第3話 ようやく分かったぞ


「はぁ、胃がいたい」

こうくん、おっはー! 辛そうだね」


 俺が朝からため息をつきながら登校していると友人である琴吹ことぶき つばさが声をかけながら俺の腕に掴まってくる。


「いつも通り朝からハイテンションだな。……あと、俺の腕にしがみつくのはやめてくれ。肩がつかれる」


 今、現在翼1人分の体重が右肩にかかっているので歩くスピードが落ちてしまう。


「しょうがないなぁ。僕は優しいから学校までこのまま行ってくれれば離してあげる」

「それのどこが優しいんだ?」

「冗談に決まってるじゃん。 翼ちゃんジョーク」

「ジョークというなら離してくれ」


 俺はそう言うと左手で少し乱暴に翼を引き剥がす。


「あぁ〜こうくんの乱暴」


 しかし翼も特に気にした様子はなく華麗に地面へと着地する。チッ、運動神経のいい奴め。


「とここで朝の翼ちゃん占い。今日はテストがないといいな」

「占ってないし、ただの願望だろそれ。そして残念ながら化学の小テストが翼を待っているぞ」

「はっ、今日は恐竜の卵を発掘しなきゃいけないんだ! こうしちゃいられない。じゃあね」

「待て、どこ行くつもりだ」


 俺はテストがあると聞くや否や学校とは明後日あさっての方向へと走り出した翼の後ろ襟を掴む。……全く、こいつは。


「離せぇ!! 僕を殺す気かぁ」

「はいはい、黙って学校まで行こうか」

こうくんの人でなし! ろくでなし!

 離せ、離してくれぇーーー!」


 俺はそのまま暴れる翼を引きずって学校へと向かうのだった。……いつも通り馬鹿やってたらちょっとは重たい気分も晴れたな。


 *


「んじゃ、俺はちょっと用事あるから」

「へ〜、珍しいね。なんの用なの?」


 学校まで着くとさっきまで散々暴れていた翼がケロッとした顔で俺の横を歩いていた。……どうやらさっきのは演技らしい。やっぱり変な奴だ。


「平凡な俺の平穏な生活を脅かす噂を止めにいくんだよ」

「うん、こうくんは平凡とか2度と使わないでね。その資格ないから」


 俺としては翼に聞かれたので少しはぐらかしつつも答えたのだが翼にそう真顔で言われてしまい黙り込む。


「大体さぁ〜、僕が片腕に掴まってんのに平然と歩いたり出来てる時点で化け物だからね?」

「翼が軽いからだよ。というか、姉さんと比べたら俺なんて下の下だから」

「静香さんを基準に考えるのはダメだと僕は思うけどなぁ。最早、人間やめてるし」


 そんなことを軽く言い合いながら玄関で靴をスリッパへと履き替えた俺はいつものように2年の教室へ向かう____のではなく1年生の教室の方へと歩いていく。


「じゃあ、まぁ頑張ってね。……後輩の美少女に手をかけるこうくん」

「かけてねぇし、知らねえんだよ! つーか、その話知ってたのか……」


 翼らしくない少し棘のある言い方に俺は思わず振り返って反応する。


「ふふっ、翼ちゃんの野次馬根性をあなどるなかれ〜」

「いや、それ全然自慢出来ることじゃないから」


 しかし、見ればいつもの翼だったので俺は安心すると1年の教室の方へと駆けて行く。……なるべく噂にならないように人に見つからない為に気配を消し顔を確認出来ないくらいの速さで。


 *


「……着いたな」


 新井 瑞香がいるという1ー6まで来た俺は少し息をつくと教室の中を覗き込む。そして一目見て確信する。アイツが新井 瑞香だと。


 1人だけオーラというか雰囲気がまるで違う。黒く艶やかな髪を腰元まで伸ばし、目は柔らかめの印象だが何故か強制的に惹きつけられるような美しさ。

 ここからだとよく見えないが足もかなり細くモデルかと見紛うほどだ。……レベルが違うと言ったところか。


 だが、やはり知らない。俺の知り合いにあんな奴はいないし、いたら絶対忘れないだろう。あのレベルの美少女。


「声をかけるか、それともバレないように近づき探るべきか……」


 考える時間もあまりないのでひとまずバレないように近づくことに決めた俺は誰にも見られないように教室へと侵入すると新井ちゃんへと近寄る。


 流石に素人相手に見つかるはずはない。……そう思っていたのだが。


「伊賀先輩の方から来てくれましたか」

「っ!?」


 完全に気配を断ち背後を取った俺に対し新井ちゃんは振り向くこともせず俺を感知し誰かまでも当ててきた。

 ……こいつ、普通じゃない。


「恐らく噂の件……ですよね」

「あぁそうだ」


 俺はあくまで平常を装う。本当になんなんだこいつは……というか声がなんか懐かしい感じするな。


「先輩はどうやら覚えてないみたいですね」

「なにをだ?」


 前から聞こえる少し怒ったような声に俺は少し疑問を抱きながらもそう尋ねる。


「まぁ、こんなに変わったのでは気づかなくても無理はないかもしれませんがねぇ、光太郎にぃ?」

「んっ?」


 光太郎にぃ、光太郎にぃ、光太郎にぃ俺の頭に新井ちゃんボイスでそのセリフが脳内再生される。俺に妹はいない。そして俺をそんな風に呼ぶ人間は1人しかいない。


「佐原か?」

「正解ですよ、光太郎にぃ」


 佐原は俺が幼少期に家が近くよく遊んだ一個下の子だ。……まぁ、引っ越しで遠くへと行ってしまったわけだが。まさか佐原がこんな風になっているとはな……別人クラスだぞこれ。


「まぁ、分かったのなら話は早いですね光太郎にぃ。結婚しましょう」

「いや、だからと言って結婚すると言った覚えはないのだが?」

「えっ!?」


 先程まで冷静だった佐原がここで心底驚いたような声を出す。


「つーか、時間だ。そろそろ行かないとホームルームに間に合わない。詳しい話はまた後な」

「えっ、ちょっ待って! 光太郎にぃ!? 光太郎にぃ!?」


 俺はまだなにかを言っている佐原……いや、今は新井か? 新井を無視して全速力で教室へと向かうのだった。



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 次回「結婚するって言ったもん!」


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