第2話 学年一の美少女の後輩が俺を結婚相手だと言っているらしい
「先輩には話すべきでしょうから、俺の告白して振られた時のことを話すっす」
「俺としても気になってた所だから聞きたいけど……そのー大丈夫なの?」
自分が振られた時のことを話すということはかなり苦痛だと思うのだが彼は止める気配がない。
「大丈夫っす。それが俺の大好きな人の為になるなら」
「そ、そうなんだ」
覚悟を決めた男の目をしている彼を止めることは出来なかった。……まぁ、俺としてもちょうど聞きたかったしいいんだけど、なんか罪悪感あるな。
「えっとですね……」
こうして彼は振られた時のことを話し始めた。
*
「そ、その貴女に助けられた時に一目惚れしたんです。あの時の貴女はカッコよくて綺麗で……それでいて可愛くて」
「あ、ありがとうございます」
俺は人生で初めての告白で手を震わせ汗を掻き言葉を詰まらせながらもなんとかそこまで言うと顔を上げる。その時に見えた新井さんも慌てたようにお辞儀をしていて……俺は今しかないと思って勇気を出して言ったんです。
「そ、そのっだから……俺と……付き合ってくれませんか?」
その時初めて今まで俺に告白してきた子達の気持ちが分かったんです。あぁ、こんなに心臓が止まりそうになるくらいの緊張の中勇気を出してくれてたんだなって。
彼女達は凄かったんだなって。実際にしてみて分かったんです。好きな人を前にするとこうも冷静じゃいられないんだと。
「ご、ごめんなさい」
しかし、すぐに返ってきたのは断りの返事でした。迷った様子もなく即答でした。
「そ、その理由だけでも聞いていいですか?」
「……はい」
なにか俺に悪いところがあったのなら今後の為にも新井さんにそう尋ねました。
「そ、それはっ、先輩の伊賀 光太郎さんと結婚の約束をしているから……です!」
すると新井さんは顔を真っ赤に染めてそんなことを言ったのです。
*
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!!!」
あまりの展開に俺は彼が話しているのを止めツッコミを入れる。すると目の前の彼はやや不満そうな顔でこちらを見る。
「どうしたんすか? 先輩。今から良いところなのに……」
「良いところもなにも今とんでもないことなってたからっ! 俺としては見過ごせない事態だから」
なんだ、結婚の約束って!? 俺そんなものした覚えないぞ? そもそも新井ちゃんを知らないし。
「なんか先輩が照れまくってるみたいなんでその後のことは要約するんすけど……」
「照れてねぇよ!? 純粋に驚いているだけだ」
こんなので噂に尾ひれがついてはたまったもんじゃない俺は否定をするが目の前の彼に響いている様子はない。……つーか、この様子だと他の断った奴らにも同じようなこと言ってそうだし無駄か?
