第40話:大団円
タヴェルナ侯爵家も、カルカテルラ子爵家も、いつの間にかひっそりと表舞台からいなくなっていった。
セレーナもカーラも学校を去って行ったのだが、心配する友人も居なかったようで、話題にものぼらなかった。
それよりも大きな話題があったからかもしれない。
イレーニアとウルバーノ第三王子の婚約が発表されたのだ。
皆、ウルバーノの研究成果である魔導具の恩恵は受けているのに、その姿は知らなかった。
研究者にありがちなボサボサ頭に分厚い眼鏡で、猫背で地味な男を想像していた。
フェデリーカもロザリアも、例に漏れず、そう思っていた。
しかし実際にパーティーでイレーニアと並んだウルバーノは、サラサラの長い金髪を後ろで一つにまとめ、青い瞳が神秘的な美しい青年だった。
王族だから当然なのだが、所作も優雅で洗練されている。
イレーニアと並ぶと、1枚の絵画のようだ。
「綺麗……お人形さんにしてお部屋に飾りたい」
夜会会場でダンスを踊るウルバーノとイレーニアを見て、フェデリーカがうっとりと呟く。
「えぇと、フェデリーカさん?」
今日のエスコート役のジェネジオが声を掛けても反応しない。
「フェディ!?」
更に声を大きくして、やっとジェネジオの方へと顔を向けた。
「はい?」
振り返ったフェデリーカは、目がキラキラしてしまっている。
「もしかして、フェディもああいう整った顔の人が好みなの?」
どこか不安そうにジェネジオが問い掛ける。
「綺麗なものを見るのが嫌いな人って居ますか?」
キョトンとした顔で答えるフェデリーカに悪気は無い。
「……ソウデスヨネ」
意気消沈したジェネジオの後ろで、ダヴォーリオ公爵家の長男ヴァレンティと次男エルヴィディオが笑う。
この後、王家への挨拶がある為にダヴォーリオ公爵家が固まって居る。
フェデリーカは、ジェネジオの婚約者として挨拶をするのだ。
「王太子でも無いし、結婚したら王籍抜けちゃうから、絵姿も売りに出されないわねぇ、残念」
ロザリアがフェデリーカの横で呟く。
その横では、婚約者のディーノ・ザンドナーイ公爵令息が苦笑いしている。
「せめて結婚式の絵姿だけでも売りに出してくれるように、要望書として出してみる?」
「それなら、魔導具研究所兼工房が作られるザンドナーイ領の後継としてディーから出してもらおうよ」
「いや、勘弁してくださいね」
幼馴染みらしく、フェデリーカとロザリア、そしてディーノの三人が仲良く会話する。
フェデリーカがジェネジオの方へと笑顔を向ける。
「ねぇ、ジェイはティツィアーノ伯爵家の騎士団の団長になるのよね?
「え?なぜそんな結論に?」
焦ったジェネジオは、話の輪に加わる。
「仲が良くて羨ましいね」
エルヴィディオが笑いながら眺めていると、目が合ったディーノに手招きされる。
「どうやら他人事では無かったようですわ」
なぜかノリノリの婚約者がエルヴィディオの腕を引き、フェデリーカ達の方へと向かった。
「おやおや、仲が良い事だね。仲が良過ぎて、王家に謀反を疑われないようにしなくては」
ダヴォーリオ公爵が笑うと、後継者のヴァレンティが「冗談でも止めてください」と真顔で止める。
盛り上がる公爵家やフェデリーカ達の様子を、遠く離れた場所から胃を押さえながら眺めているのは、ティツィアーノ伯爵家だ。
「フェディ、大丈夫か?粗相してないか?」
フランチェスコは胃を押さえ、青い顔をしている。
「騎士候補と結婚してティツィアーノ領に住むって言うから二つ返事で了承したら、まさかの公爵家三男ですものね」
デルフィーナが扇で口元を隠しながら笑う。
「母上、笑い事ではありません」
後継者のアレッサンドロも父親と同じように胃を押さえ、青い顔をしている。
婚約者が心配そうに寄り添うが、中身はデルフィーナ似の侯爵令嬢だ。
オズヴァルドは急遽婿入りが決まり、今は婚約者の伯爵家と一緒にいる。
同じ伯爵家でも家格が上なので、侯爵家に近い位置に居る。
因みにティツィアーノ伯爵家は、子爵家に近い位置だ。
「はっはっはっ!やっと儂の気持ちが解ったか!」
胃を押さえるフランチェスコの背中をバンバン叩くのは、ロザリアの父であるベルティネッリ伯爵である。
お披露目のダンスも終わり、王家への挨拶が始まった。
ティツィアーノ伯爵家の胃痛以外は、何事も無く、平和である。
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