格を見せる退室

異空間フィールドが解除された事で、周辺が元の図書館へと戻る。

最初、俺の敗北を待ち侘びていた生徒たちの表情は次第に変わっていく。

腰が砕けて真面に立つ事の出来ないエリックの姿を見て、生徒たちは声を漏らした。


「おい、嘘だろ」「まさか負けたのか?」「あの上位貴族のエリックさんが…」「おい。なんだよあの召喚物」「あれ、もしかしてクレイが…」「能無しのクレイが、まさかッ!」


エリックの敗北にみんな信じられず、俺が勝利した事が信じられない生徒たち。

けど、事実は事実だ。エリックを倒したと言う事実は、覆らない。


「おい、冗談だろエリック!どうせ召喚物を隠してるんだろ!?演技だよ演技!!ほら、エリック!!立てよ、お前の召喚物であの能無しを倒しちまえ!オイ!!」


取り巻きの一人がその様に叫んでいる。

それ以上は聞くに堪えない事だった。


「クレイ、どうしますか?」


隣に居たイヴが、少し痛ましい表情をしながらマスケット銃を握り直す。

一応は主である俺の為に、侮辱な言葉を口にする生徒たちを処分しようとでも思っているのだろうか。


正直、俺はエリックに勝ったと言う満足感でいっぱいだ。

それに、この生徒たちの罵倒に近い言葉も、今は賞賛の様に聞こえて悪くない。

なによりも、人を守る為に戦っていたイヴが、痛ましいと言う思いをしてまで他の生徒に危害を与える様な真似はしたくなかった。


「別にいいよ、イヴ。それよりも、戻ろう。今は…試したい事がたくさんあるんだ」


俺がそう言って出口付近へと近づく。

取り巻きたちが俺を避けていくが、その内の一人が鬼の形相をしながら俺の胸倉を掴んで来る。


「てめぇ…どんな汚い手を使いやがった!エリックが負ける筈がねぇだろ!!」


と、そう言ってくる。

なんとも、エリックの事が好きなんだな、と思ってしまう。


「きっと、別の召喚術師を雇ったに違いねぇ!!この召喚物も、お前のものじゃねぇ筈だ!!能無し如きがエリックに勝てるワケがねぇだろうが!!」


喧しく責め立ててくる。

この取り巻きをどうするかと考えていた時。


「…それ以上は」


取り巻きの方に近づいてくるイヴが、胸倉を掴んでいた取り巻きの手首を軽く握ると、自らの握力で引き剥がす。


「ぐ、う、ぎっ、い、でぇ!はなッ、離せッ、おいいい!!どうせ、隠れてんだろ、召喚術師、この能無しから幾ら貰った、俺はその倍を払ってやる、だから止めさせろぉおお!!」


そう言って暴れる取り巻き。

俺は、取り巻きの手首を掴むイヴに顔を向ける。


「いいよ、イヴ、こいつを懲らしめたって、意味なんて無いから」


「…がそういうのでしたら」


この時、イヴは俺の事を主と呼んだ。

これによって、俺とイヴの関係性を強く強調させたのだ。


「まさか…嘘だろ」「本当に、あの召喚物が…」「お、おい、やべぇよ、俺らアイツをイジメて…」「イジメてたのはお前だけだろ!」「ほ、報復されるッ」


生徒たちの声は、恐れに変わっていた。

別に俺が何をしようとは思って無いから、心配しなくても良いが…けれど、媚びる様な真似はしないで欲しいと思う。

流石にそれをされてきたら、俺も少しは、苛立ってくるかも知れなかった。


「さあ、行こう、イヴ」


俺はイヴを連れて、図書館から出ていく。

イヴは、俺の後ろを付いて来ていた。


「これから、どうするのですか?クレイ」


イヴが今後の行動を聞いて来る。

俺はそうだな、と呟く。これを喋っても良いのかどうか、悩んでいた。

なにせ、俺がやる事、その内の一つが、イヴの好感度を上げる、と言ったものだ。

召喚術師である以前に、俺は彼女が活躍したライトノベルのファンでもある。

その推しがこうして傍に居るのならば、お近づきになりたいと思うのは自然な事だろう。


しかしそれを口にしたら、逆に彼女の好感度は下がってしまうだろうから、俺はそれを口にすることなく、別の事を言う事にした。


「あそこは一年生専用の図書館だけど、他の生徒が居るから使えなくなる…俺が魔導書を解読出来る事が分かったら、面倒臭い事に巻き込まれそうだからね」


賢者ですら解読するのに時間が掛かると言うのに、それを読み解く事が出来るとなれば、世界中の魔導書を読み解いてくれと言われそうだ。


俺が魔導書を読み解いたと言う事実は伏せておいて、今回の事は、魔導書を解読したのではなく、偶然召喚する事が出来た、と言う話で留めて置く。


しかし、俺は他の魔導書を使って召喚出来るかどうか試したいので、出来るだけ人目が憚らない場所が良い。

とすれば、あの図書館は使えなくなる、エリックを倒したと言う事実だけで、俺の所にも取り巻きが出来そうだからね。


「この学院には他にも図書館があるけど、二年生、三年生や、教師専用だから、使えない…だから、少し学院から出て、国立魔導書図書館に行こうと思う、あそこなら、個室もあるしね」


「そうですか、では、行きましょう」


と、イヴが言い出してきたが、俺は彼女を見てどうしようか悩んだ。

イヴは召喚し続けたままで良いのだろうか?彼女のステータスを見られたら、英雄級の召喚物として他の召喚術師にスカウトされそうだ。

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