A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~

古キ新シキ

プロローグ 

第0話 ”始まり”への”終わり”Ⅳ-Ⅰ

 ねえ、生まれ変わるとしたら何になりたい?

 私は、前から鳥になりたいと思ってた。

 誰にも束縛されず、隔たりのない世界を飛び回る。

 まあ、そんな夢見がちなこと言ってると、あいつに決まって言われるんだよね。

 飛行機で飛んでこい、って。

 まったく、"もしも"の夢ぐらい、砕けて聞けないかな?

 どこまでも現実的で、バッサリな奴。

 でも、あいつは現実から決して逃げようとしなかった。

 自分の考える信念を曲げないんだよね。

 そんなところに助けられることも多かったな。

 私のほうが、年上とか言っても、やっぱり泣いちゃう時は泣いちゃうし、逃げ出したい時だってあるよ。女の子なんだから。

 こんな世界の中で生きるぐらいなら、死を選ぶほうが利口な選択だって思ったときだってある。

 そんな、どうしようもない気持ち抱えてる時にあんな事言われたら、普通に甘えたくなっちゃうよ。

 まあ、勢いでそのままいっちゃったけどさ。

 いつから両想いだったんだろうね。

 最初はどんな風に会ったんだっけ?

 なーんかろくな思い出じゃなかったような・・・

 ま、いっか。とりあえず言っとくよ?


 ……生まれかわっても、また会えますように……


 


 


 








 これははるか遠く、違う時空の、とある世界での話。

 今では誰も知りえない昔、何らかの過ちによって人類は、その道を踏み違えた。

 その結果生み出されたのが、人口知能"サーヴェイション"。

 元が何のためのシステムであったのかは、今となっては誰も知りえない。

 ただ、その人工知能が配下たる機械たちに与えた行動理由はただひとつ。


 "人間を採取する"ということ。


 それは、人間を永久に存続させるための唯一の手段。

 人はその形を捨て、"DNA"という姿になることが望ましい。

 それが機械たちの言い分だ。

 当然ながら、それは勝手な理屈。

 人類は反発し、機械との戦争が始まった。

 しかし、疲労もなく、圧倒的な物量で押し寄せる軍勢を前に人類は常に劣勢を強いられた。

 わずかばかりの勝利も、局地的なもの。

 大半は敗北をきっし、長い時の中で人類は徐々に姿を消し、その数を減らされていった・・・。

 軍上層部は、最後の作戦として弾道核ミサイルによる、人口頭脳"サーヴェイション" の破壊を最善案として実行に移した。

 でも誰もがわかっていた。

 それが無駄な抵抗であると。

 それでも現実を見るしかない人々は、大半がそれに賭けるしかなかった。

 しかし、それと別に、まったく違う方法を唱える者がいた。


 "過去の改竄"


 過去に時間移動し、もう一度別の未来を創る。

 あまりにSFじみた夢物語。

 当然ながら発言当初は、嘲笑され、冗談としか見られなかった。

 お前は頭がイカレてるとも言われた。

 そんなものは、幻想だと。

 しかし、その者はそんな声などへでもない。たとえ自分ひとりでも、実行に移すつもりだった。

 中には、夢を見るのも悪くない、と考える者も現れた。

 そんな連中が集まって、協力し、今計画は実行段階まできていた。



 時間転移施設”イストワール”。


「ファナクティ、外の状況は?」


 と”箱舟”に乗っている。ライネ=ウィネーフィクスは尋ねた。

 尋ねながらも、その指はコンソールを忙しくたたいている。


「計測不能だ」


 外と通信する物静か雰囲気の男は、レーダーと通信文を交互に眺めながら眺めながらぼやく。


「撤退の指示は?」

「すでに出した。だが、あいつらは聞く耳を持たない。…また明らかに数が増えた」

「まったく…バカしかいないんだから!」


 人差し指でエンターキーを打つ。


「チャージはほぼ完了…後は時間軸の調整だけ…」


 ライネが次の作業に入った。


「もういいよ。こんどこそ撤退させて。時間稼ぎは防衛設備だけで十分―――」


 そういいかけた時、突如防衛していた味方から、通信が割り込んだ。


『わ、わるいな…』


 ひどい雑音にまみれている。機体内部まで損傷が及んでいることが理解できた。


「ベア! どうしたの!」 

『突破、される…倒す気、だったんだがな…おれは、ここまで、だわ…』

「まさか…! ばか、どうして1人で…!」

『”奴”が、そっちに行く、ぞ…気を、つけ―――』


 言葉の途中で通信が一瞬の雑音に飲み込まれ消失した。

 レーダー上のマーカーも【LOST】を表示する。


「まずいな。ライネ」

「聞いてた!」


 ライネは手を止めない。


 ……く、不安定なまま跳べば、どんな影響がでるか―――


 未知の部分が多い技術。どう転ぶかわからないのに万全でもないのは危険が大きすぎる。


「いかん! 突き抜けてくるぞ! 目の前じゃ!」


 男が叫ぶと同時に天井から、2本の光の濁流が突き抜けてきた。

 当然外の光などではない。今は夜。


 ……あいつしかいない…!


