第5話
見世物小屋にも、売れるとは思えない。
見世物小屋は胡散臭さ満載の珍獣や、あからさまな張りぼて、見事な軽業などが拝める場所だ。
どれを取っても悠耶の出る幕ではない。どこから、どんな噂が流れたのだろう。
(それでも、買われちまってから芸ができねえと叱られても嫌だし、とっとと帰りたいけど、この有様じゃ、すぐにって訳にはいかねえかな。それにしても腹が減って……)
手拭を再度、頭の後ろで固く結ばれて、体も荒縄で縛り上げられている状態は、快適とは言い難い。
何より、腹が減っている。
不断なら、寺子屋が終わったら、一目散に家へ帰って、茶漬けか握り飯でも掻き込んでいるはずだ。
それでも日暮れ前には腹が減るのに、正午から何刻も経っているのだから、空腹もいや増す。
それに最近は、しょっちゅう三河屋の若旦那が何かと食い物を差し入れに持ってきてくれているから、腹が贅沢に慣れてしまったのかもしれない。
そうすると今日も惣一郎はやって来ているのだろうか。お父っつあんは惣一郎の土産を取っておいてくれているだろうか。
あー、腹減った。あー、……腹減った。
腹減った以外の事柄が思い浮かばない。
「ねえ、腹が減ってしようがねえ。何か食うものおくれ」
「はあ?」
口封じの猿轡をきっちり閉め直したばかりなのに、また何事もなかったかのように話しかける悠耶を見て、若見えは驚愕した。
「ふざけてんのか! 取れないよう縛りやがれ」
「ちゃんと縛りましたよう」
一度目よりもきつく縛ったはずなのに何故こんなにもすぐ取れたのか、解せない様子でまた若見えは悠耶の後ろに回った。
「腹が減ったんだってば。それをするなら先に何か食わせて」
「お前、自分がどういう立場か、わかってんのか」
どすっと脇腹を蹴りつけられて、呻く間もなくなく悠耶は床に転がった。
蹴ったのは背後にいた若見えではなく。毛むくじゃらだった。いつの間にこちらに寄っていたのだろう。
「一々うるせえんだよ。痛い目に遭いたくなきゃあ、黙ってろ」
倒れて物を言えない悠耶に、また口封じの布がかけられる。
くそう、痛い、腹減った。悔しい。
毛むくじゃらは憎らしそうな顔で。駄目だ、とても食べ物をくれそうにない。
しかも下半身から不穏な寒気が駆け上って来て、どうにもこのままじゃいられない気配を感じ取った。
悠耶は咳き込みながら、ここを抜け出す方法を思案しなくてはと思い始めた。
でないと小便が我慢できなくなる時は近い。
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