お食事の誘い

解読は出来た。

だが、その魔導書、全てを俺が操る事は出来ない。

召喚術師は元々は魔術師から派生された職業。

召喚物を召喚する為に、召喚術師は魔力を消耗するのだ。

俺の肉体や魔術適正は平均的な能力値である。

それ故に、上位召喚を行ってしまえば、最悪魔力不足で死に至る事もある。

バヨネット・イヴの召喚と召喚維持による消費だけで、俺は魔力がカツカツだった。


「魔力不足なら、良いものがあるよ」


そう言って、ティア・ホーキンスは自らの目に手を伸ばす。

彼女は、自らの眼球に指を突っ込むと、ゴギュリ、ギュリッ、と眼球を抉る音を響かせながら瞳から血を流す。

そして、眼球を彼女は抉ると、それを俺の方に差し出した。


「『錬眼』、所有者のエネルギーを増幅させる眼球」


いや、それは知ってる、けど、それを俺に渡して来ないで欲しい。

隻眼者の異能の眼球、能力増強としては素晴らしい性能を持つだろうが、一度それを使用すれば、健常である自身の眼球を潰さなければならない。

わざわざそんな事をしなくても、より安全に魔力を付加させる事は出来る。

だから俺は、ティア・ホーキンスには悪いが、彼女の好意を断った。


「その、御好意だけ、受け取っておきます」


ただでさえ、千里眼によって監視させられていると言うのに。

眼球を受け取ってしまえば、それこそ『虚ろなる瞳の握り手』の眷属として、全ての行動が筒抜けになってしまう。


「そう、いいなら、いいけど」


ティア・ホーキンスは気にしていない様子で、無表情なまま、自らが抉った眼球を再び自分の眼窩の奥へと押し込んだ。

それによって彼女の眼球は元に戻る、まるで取り外し可能な人形みたいだった。


俺は、ゆっくりと体を起こす。

軽く伸びをした所で、ティア・ホーキンスの方を見る。

何か、物欲しいような目をしていて、俺は、言う。


「翻訳はしてないですよ…?」


魔導書の内容を確認していただけなので、翻訳したものは用意していない。


「え?」


ティア・ホーキンスはふと我に返ってその様に言った。

なんだろうか、その反応は別にそういう意味で見ていたワケではないと、そんな感じだった。


「あー…別に、あっても無くても、どうでもいいかな」


と、ティア・ホーキンスはそう言った。


「で、この後はどうするの?また、魔導書の解読作業に移るの?」


そう、ティア・ホーキンスが言ってくる。

それは勿論、ティア・ホーキンスがこうしてやって来たからこそ、今は作業の手を止めているに過ぎない。

しかし、彼女が鍵を返して欲しいと言うのであれば、俺はそれを返さなければならない。

無論、一つのお願いを使えば、そうなる事は無いだろうけど。


「此処、簡易的な食事しかないでしょう?」


ティア・ホーキンスは休憩室の方に目線を向ける。

此処に置かれている食事は、保存が効くパンが多かった。

味気ないが、食えば腹は溜まるので、俺はそれを食べながら作業をし続けていた。


「えぇ、まあ…」


俺は歯切れの悪く声を発する。

するとティア・ホーキンスは腕を組んだまま、俺に聞いて来る。


「ごはん、食べに行かない?話、聞かせて欲しいから」


ティア・ホーキンスは、そう言って俺を誘って来る。

イヴの方に顔を向けると、イヴは少し嫌な表情をしていた。

彼女。ティア・ホーキンスの事が苦手であるらしい。

俺も正直を言えば苦手だ。

何よりも彼女が契約している『虚ろなる瞳の握り手』が恐ろしい。

しかし、彼女の言葉を否定するのはダメだ。

彼女のお陰で、こうして個室でゆっくりと魔導書の解読が出来ているのだから。


「それは宜しいんですが、俺は金が…」


「出すよ。それくらい」


そうして決まった。

俺とティア・ホーキンスは一緒になって食事をする事になった。

ティア・ホーキンスは馬車を用意していた。

いや、馬車、と言うよりかは、それは未来から来たスポーツカーの様に見えた。

と言うかそれそのものだ。


「テュランクス…」


確か『サイバーダウン』と言う近未来SF小説、俗に言うサイバーパンクと言う世界観で登場する乗り物だ。

未来の乗り物なので、車に必要なタイヤは無くて、空中を浮遊して移動する。

そしてこのテュランクスは未来のカーレースに登場する乗り物であり、名前の通り操作が難しいのだ。


「ティアさん、操縦するんですか?」


俺は恐る恐る聞く。

するとティア・ホーキンスは後部座席に座る。


「これ、タクシーだから」


タクシー…この世界でもそう呼ぶのか。

俺は運転席の方を見ると、このスタイリッシュなテュランクスには似つかわしくない、禿げた五十代ほどの男性がにこやかな笑みを浮かべている。

この人だけ見れば、普通に場所を操縦する気のいい運転手に見えるだろう。


「大丈夫かな…」


俺はそう心配しながらも、助手席の方に座ろうとした。


「そっち?」


と、ティア・ホーキンスが首を傾げて言った。

え、そっちって…どっち?俺も首を傾げていると、ティア・ホーキンスが隣の席に手を軽く叩いた。

あぁ、そっちに座れって事か。

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召喚魔術学院、無能な召喚術師に転生した主人公、上位貴族に公開処刑をされかけるが、魔導書がライトノベルだった、無数のヒロインを召喚して強くなる、異世界ファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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