 光の濁流は天井を粉々に蒸発させ、進入路を無理やりこじ開ける。そして巨大な脅威を格納庫内に落とした。


「"絶対強者"…!」


 侵入というより、床を焼き貫いて突入してきたという方が正しい。

 "絶対強者"は、無機質な悪魔の様相を呈していた。

 長い腕部、と広く重厚な装甲をまとった肩部。機体各部に露出した排気口。

 そこに立っているのは、その人間離れした体躯をしているのは、無機質な殺戮兵器。

 戦場で圧倒的な力を奮う、”絶対強者”。

 ライネは、その赤いバイザーが"船"のガラス越し自分を睨み、見下ろしているように錯覚した。

 肩の装甲を展開し、プラズマ粒子が収束する。


 ……主砲が、来る…!


 あの光に飲み込まれ、全てが蒸発して果てる。この"船"に乗った人々もう同じ運命を辿る。

 そう思った瞬間だった。

 格納庫のゲートを吹き飛ばして別の機影が飛び出し、横っ腹から"絶対強者"に激突した。

 バランスを崩された主砲の射角が天井を向き、強力なプラズマ粒子砲は空へと放たれる。

 ”絶対強者”は腕部のプラズマソードを展開。飛び掛ってきた敵に切りつける。

 相対した機影も、肘部のプラズマブレードを展開し、それを受けた。

 強力な閃光が周囲を真昼同然の明るさに照らし出す。


「ソウル・ロウガ…! エクスか…!」


 ファナクティが、その機体―――ソウル・ロウガを操る男の名を叫んだ。


『―――お前たちは行け…、”絶対強者”は、俺がこの場で潰す…!』


 エクスという名の男はそう宣言した。



 エクス=シグザールは、”絶対強者”と相対する。

 幾度となく、戦場で出会い苦渋をなめさせられてきた。

 好敵手ではない、因縁めいたもの。

 それがエクスと”絶対強者”の間には存在していた。 


『エクス、今出たら戻れなくなる』

「出なければ全員消し飛ぶだけだ…!」




 ソウル・ロウガは敵機の腕をはじく。弾かれ、無防備になったその腕を下からつかみあげる。


 機体の掌底部にエネルギーが瞬時に収束。炸裂させたエネルギーが、敵機の腕部を半ばから千切りとった。 ”絶対強者”は衝撃によろめく。


 ……隙を逃す気はない…!


 間合いを離そうとする"絶対強者"にソウル・ロウガが肉薄し、連撃を繰り出し続ける。

 格納庫の通路の隔壁を突き破り、奥に向け敵を押し出す。

 片腕を吹き飛ばしたとはいえ、相手の動きには微塵も同様などない。

 こちらより一回り大きい体躯をしているにもかかわらず、無駄なく紙一重で回避している。

 だが、動きを止めるわけにはいかない。

 一瞬でも動きを とめたら最後、両肩の主砲が直線上の万物を破砕することはわかりきっている。


 ……だが、いける!攻めの手は緩めん・・・押し切る!


 "絶対強者"の足が床を踏みしめ、反撃の斬を放つ。


 ……読めているぞ…!


 機体を沈め、回避。カウンターでエネルギーコーティングした拳撃が、相手の右肩を砕いた。


 ……これで主砲を片方つぶし―――


 そこでエクスは自身が油断を誘われたことに気づく。いやすでに遅れた。

 左肩の主砲に光の集束が完了。即座に赤い閃光が襲う。

 ソウル・ロウガの右腕が肘半ばから融解。千切れ、消し飛んだ。だが、同時に相手の主砲も吹き飛んだ。

 とっさの判断で、右腕を主砲の発射口に叩き込み暴発させたのだ。エクスにしかできない咄嗟の判断力が功をそうした。

 しかし。衝撃はすさまじい。


「ぐっ…!」


 激しい揺れに、一瞬視界が暗転する。

 まずい!、と思ったときには、敵の斬撃が閃いていた。

 勘だけで機体に回避運動をとらせる。

 しかし、避けれない。右肩損失のアラームが鳴り響く。


 ……この程度なら…!


 視界が回復。次に繰り出された斬撃は残った左肘のブレードを展開し、受ける。力が拮抗し、互いに引けない。


 ……いや、違う。"絶対強者コイツ"と切り結ぶな…!