なんか、今ので俺の名前が上がる理由が分かったな。……なんで新井ちゃんがそんなこと言ってんのかは全然分からないけど。
そしてそんなことを俺が考えているなど知る由もなく彼は続ける。
「新井ちゃんが言うには先輩と小さな頃に約束を交わしたらしくて、それ以来先輩のお嫁さんになるに相応しくなる為に努力してきたみたいなんです。今の自分があるのは先輩のおかげだって言ってました。だからこそ俺とは付き合えないって……」
「……」
やはり振られたことを思い出すのは辛いのか顔をしかめながらそんなことを言う彼に俺は
何も言うことが出来ず黙り込む。
「でも、俺がなんとか顔を上げて去ろうとした時の新井さんの一途で純粋な瞳をみて俺はあることを思ったんです」
「ん?」
しかし辛そうだった彼は途端に顔を上げるとキラキラとした笑みをこちらに向けてくる。俺はその変わりように思わず反応してしまう。
「尊い……と」
「なにが!?」
意味不明なことを言い始めた彼を見て俺は変な寒気を感じ思わず体を震わせる。
「まぁ要するにですね、俺はその瞬間に新井さんに恋する男子生徒ではなく……新井さんと先輩のカップリングを推すファンになったんです」
「なんでそうなったぁぁぁ?!」
告白に振られて着地失敗どころか異世界に着地してしまったような彼に対し俺は戸惑いを隠せない。
「やっぱあれっすよ。幼馴染カプでしかも婚約してるのとか熱いっすよね。最高っす」
「好みの問題!?」
というか本当に俺新井ちゃん知らないのに、何故かカップリング認定な上ファンまで出来てんだけどぉ!? しかも目の前に。
つーか、やっぱり婚約した覚えないよ? だって知らないもの。
「その日から俺は伊賀新井カプ推し会の5番隊隊長です。まぁつい最近なんですけど」
「なんか俺が思った数倍被害とんでもないことになってるな!」
まさか彼女に振られた男子生徒達全員とか入ってないよね? ボケなんだよね? 俺は大変不安になりながら彼の次の言葉を待つ。
「最近では、女子生徒の隊員も増えてきてるみたいでますます盛り上がってます」
「被害が留まることを知らないなっっ!」
もう、やめてくれよ。本当に知らないんだよぉ。……こりゃ噂が消えるわけねぇな。
「んで、それで俺も先輩自身のことが気になりまして今日こうして会いに来たんです。新井さんからの一方的な評価しか知らないので」
「あぁ、俺としても話題に上がるわけも聞きたくてそれに答えたわけだがな」
まさかここまでなっているとは思ってなかったけど。という言葉を心の中で付け足す。
「でも、実際先輩と会ってみて新井さんが好きな理由がちゃんと分かりました」
「うん?」
あれ? おかしいな。手、首、足からの汗が止まらないんだけど。なんでだろう。
「先輩からしてみたら自分の結婚相手に告白したようなほぼ初対面の後輩なのに、優しく励ましてくれて話も真剣に聞いてくれて……正直、めっちゃカッコいいなって思いました」
「……過大評価がすぎるな」
実際には新井ちゃんについての情報を聞き出したかったから真剣に話を聞いていただけなんだが……それよりもなによりも汗が止まらない。
「もう、今回先輩に会って確信しました。伊賀新井カプは無敵ですね」
「なにをどうしてっ!」
ああもう。頭抱えて泣き出したいよ。これ更に広まってしまう可能生が出てきたぞ。
どうにかして……止めないと。
「特に先輩ってめっちゃ目が鋭いんでそれに顔を赤くして新井さんがアワアワしてるのとか妄想すると……ご飯が5杯はいけますね」
「本当にやめてくれねぇかなぁ!?」
実際付き合っていたとしてもそんな妄想を他人からされるのは恥ずかしいが……そもそも付き合ってないどころか知ってすらないからね!?
「まぁ、安心してください。あまり過激な妄想は俺らもしないんで。……R-18くらいの妄想までで留めるんで」
「それ全然留めてないよねっ! むしろ限界までいっちゃってるよねぇ」
「伊賀新井カプ最高ー」
「あと薄々思ってたけど君人の話全然聞いてないよね」
天高く拳を突き上げる彼を見て最早諦めの境地に達した俺は早く切ってこれ以上恐ろしいことを聞かないようにしようとする。
「んじゃ、俺もそろそろ帰らないといけないから」
「そうっすね、あまり先輩に時間を取らせるのもあれなんで俺も撤退します。今日はありがとうございました」
彼は俺が言いたいことにいち早く気がつくと頭を下げて教室のドアの方へと歩いていく。
しかし、途中で立ち止まるとこちらに一言。
「あ、あと言い忘れてたんですけど……もし、良かったら結婚式……俺らも呼んでくださいね」
そんなことを言い去っていってしまった彼に俺は言葉をかけることが出来ず固まる。
そして決意する。
最早、事態を収めるには当人である新井 瑞香ちゃん本人に聞く他ない……と。
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次回「ようやく分かったぞ!」
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