第10話 光太郎にぃ……馬鹿なんですか?


「光太郎にぃ、ご飯ですよ」

「あぁ、ありがとう」

「光太郎にぃ、タオルです」

「あぁ、ありがとう」

「光太郎にぃ、冷えピ◯です」

「あぁ、ありが____って、なんで新井がいるわけ!?」

「えっ!? 今更ですか?」


 俺は何故か俺の部屋にいる新井を見ておかしいことに気がつくのだった。


 *


「大体ですね。光太郎にぃが馬鹿なんですよ。看病しに行って風邪ひいちゃうなんて」

「グッ、なにも言い返せない」


 少し呆れた様子の新井から的確な指摘をうけいいよどむ俺。それに今日は熱のせいか頭も回らないし……。


「だ、だとしてもなんでお前がそれを知ってて俺の部屋に入って来てんだよ。俺の部屋に入るには様々なトラップをくぐり抜けた上に特殊な鍵が____」

「静さんから手紙と鍵、トラップの対処法の書かれた紙も届きまして……光太郎にぃが風邪を引いたと」

「いや、姉さんにも言ってないんだが!?」


 あの人マジでどこで情報入手してんだよっ……俺が風邪引いたの今日だぞ?。

 しかも、海外のはずだろうがっ。しかも姉さんにだって鍵やトラップのこと教えてないし。

 ……相変わらずの化け物め。


「今日の朝9時頃ですね。なのでラッキー____じゃなかった光太郎にぃが大変だと思って参上した所存です」

「しかも、9時って俺が起きて風邪引いたって気づいた時じゃないか」


 スピードも早すぎるし、マジでなんなんだよ。あの人。


「だから今日は光太郎にぃの看病をしますからね! この私がっ!」

「いや、まぁもう止めても無駄だろうし抵抗もしないけどさぁ……なんで、そんなに嬉しそうなの?」


 新井は今日ずっと上機嫌なのだ。常時ニヤニヤしておりなんとか隠そうとしているかまる見えだし。


「い、いやソンナコトナイデスヨ? 光太郎にぃのことが心配で心配で」

「なんで目を逸らすんだ」


 俺と目も合わせずそんなことを言う新井に俺が疑惑の視線を向けると、


「こ、光太郎にぃは今は寝てないとさぁ寝てくださいね! 私は掃除でもしてくるんで」

「おいっ、ちょっと」


 新井は慌ただしく部屋から出て行ってしまった。……しょうがない。早く治した方がいいのも確かだし大人しく寝るとするか。


 *


「光太郎にぃのほっぺプニプニだー」

「う、うーん」

「それに可愛い寝顔。ほれ、プニプニ」

「ってなにやってんだ?」


 俺が目を覚ますと目の前には新井の顔があり何故か俺のほっぺは新井によって弄られていた。


「こ、光太郎にぃ目が覚めましたか?」

「いや、誤魔化そうとしても無駄だから見てたから」


 必死に目を逸らしてそんなことを言う新井にピシャリと俺が言うと新井も観念したように、


「……すみません。つい、出来心で」

「うん、出来心で人のホッペ触るってなに?」


 頭を下げて謝ってきた。いや、マジでもう……。


「ん? ……大分片付いてる?」


 俺が辺りを見渡すと先程まで道具やなにやらで埋めつくされていたはずの部屋は綺麗に整頓されており雑巾などがかけられた跡も残っていた。

 それに加えて新井の手は赤く少し傷ついていた。


「……頑張ってくれたんだな」

「えっ?」

「いや、なんか新井が俺の為にここまでしてくれたのかって思うと……なんか申し訳なくてな」


 本来、俺が風邪を引かないようにしなければならない所を注意を怠ってこんなことになってしまい新井にも迷惑をかけてしまった。


「そんなこと……気にしなくていいんですよ? 私は光太郎にぃが好きだから……好きな人の看病をするのは中々に楽しいものですから」

「っっっ!?」


 あまりに新井にストレートに伝えられてしまい俺は思わず顔をおさえる。


「まぁでも……」


 としかし新井はそこまで言ったところでセリフを止めるとなにかを考える素ぶりを見せる。

 ……なんか嫌な予感。


「まぁ、光太郎にぃが罪悪感があるというのでしたら……お詫びとしてキスしてください」

「はぁ?」


 俺は自分の耳がおかしくなったのかと聞き返すが、


「キス……ですよ。な、何度も言わせないでください。こっちだって恥ずかしいんですからっ」


 返ってきた返事は変わらぬキスと言う二文字。……おいおい、ちょっと待ってくれ。

 しかし、俺の心の内を知る由もない新井は俺の前で静かに目を閉じる。


 いや、しないよ?


「光太郎にぃ……まだですか?」


 おい、なんでそんな悲しそうな表情で見てくるんだ! 俺がなんか悪いみたいだろっ。……えっ、マジでするの? 本当に……?



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