第0話 ”始まり”への”終わり”Ⅳ-Ⅳ
そう、"骸”だ。
最後の一撃の破壊力は、"絶対強者"の両腕を破断させ、右肩をもぎ取り、頭部はセンサーはもはや骨組みといえる程度しか残っていない。
脚部も変形して装甲もほぼすべて失われている。
それにもかかわらず、"絶対強者"は立っていた。
いち早く再生させた唯一の武装である左肩主砲のみを構えている。
先ほどよりもはるかに微々たる速度だが、確実に「再生」し始めている。
唯一原形を残した右脚を軸に、左脚は膝下のない骨格だけのフレームを地に突きたて、バランスを保っている。
移動はできないようだが、こちらを追撃しようと旋回している。
あれほどの破壊から再生したことに驚愕するが、同時に、別の方に、なぜ、と感じる。
……なぜ、”肩”から再生した…。
機体の基本構造からではなく、武装から修復するなどあまりに非効率的。
機体のメインフレームを回復させれば、「再生速度」をあげられる。
加えて、今のソウル・ロウガの状態では、プラズマブレードを受けきる術はない。
機械らしくない、と思っていたエクスは敵の睨み合い、その理由がわかった気がした。
"骸"の赤く発光する『眼』から放たれるもの。それは人間が発するものとよく似ていた。
すなわち―――"怒り"。
感情のようだった。
自身を敗北させられたことへの屈辱。
それを与えた相手を、完膚なきまでに消し去る。
エクスは戦慄していない。
身体の痛みすら意識の外に追いやり、すでに戦う準備を終えていた。
「―――来いッ!!」
集束を終えた赤い閃光が放たれる。内部機構は完全に修復されていないのか、先ほどとは段違いに細い。
ソウル・ロウガは、回避すると同時に空中に跳び上がる。
脚部フレームが悲鳴を上げるが気にしていられない。
勢いに任せ"骸"の真上から左拳を構えて急降下。
姿勢の安定しない敵機は真上を向けない。射角外だ。
エネルギーコーティングすらできない拳撃が、"骸"を地にたたきつける。
その衝撃で床が崩落した。
"フリューゲル"により内壁が多数失われていたため、施設の構造自体が脆弱になっている。
地下深く落下した2機は新たな地にたたきつけられる。
衝撃から数瞬で回復したエクスは、巨大な光の柱を見た。
それは、この基地の主電力のコアだ。しかし、いびつな紫のスパークを放ち、非常に不安定になっている。
……違う、これは―――
と、思考するのもつかの間、押さえつけていた"骸"が、閃光を再び放つ。
若干反応が遅れたが、大きく後方に跳び退る。装甲が少し溶けただけですんだ。
思考が再開する。
……"次元の裂けた場所"―――
前にライネから聞いた。
時間転移後、計算では一時的に空間が不安定になり、"裂け目"が現れる。原理はわからないが、一種の重力力場のような状態で、近づけばどうなるか保障はできない、と。
「どうなるか保障できない…か」
ぎこちなく立ち上がった"骸"に視線を向ける。
片や人間のように怒る機械。
片や機械のように戦ってきた人間。
真逆であり、相反する、因縁。
「今度こそ終わりにしてやる…"絶対強者"などという、そのご大層な称号ごとなッ!」
ソウル・ロウガが突進する。真っ向からだ。
"骸"が主砲を放つ。しかし集束しきっていない。でたらめに拡散する。
エクスは避けることをしなかった。
拡散した隙間をぬっている時間はない。この突進に余力を全て注ぎ込む。
細かい閃光は機体を襲う。
確かな威力をまとったエネルギーのつぶてとなり、損傷した機体を激しく打ちつけ、装甲を削り取る。
つぶてが数発、胸部のコックピット付近に着弾。装甲が砕け、破片がエクスを傷つける。
頭、腕、脚、腹部―――金属片に襲われた場所は数え切れない。身体の表面を流れる血を感じる。かなり出血している。致命傷を受けているかもしれない。
……かまって、られるか!
"骸"に激突。突進速度は下がらない。そのまま押し続ける。
2機の行き先にあるのは、いびつな紫の"裂け目"。
"骸"の右腕が回復。再生したプラズマブレードをコックピットに突きたてた。
だが―――外れた。姿勢を保てないまま、放った刺突は正確さを欠き、エクスのいる位置からかなり左の空間を貫通。
それでも、エネルギーの余波が襲い、エクスは左半身が焼けつくのを感じる。
だが、機体の突貫速度は揺るがない。
逆に突き刺したことで、完全に固定され”骸”は身動きの一切ができなくなる。
「貴様は、ここで朽ち果てろっ!」
ソウル・ロウガが"骸"ごと、歪んだ"裂け目"に突っ込んだ。
その瞬間、周囲が暗転し、世界と切り離される。
異物による干渉のためか、不安定であった"裂け目"の領域が、爆発的に広がる。周囲の万物を巻き込み、それらを塵に帰していく。
2機は、空間に飲み込まれ、引きずり込まれていく。
……これで、いい…俺の役目は、果たし、た…
包み込まれるような浮遊感に身を任せる。
死力を尽くした男は、全身から力が抜けていくのを拒まなかった。
しだいにその意識は眠るように失われていく。
……ライネ…できるなら、またお前と……
●
その日、人類は終末の日を迎えた。
DNAという情報だけを残し、人の意志と可能性は絶たれた。
それが、世界のたどり着いた安息の形。
誰もが拒んだ理想の世界。
その先を語れる者はもういない…。
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