第25話:噂と嘘と




 翌日から、昼休みにカーラが独りで居る所をよく見かけるようになった。

 スティーグは懲りずに、昼休みにフェデリーカに愛の告白を行いに来る。

 もしかしてベッラノーヴァ侯爵令息は、本気でティツィアーノ伯爵令嬢を愛しているのでは?

 そんな噂が囁かれ始めた。


 しかしスティーグの行動が嘘である事を1番理解しているのは、当の本人であるフェデリーカだった。

 なぜなら、スティーグもベッラノーヴァ侯爵家も、あの後ティツィアーノ伯爵家に一度も来ていない。


 真っ当な方法でよりを戻したいのならば、まずは家を訪ねるのが当然だろう。

 そうでは無いのは、力尽くでよりを戻した際に、愛によるものだと周りに思い込ませる為だと予想出来た。

 もしかしたら、この噂自体がベッラノーヴァ侯爵家が流したものかもしれない。


 それにスティーグにないがしろにされているはずのカーラが、痩せもやつれもせず、変わらず色艶が良いのもおかしい。



「フェデリーカ!今日も君は美しいね」

 貼り付けた様な笑顔でスティーグが声を掛けてくる。

 フェデリーカとロザリアは露骨に嫌な顔をし、イレーニアは無表情になる。

 それに気付かないはずは無いのに、スティーグは気にせす、にこやかに話を続ける。


「今度うちの屋敷で、小規模なパーティーを開くんだ。来てくれるよね?」

 勿論ドレスを贈るよ、と、まるでフェデリーカが参加するのが当然のように言う。

「お断りいたしますわ。行く理由がございませんもの」

 フェデリーカがニコリともしないで断る。


 チッ。舌打ちが聞こえた。

 その小さな音は、フェデリーカ達三人にしか聞こえていないだろう。

 やはり本質は変わっていないのだ、とフェデリーカは妙に納得した。




 キッパリと皆の見ている前で断ったにもかかわらず、なぜかパーティーにはスティーグのパートナーとしてフェデリーカが参加すると噂になっていた。

 しかも婚約者として正式に発表するらしいとまで言われている。

 ここまでくると、やはり噂の元はベッラノーヴァ侯爵家しか考えられない。


「まだベッラノーヴァ侯爵家から招待状は届いていませんの?」

 イレーニアに聞かれ、フェデリーカは無言で頷く。

「今は招待状を送っても、断られるに決まってるものね」

 ロザリアの言葉に、嫌な顔をしたのはフェデリーカだけでは無い。

 兄のオズヴァルドも顔を歪める。


 今断られる……その言葉の意味するものに、薄ら寒くなる。

 ティツィアーノ伯爵家としては、この先一生了承するつもりは無い。

 それなのに、返事が変わるとしたら……。


「フェデリーカ嬢、絶対に一人になるなよ」

 オズヴァルドと同じか、それ以上に真剣な表情をしたジェネジオが、フェデリーカを見つめながら言う。

「はい」

 勿論一人になるつもりの無いフェデリーカは、素直に返事をする。



 しかし、本人の意思とは別に、意外と早くその機会は訪れてしまった。

 その日は王族の婚約者としてどうしても外せない予定があり、イレーニアは学校を休んでいた。

 ジェネジオも同じ用事で、公爵家として休んでいた。

 後日判明するのだが、隣国の姫がお忍びでダヴォーリオ公爵家へと滞在していた。


 オズヴァルドは、授業が長引いているのかまだ現れていない。

 ロザリアは先生が呼んでいると、他の生徒が呼びに来て行ってしまった。

 フェデリーカは昼休みの教室で、ポツンと座っていた。


 まだ数人の生徒が教室にいるので、完全な一人では無い。

 オズヴァルドが来るか、ロザリアが戻って来るか……一人で行動するよりマシだろうと、大人しく席で待っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る