第5話 私の名前は
謎の白髪の美少女に人生初めての脅迫を受けてから一週間、ソラは約束を破ることなく、毎日森に通い続けていた。
「ねぇ変態、そっちに行ったわよ」
「ハイハイ、ソウデスネ」
ソラは右手に持った剣に魔力を纏わせて、姿勢をやや前傾に傾けて敵を眼前にとらえたと同時に剣を振る。
「ウィンドカッター」
「グギャ……」
ソラが放った風魔法による斬撃により、ゴブリンは深い傷を負い、そのままこと切れ地面に倒れる。
「よくやった、褒めて遣わすわ」
「け、可愛くねーやつ」
「なんか言った?」
ビリビリ
「イエ、ナンデモナイデス」
いつか絶対この女泣かしてやる
今日も今日とて、そう心の中で誓うソラだった。
「しかし、案の定ゴブリンごときでは相手にならないわね」
「いや、おかしいだろ。なんでお前そんなに強いんだよ」
そうなのだ。この白髪の少女、実際にものすごく強いのだ。
ソラがゴブリンの頭を一匹ずつ切り落とす前に、この少女は雷魔法を使って複数のゴブリンを一斉に焼き尽くしてしまうのだ。
そう、雷魔法。この白髪美少女は上位属性である雷魔法を使うのだ。
一般的に、上位属性に適性があるやつはそうそういない。上位属性はそれだけ貴重であり、適性があるだけで将来の成功が約束されるといわれている
ソラは生れて初めて見る雷魔法に最初は驚きこそしたが、今はもう慣れて、白髪美少女と連携が取れるほどになっていた
「当たり前でしょ、私だもの。当然だわ」
「さいですか…なら、もう俺なんていらないんじゃねーか?正直、お前ひとりだけでもゴブリンやコボルトくらいやってけるだろう」
ソラはこの一週間、この白髪美少女に鍛錬という名目で魔物狩りに付き合わされていた。だがソラには疑問が残る、なぜこの少女は自分も一緒に連れて行くのだろうかと?
「不可能ではないわ。でも、森の奥に行くにつれて魔物の強さが上がっていくでしょう?魔力切れの心配もあるし、比較的戦闘経験のありそうなあなたを連れて行くほうが効率がいいのよ」
「ああ、なるほど」
確かにそのほうが効率がいいし、自分も連携プレイが学べるから悪くないな。
「そゆこと、この私とパーティーを組めることを光栄に思いなさい」
「なんでそんな偉そうなんだよ」
メリットもあればデメリットもある。この女、とにかくずっと偉そうなのだ。ことあるごとに尊大な発言をするし、すぐに俺のことを見下してくる。
たしかに、こいつは雷魔法は使えるし、時たま的を射るような的確な発言をするし、可愛いし綺麗だし天使の様だけど、嫌なものは嫌なのだ
決して異性として好きにはならない。ないったらない。
「そろそろ、ここらへんでやめとくか?」
「いいえ、今日はもう少しやるわ」
「へいへい、了解です。お嬢」
「その呼び方はやめて!」
いつになく真剣な表情で俺に告げる。
「お、おう。でも、じゃあ何て呼べばいいんだ?俺は未だにお前の名前を知らないんだが」
「そ、それもそうね。ごめんなさい、少し言い過ぎたわ」
驚いた。このプライドの塊の様な女でも人に謝ることができるんだな。
お兄ちゃん関心関心。
「今、よからぬこと考えたでしょ?」
「キ、キノセイダヨ」
怖、なんつー勘してやがる
「そうね…私はユキ…ただのユキよ」
「ユキか、透き通るような綺麗な白髪を持つお前にぴったりないい名前だな」
「ッッ////」
「次は、俺の番だな。俺は___」
「あなたは変態ね」
「___変態じゃねーよ!!ソラだよ!!ソラ・ノルウィン!!」
やっぱりこいつはとんでもない女だ。そう心で悪態をつきながらこの後も魔獣狩りに付き合い、鐘の音とともにお互いに帰路についた。
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