新入生の可愛い後輩が告白を断る際に俺と結婚の約束をしているからと言っているらしい……やめてくれ。
タカ 536号機
プロローグ 崩れさる日常
第1話 うん、振られたのは分かった。でも、なんで俺のとこくんの!?
ここはとある教室の一室。俺の前には泣き腫らしたような顔の男子生徒が座っている。
「伊賀先輩、その……俺、新井さんに振られたんす」
「ま、まぁその辛かったな?」
辛そうに声を絞り出す目の前の男子生徒に俺はなるべく優しい口調で返すと、肩を叩いて慰める。
「自分で言うのもなんなんですけど、俺こう見えて……結構モテるんすよ」
「うん、まぁ見てりゃ分かるよ?」
確かに目の前の彼は高身長で顔もイケメンだし泣き顔ですら美しさを感じさせるほどだ。モテるというのも分かる。
「でも、俺って今まで本気の恋ってしたことなかったんす。……でも、最近新井さんに心奪われて告白の為に努力もしました」
「伝わってくるよ。本気だったんだよな」
今でも堪え切れないのかボロボロと涙を零す彼の思いは本物だったのだろう。……報われなかったのは残念だが。
「それで、ショックはショックだったんですけど……新井さんの気持ちを聞いて俺も感動しちゃいまして」
「うん」
「だからこそ、俺は先輩に会い来たんす!」
「でも、それは分からないかなぁ!?」
彼の思いも、彼の行動も本気でそれでも振られてしまった。それは分かってる。分かってるんだが……なんで、その新井ちゃん?に振られたからって俺のとこに来んだよ?!
しかも、これで今月3人目だぞ!? 一体その新井ちゃん?は俺のことなんて言ってんだよ! 俺、知らないぞ、新井ちゃん!
俺は俺の手を握り締め熱く語り始めた彼を尻目に今までの俺を振り返っていた。
*
俺こと
一応、家柄故に勉学や運動に関しては多少は出来はするが天才である俺の姉からすれば俺の出来るは一般人のそれと変わらないだろうな。
つまるところ、どんぐりの背比べと言ったところだ。
そう、俺には優秀な姉がいる。……義理ではあるが。姉の優秀さ故に俺の平凡さは家では目立ってしまう。だが、俺もそれに関してはなにも言うことがない。
あの人を前にすればどんな人間も平凡の一言で済まされる。太刀打ち出来るのは俺の両親くらいのもの。……俺は家族の中で1人圧倒的に遅れをとっているのだ。
話が逸れたな。
要するにだ、今までの俺は平凡であるし目立つわけでもない。ただ普通の高校生のようにとてもくだらなく、とても大切な青春を生きる……それだけだったのに。
異変は俺が2年生になった時に起こり始めた。まずはLIN◯などで俺のことが話題に上がるようになった。友人の話によればそれは新入生の新井
新入生の新井 瑞香と言えば入学開始から一週間で8回もの告白をされたという伝説を作った子らしい。全国含めて学年一番の美少女とも言われるほどの凄さらしく、彼女が入学して以来基本的に毎日彼女の話題で持ちきりであった。
そして、そんな彼女が何故かしきりに俺のことを口にしているらしいのだ。
俺からすれば「なんで!?」案件であるし、間違いだと信じたいが噂だけならまだしも彼女に振られたという男子生徒の一部がこうして俺の元へ来ているのでさすがに関係ないとは思えない。
思えない、思えないが____とは言っても彼女が何故俺のことを口にするかは分からない。
俺としては非常に気になるところだがここで俺が彼女に話しかけに行けば更に噂が拡大する可能性もあるし、もし間違いならちょっとだけ恥ずかしい。
人の噂も75日、そんなわけでここは静観を決め込み噂がしぼんでいくのを待つのが得策だと考えていたのだが……。
この話題は留まることを知らず日に日に大きくなっていっている。
そんなわけで俺は今頭を悩ませており、これからどう動くべきかと思考を巡らせていた。
*
「だから俺っ、先輩に1つ頼みたいことがあるんっす」
「うん?」
少し考え事をしていた俺は突然の大きな声にビクッと体を震わせる。そして俺が目を合わせると男子生徒は真剣な顔をして頷くと、
「だから……先輩は必ず新井さんを幸せにしてあげてくださいねっっ!! ……いや、言い方を間違えましたね。先輩と新井さんでお2人でどうか幸せになってください」
「いや、なんでそうなった!?」
本当に新井ちゃんはなにを彼に言ったのだろうか? 本当に俺も動く時が来たのかもしれないと俺は男子生徒の次の言葉を待つのだった。
→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→
次回「学年一の美少女の後輩が俺を結婚相手だと言っているらしい」
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