第0話 ”始まり”への”終わり”Ⅳ-Ⅱ

「仕掛けるッ!!」


 ソウル・ロウガが左肘のブレードを展開し、真っ向から突進する。

 "絶対強者"は、両腕の斬撃のタイミングをずらし反撃。

 はじめの斬撃は、ソウル・ロウガのがら空きになっている右側から襲う。

 だが、エクスはかまわんと無視する。迷わない。

 敵の斬撃は届かなかった。否、止められた。

 基地の内壁が分離し、浮遊している。それがソウル・ロウガの盾となり、攻撃を通さない。

 予測外の事態に、一瞬混乱した"絶対強者"の頭部に、拳撃がクリーンヒット。バイザーを砕く。


「ふん、予測できない事態には即座に対処できんようだな」


 エクスが鋭く追い立てる。

 2機が戦闘機動でめまぐるしく交錯する。先ほどとは攻守が完全に逆転していた。

 外壁から派生した浮遊装甲は時間に比例して数を増やし、ソウル・ロウガに加護の鉄殻を形成する。

 何枚か切り裂かれ、機能を失って脱落するも、周辺の壁から供給されるスピードの方が圧倒的に早い。

 "翼”――”フリューゲル"と称されたこの特殊機構は、この基地で彼女ライネだけが操作可能な、遠隔浮遊防御装甲である。

 ライネの左目に埋め込まれた義眼"アフマル"により、基地機能を自身の精神と同調リンク。タイムラグなしの完全制御下に置き、システムをフル展開する。

 いまや、基地全体が彼女そのものであり、ソウル・ロウガを包む無数の浮遊装甲は、まさに"翼"。

 強靭な防御支援を得て"ソウル・ロウガ”の、攻撃はさらに加速する。

 守らなくていい、ただ拳撃を打ちこむ事だけに意識を持っていく。


 ……機動力、運動性も遅れはとらない。なら追いつける。追いついて、叩き潰すだけだ…!


 拳撃を放つ、”絶対強者”がわずかに躯体を後方に反らし回避。流れる動きで、ブレードで切り上げてくる。

 だが、弾かれる。

 浮遊装甲が瞬時に反応。斬撃の起動に割り込み壁となる。 

 反撃したことにより”絶対強者”は、バランスを崩され、逆に隙をさらした。

 そこに再び、拳が刺さる。 

 正確な"絶対強者"の斬撃は、細かな鋼鉄の"羽"のによって拒絶され続ける。あの”絶対強者”が逃げに徹していた。

 ”フリューゲル”とソウル・ロウガの動きは完全にシンクロしていた。

 ソウル・ロウガの戦闘機動を妨げず、瞬間的に相手の攻撃軌道に回りこむ正確無比な細かい操作。

 攻撃と防御が一体化した様相は、呼吸が合う程度でできることではない。

 互いの性格、癖、思考の全てを共有できなければ成しえない。機械とは違う、極限まで関係を深めた人間の発揮する強さだ。

 斬撃は効果が低いと判断した"絶対強者"は、隙間を縫うように刺突を繰り出す。


「あまいッ!」『あまいッ!』


 エクスとライネの声が重なる。

 刺突してきた腕が、鉄殻の内側の領域に進入した瞬間、浮遊装甲が群がり、突き刺さる。

 腕をめった刺しにされ、エネルギー供給機構が破損し、プラズマソードが消失。それにあわせ、懐に飛び込んだソウル・ロウガによる拳撃のカウンターが敵の胸部に突き刺さる。

 装甲がひしゃげ、巨体がよろめく。かなりの痛手を与えた。

 だが、"絶対強者"は踏みとどまった。


「主砲が回復したか…」


 すでに左腕は引いている。

 "絶対強者"の右肩装甲の隙間から、赤い光が漏れている。しかし装甲自体はいまだ変形してゆがんでおり、完全に修復はできておらず、発射のための展開ができていない。

 再生するから、装甲など吹き飛ばそうと関係ない、という意図が感じ取れた。

 この至近距離からの回避は間に合わない。

 だが、この瞬間こそ、唯一の勝算が生まれる瞬間だった。


「―――仕掛けるッ!」


 敵の主砲が放たれると同時に、浮遊装甲全てが、ソウル・ロウガの前面に集中した。


『弾けえッ!』


 束ねられ光を帯びた浮遊装甲の群れが、敵主砲を受け止めた。 弾かれたエネルギーが荒れ狂い、周囲の内壁をでたらめに削りとる。

 しかし、何百枚という対プラズマコーティング式浮遊装甲であっても、完全な防御には至らない。

 エネルギーの奔流に歪み、結束が揺らいだ隙間から漏れたエネルギーがソウル・ロウガを襲う。

 頭部左側、脚部装甲、右肩など数え切れない装甲が徐々に削られていく。

 それでも生きている。ならば、ここが勝機。


「砕けッ!」


 "フリューゲル"の力を付加された巨人の拳が、ただ一点突破において主砲の威力を上回る。

 圧倒的な赤い暴風を巻き込み、自らの力に乗せ、束ね、打ち返す。

 主砲と拳撃の威力が相乗された、必中の一撃は、"絶対強者"の胸部装甲を破砕し、打ち抜いた。

 一瞬の静寂、赤い暴風が吹き荒れていた時とは180度反転した世界。

 その場にいるものからすれば永遠とも感じ取れる静けさ。

 ソウル・ロウガの手刀は、敵の胸部装甲を―――貫いていた。

 砕けた頭部の赤い"眼"は、光を失っていた。

 手刀が引き抜かれる。

 穿たれた穴が戦いの決着を告げる。

 2体の機械の巨人は、片や勢いよく膝をつき強制冷却の白煙を吹き上げ、片や勢いよく地に崩れ落ち鉄の骸と成り果てる。

 戦場において、世界において、絶対たる力を誇り、数多の人間を薙ぎ払ってきた悪魔は、―――たった2人の人間の前に敗北したのだ。

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