬉しそうに顔を輝かせる。
「でも、こういうとこだと目立ちすぎるから次から屋上とか人がなるべくいない場所とかでしてくれな」
しかし、また同じことをされてはかなわないので俺は釘をさしておくことにする。
「それは屋上デートのお誘いですか?」
「えー、
「違うわっ」
しかし、新井にそう返されそこに翼も便乗するので俺は声を上げて否定を示す。
「分かりました、伊賀先輩。じゃあ明日の弁当の時間は屋上デートでもいきましょうか」
しかし、新井はそう言うとフフと笑って去っていってしまった。
えっ、ってか明日も来るの?
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次回「光太郎にぃの帰り道」
新井ちゃんのイラスト(絵は上手くありません。あくまで作者の中でのイメージとして考えてください)
https://kakuyomu.jp/users/KATAIESUOKUOK/news/16817330651042658274
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