一撃で焼却
エリックは彼女の方を見ている。
バヨネット・イヴは、マスケット銃を杖にする様に握り締めていて、そのマスケット銃は自分の身長よりも長い。
「召喚…はッ、どうせまぐれだっ!そうやって召喚出来ても、召喚物に殺されんのがオチだッ!!」
と。
エリックは俺の成功を認めようとはしないが、確かにそうだ。
例え召喚物…召喚術師が自らの魔力を媒体にして召喚したとしても、相性の不一致で召喚術師自体が殺されてしまう可能性がある。
だから偶然召喚出来たとしても、そういった理由で殺される召喚術師は少なくなかった。
だが…バヨネット・イヴは他の召喚物とは比較的に大人しい性格をしている。
更に加えて、俺は彼女が登場した作品、『機神乙女』の内容を熟知していた。
機神乙女は戦争の物語。
ある国が作り上げた人造兵器、機神乙女を作り出し戦争をしていた。
終戦間近の際、十二体の機神乙女が存在している事を疎ましく感じた軍事関係者が、ある一人の機神乙女にウイルスを仕込んだのだ。
同士討ちをしろと言う命令を強制的に実行させるウイルス、それを、誰よりも姉妹愛の強いバヨネット・イヴに植え付けた。
そうして始まったのが物語本編。
ウイルスによって狂ったバヨネット・イヴの虐殺が始まり、姉妹たちは戦い、そして終わりを迎えた頃には、バヨネット・イヴ一人しか残らなかった。
最後に、瀕死状態のバヨネット・イヴに軍事関係者が発砲し、それと同時に終戦の祝砲が鳴らされて幕を閉じる。
それが、機神乙女の全容だ。
彼女は、自らの姉妹に手を掛けた事に後悔をしていた。
「やれぇ!リザード・ソルジャー!!」
エリックがそう叫んで俺に向かって攻撃を命令した。
あくまでも、イヴではなく、俺を痛めつけたいと言う事が分かった。
だが、たかが雑魚キャラが、主役を張っていた彼女を倒せる筈が無いだろう。
「イヴさん、お願いするよ」
「お願い…?命令と言って下さい」
彼女は暗い表情をしながらそう言った。
召喚術師が召喚物を召喚した場合、この世界の法則や状況を理解出来る様に知識が与えられている。
彼女は人造兵器であり、彼女と言う存在は、人間を守る為に存在しているのだ。
「いいや、俺は、君にお願いをするんだ…」
だからこそ、彼女、バヨネット・イヴは機神乙女である事を拒んでいた。
戦争と言う時代、戦わなければならない事は仕方が無い。
彼女たちはその為に誕生して、全ては戦争を終わらせる為に行動している。
バヨネット・イヴは、軍事関係者から聞かされた、戦争が終われば、人間に戻してやる、と言う言葉を信じて、やりたくも無い闘争に身を任せ、戦い続けていたのだ。
決して人間扱いなどされていない。全ての人間は、彼女たちを兵器として見ていたのだから。
それが、彼女にとっての辛い境遇なのだろう。心の枷とも言うべきだ。
例え命令を行いこの場を凌いだとしても、彼女と俺の間には溝が出来ている。
だから、その溝を埋めなければならない、そのやり方で、たかが言葉一つで改善出来るとは思って無いが、それでも、小さな積み重ねが彼女の冷めた心を溶かしてくれるだろうと思った。
「事情は知ってる、だから、俺は君を兵器とは見ない、人としてお願いする。俺を助けて欲しい」
俺の言葉を聞いて、彼女は一体どう思ったのだろうか。
ゆっくりと、藍色の瞳で俺の事を見ている。
俺も彼女の視線から逃れる事なく、彼女の瞳を見続けた。
そうしているうちに、リザード・ソルジャーがやってくる。
俺を殺そうと大きな鉈を振り上げた。
「やれぇえ!やっちまえぇ!リザード・ソルジャー!!」
その言葉に呼応するかの様に、リザード・ソルジャーが奇声を上げる。
「…そんな事を言って下さる人は、私の世界には、いませんでしたよ、主」
マスケット銃を構える。
俺の目を見つめたまま、彼女はリザード・ソルジャーに銃口を合わせて、引き金を引く。
すると、マスケット銃の銃口から放たれたのは弾丸ではない。
それは、太陽を凝縮したかの様な、熱射線で、所謂、ビーム、レーザー、なんて呼ばれるものだった。
反動が大きく、彼女はノックバックをして、腕を大きく上にあげた。
熱光に包まれたリザード・ソルジャーは、跡形もなく消え去り、エリックは尻もちをついている。
どうやら、直撃寸前だったらしい、彼の赤色の髪が横半分、プスプスと焼け焦げていた。
「ひ、ひいいい!!」
エリックは信じられないと言った感情と、彼女の実力、その圧倒的強さを肌で体感して、恐怖を覚えていた。
体を震わせているエリックの方を、バヨネット・イヴは見つめている。
「どうされますか?主」
「…相手が降参するのなら、殺さなくてもいいよ」
と、そう言うと、エリックは両手を上げた。
声にならない程に恐怖しているらしく、その降参の手を見て、教師の方に顔を向ける。
教師も口を開けて唖然としていた。
まさか俺が勝つとは思って無かったらしい。
「この結界、解いて下さい、勝負は決しました」
その一言を以て、教師は頷き、魔力を閉ざす。
「勝利、おめでとうございます、主」
「主はやめてくれ…俺はクレイ・マリー、クレイでいい」
空間が、ガラスが割れるかの様に決壊していく。
彼女は、俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべつつも頷いた。
「本当に、対等で接する気なのですね、…でしたら、私の事も、イヴと、および下さい」
そうして彼女が握手を求めて来たので、俺も彼女の手を掴んでみせた。
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