第1章 2話 ”社長”ⅡーⅠ

 あの人を助けてから、2週間がたった。

 全治半年はかかると医者から言われていたに、もう軽く走れるまでになっている。

 あなた、化け物かなにかッスか?、とたずねたら、


「あいにく普通の人間だ」


 と涼しい顔して答えてくれた。

 いやいや、全治半年って診断されてから、2週間で走れるようになるってどう考えても普通じゃないんじゃ…?

 人間って不思議だ…。

 エンティさんと話してからなんかやる気が出てきているような…気のせいか?

 なんかいろいろ説明されてたようだけど、オレは半分もわからないからどうでもいいか。

 でも、とにかく元気そうでなによりだ。

 …腹減ったな。



「今日は会社にいきます。お待ちかねの社長に会えます」


 野外で基礎訓練に励んでいたエクスとそれを手伝っていたウィルはそれぞれ


「ああ」「げ、マジッスか!?」


 と同時に返した。

 エクスとしては、自分の治療を指示した人物に興味があった。直接会うことで、多少なり思惑も見えてくるかもしれない…と。

 反対にウィルは、うんざり、というような表情だ。


「あの~エンティさん。自分腹痛で帰ったってことに・・・」

「なに?今すぐさらに減棒しもらって胃に穴を開けますって意味?」

「なんでもないッス!」

「よろしい」


 楽しそうなエンティと、参ったな・・・、という表情のウィルの様子がどうにも気になる。


「運送組織・・・確か”カナリス”といったな」

「そう、お金しだいで『どんなもの』でも運送する、そういう組織。今のご時勢、この商売はかなり重宝されてるよ」


 エクスは、現在まで自分が置かれている状況を説明されずにいた。状況がわからない以上、下手に動くのは愚策。

 とりあえず今は、ある程度まで動けるようになること。

 それがエンティから告げられた言葉だ。

 当然ながら同感でもあった。

 ”絶対強者”との死闘のダメージは相当のもので、身体表面の傷も深いものが多かった。火傷もあり、治療はしたとのことだが、左目から首にかけて、大きな火傷跡が残っている。しかし、失明しなかったことは幸運だった。

 加えて、幸いだったのは、五体満足であったこと。おかげで、回復にもそれほど時間はかからないように思える。


 ……ウィル=シュタルクには人間なのか疑われもしたがな…


 もともと軍人ゆえ、故障後の迅速な現場復帰のための訓練メニューは体得している。

 今は淡々とそれをこなし、身体能力を徐々に取り返しつつある。


「ていうかエクスは、なんでいきなり20キロも走りだすんスか?もっと徐々に長くしていくもんじゃ…」

「ちまちまと訓練するのは趣味じゃない」

「でも20キロはさすがに・・・」


 涼しい顔してついてくる貴様もだがな、と内心思うエクス。

 ”体力だけはある”というエンティの言葉は、あながちおおげさでもないようだ。

 現に走っている最中もエクスが息も絶え絶えになっているのを見て、あんまり無理しないほうがいいッスよ、と常にこちらに話しかけながら平然と併走してきた。


「がんばるのはいいけど、また治療代払うのはゴメンだからほどほどに。…ん、ウィル、エクスには『さん』づけしなくなったの?」


「本人が必要ない、と言ってくれたんでこうなったッス」

「…その方が都合がいい」


 若干打ち解けたように思えたのか、エンティも微笑を浮かべながら、それは結構なことで、と呟き、


「で、予定だけど今から、”ミステル”にいくよ」

「え、今すぐいくんスか」

「当たり前でしょ」

「急な話だな」

「暇じゃないの。こうしてる間にも仕事の依頼はたくさんきてるんだよ?”時は金なり”ってウチの社訓でしょ。忘れたのウィル君?」

「あれ?前は”地獄の沙汰も金次第”だったような・・・」

「今日また変わったみたい」

「面倒くさいッスね」

「ホントよね~」


 ”お客様第一”とかではないのか・・・、とエクスは思ったが黙っておいた。

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