 またも瞬間的な判断。

 機体をバックステップさせる。その、0.5秒後にその空間が別方向からの斬撃に切り裂かれた。


 ……暇を、与えたか…


 先ほど破壊したはずの敵機の片腕から一撃。

 高出力のプラズマソード、戦術火力たる両肩の主砲、巨体に似合わない高機動と、変則的な運動性能。しかし、この機体が恐れられているのはそこではない。幾度も仲間を食らってきたコイツの真の強さの根源。


 "絶対強者"は、――再生する。



 人類と機械との戦争の中で、"絶対強者"は過去に2回撃破された記録がある。

 決して勝算がない相手ではない。仲間との連携が図れる状況で成立する戦術だ。

 具体的には、中枢である"サーヴェイション"からのエネルギー供給を電子兵装で遮断することで、活動を停止させることができる。

 しかし、この状況ではそれは望めない。

 孤立無援の状況で、この"絶対強者"と対峙すること事態が自殺行為に等しい。

 初撃の奇襲の成功からここまで押せていたことは、エクスにとっても驚愕であった。

 この機体"ソウル・ロウガ"は、"絶対強者"に対抗できる性能を持つ機体となるようライネが設計した。

 通常オプションパーツを装備し、汎用性を重視した既存の機体とは設計コンセプトがまったく異なる。一言で言えば、この機体は「格闘戦しか」できない。

 戦術火力の一切を捨て、装甲強化、機動性、運動性を跳ね上げた完全なインファイト特化機。バカバカしいほどに破壊力、攻撃力を追求したこのコンセプトが"絶対強者"に対して有効であったことは、初陣から証明された。

 だが、所詮は相性が若干有利であるだけだ。「再生」能力を考慮すると、やはりこの戦闘は無謀としかいえない。

 とはいえ、履き違えてはならないのは、この戦闘は"船"の転移まで時間を稼ぐことが目的だということだ。勝とうとするのは、エクスの執念のようなものでしかない。

 最低でも時間稼ぎに成功しさえできれば、この戦闘の目標は達成される。だいたい、"絶対強者"(コイツ)には"船"の目的やら何やらは関係ない。

 目の前の人間を"殲滅"することが唯一の行動目的なのだから。

 自身の死ぬタイミングでさえ、エクスは計算していた。

 いざとなれば、主砲に飛び込んででも"船"に被害が及ぶことは阻止する。

 こうして睨み合っている最中でも、敵機の再生は進んでいる。

 周辺の鉄屑をナノマシンで分解し、自身の躯体として構築していく。


 ……肩部の損傷回復はまだ時間が稼げるか。


 かなり深いところまで損傷を与えたおかげか、肩の主砲の修復には相当時間がかかっているらしい。

 といっても時間の問題だ。


 ……どうする…。


 飛び掛ろうにも、片腕だけで敵の2本の斬撃をさばくことは至難の業だ。リーチはもともとあちらに分がある。

 この状況でエクスが勝利する手段は1つしかない。


 ……一撃…。


 そう一撃で相手を大破までもちこむ他ない。それも、強固な胸部装甲を破壊し、そのメインフレームまで甚大な損傷を与えれば、おそらくは―――

 しかし、そこまで考えてエクスはフッと笑った。


「死に際の賭けか…俺らしくない。あいつに聞かれないのは幸いか―――」

『いや、バッチリ聞こえてるよ。ムッツリ君』



『誰がムッツリだ。今言ったことも忘れておけ』


 エクスの声を、ライネが通信ごしに受けとる。


「残念。私、記憶力もピカイチなんだなこれが。誰が忘れてやるもんかい。いつも私には『現実をみろ~』とか言うくせに~」

『ふん…準備はできたか』

「うんバッチリ。お疲れ様~。あと5分で完全に転移完了よ」

『…そうか』

「あれ?しんみりしてる? そりゃそうか。恋人との永遠の別れはつらいか。うんうん」

『うぬぼれすぎだ。俺は目の前の敵をどう叩き潰すか考えている』

「…まっすぐで微塵もぶれないね。本当に君らしいよ」

『なら、俺の執念につきあう気はあるか…』

「当然!」

『ライネ=ウィネーフィクス! この戦い、俺が勝つには、お前が必要だ…行くぞ!』

「了解。義眼"アフマル"、起動。君はもう振り返ることも、守ることも考えなくていい!その拳で思いっきりぶん殴ってこい!」


 ライネの周囲にウインドウ表示のボードが球体状に多数展開する。

 この施設は、単なる研究施設とは違う。

 内部に特殊なシステムを備えた要塞。

 そして、彼女は自身の精神を同調リンク。直結―――起動。

 自身と同等を得たこの要塞そのものが、絶対的な加護を与える。


 ……私は、今この場で命を賭けることはできない…だから、せめて…


 転移完了まで残り5分。

 今、この瞬間から彼女の"翼"がエクスに味方する。

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