第24話:瑕と傷




 スティーグの手がフェデリーカへと伸ばされた瞬間、教室の前の扉が開かれた。

「午後の授業を始めるぞ。他のクラスの者は出て行け」

 教師の声に、スティーグは舌打ちをして教室を出て行った。


 教室内の微妙な空気を感じながらも、教師は授業を始めた。

 何事も無く午後の授業は終わり、終業の鐘と共にフェデリーカ達三人は教室を後にする。

 またスティーグが来る可能性を考えての行動だった。


 行先は、オズヴァルドの教室である。

 ジェネジオとスティーグは同学年なので、向かっている途中でスティーグに遭遇する危険があった。


 オズヴァルドと合流したフェデリーカ達は、馬車待ちの待合室へと向かう。

 ジェネジオは、イレーニアの護衛が呼びに行っている。

 しかも待合室でも、護衛が控えずに護っていた。

 無論、スティーグ対策である。




「なぜ、婚約を戻せると思っているのかしら?馬鹿なのかしら?」

 辛辣な言葉を口にしたのは、ロザリアだった。

「政略結婚の意味を履き違えてるわ。家同士の繋がりで離れられないからこそ、お互いに理解しあい、大切に関係を築くべきだったのでしょうに」


 ロザリアとディーノは、親に決められた婚約者だ。

 政略結婚では無いが、ありがちな親同士が友人で……というものだ。

 この二人は、婚約者としての初顔合わせの時点でお互いを尊重しあい、幸せな家庭にしようと話し合うような子供だった。

 今では相思相愛な間柄である。


 そんなロザリアだから、大人になってから婚約したのに、馬鹿な事を言って愚行を繰り返すスティーグが許せないのだ。

 政略結婚だから婚約破棄など出来るわけないだろう?というスティーグの、好き勝手やって良いという自分勝手な理論も許せなかった。



「1番怖いのは、力尽くで婚約者に戻る事ね」

 ロザリアの言葉に、全員が固まる。

 おそらくロザリアは食堂からずっと、その可能性を考えていたのだろう。


 婚約破棄でのきずではなく、純潔を散らす意味での傷物になると、真っ当な結婚は難しくなる。

 傷を付けた相手か、どこかの地方貴族の後妻か、貴族と繋がりたい豪商に嫁ぐ事になるだろう。

 どれにしても、幸せな結婚とは程遠い。


 カーラが内々ではあるが、第二夫人が決定しているのも、そういう事だろう。

 既にスティーグが責任を取らねばならない、そういう関係なのだ。

 もっとも、カーラは自身の意思での婚前交渉なので、ある意味幸せではある。


「絶対に一人になるなよ!フェディ!」

 オズヴァルドがフェデリーカの肩をガッシリと両手で掴んで揺さぶる。

「わ、わか、わかりま、した」

 頭を大きく揺らしながら、フェデリーカは何とか返事をした。


 翌日からは、王家の護衛が一人、こっそりとフェデリーカに付けられた。

 勿論、イレーニアに頼まれた第三王子が付けてくれた者である。

 その「こっそり」は、本人にも秘密だった。

 なぜなら、フェデリーカの行動が不自然にならないように、である。


 そしてこの事を、フェデリーカを含むティツィアーノ伯爵家は、本気で感謝する事になる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る